機能したハイプレス
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ジャマイカを迎えた親善試合で前線に起用された3人は、それ以前の五輪代表候補とは少し違っていた。前田大然、旗手怜央、安部裕葵のトリオはジャマイカのDFにハイプレスをかけ続け、組み立てを機能不全に追い込んでいた。
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アタッカーにクリエイティブな選手の多い東京五輪世代の中で、このトリオはある種異彩を放っていた。創造性もある3人だが、それよりもジャマイカ戦で見せたのはハイプレスの威力であり、それは他のセットには見られない特徴だったといえる。ジャマイカ戦が9-0の大勝利だったので印象も強い。
相手に引かれたときにどう崩すかは、この年代にかぎらず日本代表と名の付くチームにとって共通の課題だ。ある程度ボールを支配することはできるが、スペースを消されると攻めあぐむ。ところが、攻撃ではなく守備で崩してしまえば話は簡単なのだ。
攻撃と守備ではポジショニングが変化する。攻撃ではなるべく相手の正面には立たず、圧力を受けにくいポジションになるが、守備のポジショニングは逆に相手の進路に立つ。攻撃と守備では動き方が反対になるわけだが、ボールを奪って攻撃に移行しようとした瞬間にボールを失うと、守備のためのポジショニングになっていないので崩れやすいのだ。
つまり、ボールを保持して相手の守備を崩さなくても、敵陣でボールを奪えば労せず相手の守備は崩れている。
それほど体力を消耗しないはず
これを強力に推し進めているのがプレミアリーグで敵なしのリバプールである。早く攻め込み、相手のボールになってもそのままプレッシャーをかけて敵陣で奪回してしまう。日本代表でヴァイッド・ハリルホジッチ監督が導入しようとして不発に終わったやり方だが、ジャマイカ戦は前線の3人が先導して上手くやれていた。
前田はハイプレスのスペシャリストだ。スプリントの速さは驚異的で、とくにGKへのバックパスに詰め寄る速さは相手の予想を超え、しばしばGKのキックをカットする。安部、旗手もアジリティに優れ、寄せきる強さと速さがある。
ただ、安部がバルセロナBの試合で負傷してしまった。復帰には時間がかかりそうで東京五輪には間に合わないかもしれない。ジャマイカ戦でのハイプレスを先導した安部が欠けるのは痛いが、オーバーエイジ枠を使って南野拓実を招集できれば、ハイプレス戦法は可能だろう。ザルツブルクとリバプールでこのやり方は体に染みついているに違いない。
問題は五輪開催時の気候だ。高温多湿が予想される東京五輪で、どこまでハイプレスができるのかは心許ない。だが、実はハイプレスは上手くやればそれほど体力を消耗しないはずである。6、7人がいっせいに動くので、ダイミックで体力的にきつそうに見えるが、1人1人は10メートルぐらいしか動いていないことが多いのだ。もちろん、その同時性を五輪代表が持てるかというと、さらに心許ないのだが、暑いから不可能というわけでもない。90分間は無理でも、時間限定のオプションとしてなら有効かもしれない。
(文:西部謙司)
【了】