1人だけ浮いていた低調なベイル
会心の勝利を収めたレアル・マドリーにおいて、ガレス・ベイルだけは別の次元にいたかのような存在感の薄さだった。
【今シーズンのレアル・マドリーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
会心の勝利を収めたレアル・マドリーにおいて、ガレス・ベイルだけは別の次元にいたかのような存在感の薄さだった。
現地9日に行われたラ・リーガ第23節のオサスナ戦で、マドリーは先制を許したものの、最後は4点を奪っての快勝。今季、アスレティック・ビルバオとレアル・ソシエダというバスクの2チームしか勝ち星を奪えていなかった難関エル・サダールを正面突破で攻略していった。
技ありボレーシュートで今季初ゴールを挙げたイスコは、攻守にわたって献身的にピッチを駆け回った。ある時は極上のテクニックで魅せ、またある時は体を投げ出して相手の侵攻を食い止める。カリム・ベンゼマもあらゆる局面に顔を出してチャンスメイクにフィニッシュに、多彩なプレーの引き出しを披露した。
トニ・クロースという司令塔を欠く中で、今季は低調ぶりを指摘されることが多かったルカ・モドリッチも躍動した。アシストこそついていないが、マドリーの2点目を演出したコーナーキックや、4点目のきっかけとなったフェデリコ・バルベルデへのスルーパスなど、随所に卓越した技術とビジョンを散りばめた。途中出場のチャンスをもらったルカス・バスケスやルカ・ヨビッチも、貪欲な姿勢でゴールを奪って起用に応えた。
一方、ベイルはほとんど“空気”だった。爆発的なスピードを生かしたドリブル突破が鳴りを潜め、守備のために走るわけでもなく、絶好のお膳立てがあってもシュートを決めきれない。カウンターの場面でスプリントをかけてゴール前に顔を出すこともない。ミスをすれば天を仰いで立ち止まり、ボールを失っても守備への切り替えが遅い。終始動きが鈍く、相手からすれば怖さはなかっただろう。オサスナの左サイドバック、ペルビス・エストゥピニャンは度々ベイルの背後を突いて攻め上がり、10本もの豪快なクロスを蹴り込んだ。
オサスナデータを見ても、低調ぶりが表れていた。ベイルのパスの本数はGKティボ・クルトワの28本よりも少ない26本(うちロングパス1本)。パス成功率は80.8%だったが、これは42本のパス(うちロングパス7本)を蹴ったイスコの85.7%よりも低い。シュートチャンスに結びつくようなキーパスは1本もなく、シュート3本を放って枠内に飛んだのはゼロだった。
ピッチを後にする際のファンの反応も、ベイルのパフォーマンスを象徴しているようだった。71分にルカス・バスケスとの交代を命じられ、「最も近いタッチラインから外に出る」と定められた新しい競技規則を無視(ヒル・マンサーノ主審も特に咎める様子はなかった)して自軍ベンチ側へとゆっくり歩いていったマドリーの背番号11には皮肉交じりのブーイングが贈られた。
スペイン全土どこに行っても嫌われ、エル・サダールでも例に漏れずありとあらゆる罵詈雑言を浴びせられ、ライターまで飛んでくるセルヒオ・ラモスへのものとは明らかに質が違う。オサスナのファンたちも事情を理解しているからか、ベイルに対しては「ようようそこの兄ちゃん、よく頑張ったな。今日は助かったぜ」といった嘲笑交じりのブーイングに聞こえた。
ベンチ外試合での“早退”が物議を醸し…
今季のベイルは、これまで以上にパフォーマンスのレベルが落ちている。度重なる負傷の影響もあったが、すでに完治してプレーできると言われていながら直近の公式戦4試合連続でベンチ外に。今季はオサスナ戦を含めて公式戦で16試合しかピッチに立てておらず、3ゴール2アシストと結果も出ていない。この1ヶ月で出場したのは、3部のウニオニスタス・デ・サラマンカと対戦したコパ・デル・レイの1試合のみだった。
さらにファンの不評を買ったのは、ベンチ外になった現地6日のコパ・デル・レイ準々決勝での振る舞いだった。レアル・ソシエダに1-4とリードを許していた状況の82分にサンティアゴ・ベルナベウの駐車場から自家用車に乗って颯爽と出ていく姿が目撃されていたことだ。ベイルは仲間たちが3-4まで追い上げる怒涛の反撃を見届けず、帰路についた。
彼がベンチ外になったホームゲームで試合終了を待たずに帰宅することは初めてではなく、過去に何度もあった。もはやそれを狙ってか、駐車場の出口にメディアのカメラが事前にスタンバイしているくらいで、クラブの規則でも80分までスタジアム内にとどまっていれば良いことになっている。だが、“早退”を繰り返すことでマドリーへの忠誠心や、チーム内での孤立を疑われるようになっているのは間違いないだろう。
ただでさえプレーの精彩を欠くベイルにさらなる批判の矛先が向くことになったのは、ソシエダ戦の2日後にスペイン紙『アス』が掲載した彼の代理人ジョナサン・バーネット氏の独占インタビューだった。微妙な情勢で公開された記事の中では、例の“早退”についても触れられていた。
「何が間違っているんだ? 彼は家に帰りたかったんだ」
これがバーネット氏の言い分だった。記者が「(ファンのためにも)彼はあのような小さなことも気にすべきでは?」と問うと、「なぜ?」と返す。顧客であるベイルを擁護するためのインタビューのつもりだったのだろうが、批判が集中する最中に掲載されたうえに、読み進めていくと墓穴を掘っているようにも感じる内容だ。
ベイルは「週に5日練習できない」?
ベイルのことを「彼が15歳か16歳の頃から、両親のこともよく知っている」というバーネット氏はメディアが一方的に報じるウェールズ代表FWの憶測を真っ向から否定し、「彼らは自分が知らないことについて話し、まったくもって馬鹿げたことを書いている」と非難した。
例えば「ベイルはスペイン語を話せないと言う人間は、彼のことを知らない奴だ」といった具合に。ただ、重要なことも言っていた。バーネット氏は「ベイルは怪我を恐れているのか?」という質問に「それは100%間違いない」と答えている。しかも、問題は「1つではない」とも明かしたのだ。
最も物議を醸した発言も、ベイルの負傷癖やコンディションに関するものだった。
「彼は多くの負傷を経験し、それらを心配している。彼は週に5日は無理で、それほど多く練習できない。適切に処理する必要がある。だが、彼は元気でプレーできる」
当然、オサスナ戦前日の記者会見でベイルの状態について質問が及び、ジネディーヌ・ジダン監督は「週5日練習できない説」を否定している。そして「彼はこれからもハードワークを続け、我々も彼を戦力として考えている」と信頼を強調した。ソシエダ戦での“早退”も「そもそも問題のないこと」と言明していた。
とにかく話題に事欠かないベイルにとって、オサスナ戦は貴重なアピールのチャンスだったはずだ。しかし、ピッチ上で見せたパフォーマンスからは貪欲さや愚直さが感じられず、運動量の少なさによってコンディションの悪さも露呈する始末。
ジダン監督は「最近の試合は出場していなかったが、今日はピッチに立っていた間、攻守両面で良かったと思っている。彼は大切な存在だ。問題なのは、我々と彼との間に問題があることを望まれている、ということだ。だが、そんなものはそもそも存在しない」と再びベイルを擁護した。
それでも「攻守で全力だったが、フィジカル的にやや疲れが見られたため交代した」と万全でないことは認めている。「終盤戦まで多くのものをもたらしてくれるだろうし、我々は戦力に数えている」とは言いつつも、出場機会は今後も限定的なものになっていくだろう。
今のベイルはマドリーの選手にふさわしいパフォーマンスを見せているとは言いがたく、完全に“失格”の烙印を押されてもおかしくない。何度チャンスを与えられても、かつてのような躍動感は戻ってこないのだ。
代理人のバーネット氏はベイルが「マドリーで幸せ」だと繰り返し強調し、2022年夏の契約満了までクラブにとどまるつもりだと語った。そして「フロレンティーノ(・ペレス会長)はまだ彼に恋していると思う。いい関係がある」とも。
だが、移籍市場が開くたびに放出候補に挙げられ、ヘッドラインの常連になる30歳は現状を大きく変えるキッカケすら掴めていない。少年時代からサポートしてきた代理人が夢想するよりも、ベイルの未来はずっと不確かで厳しいものになるはずだ。
(文:舩木渉)
【了】