「ACLの土俵にすら立てない」悔しさ
「四冠獲得を掲げてきたなかでひとつを落としたことは、洒落にならないというか、本当に残念です」
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冷たい雨が間断なく降り続いたピッチで、後半に失った1点を取り返せないまま90分を終えた試合後の取材エリアで、右サイドバックでフル出場した広瀬は絞り出すように第一声を残した。タッチラインを割ったボールを拾った広瀬が、スローインの体勢に入った直後に終戦を告げる笛が鳴り響いた。
広瀬を含めた6人の新戦力が先発に名前を連ねたアントラーズは、決してチャンスを作れなかったわけではなかった。特に右サイドからは広瀬が何度もオーバーラップを仕掛け、ゴールの予感を抱かせる鋭いクロスを何本も供給していた。右サイドハーフに入った同じく新加入のブラジル人選手、ファン・アラーノともまずまずの連携を見せたが、広瀬は自らにダメ出しをした。
「身体は動けていましたけど、この試合は絶対に結果が大事だったので。試合内容がどうのこうのというよりも、勝てなかったということが、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)の土俵にすら立てないということが一番悔しい。もっとボールを動かして、もっと相手を揺さぶることも必要でした」
マリノスを飛び出した理由
昨シーズンはけが人が続出し、ボランチを主戦場する永木亮太や小泉慶がスクランブルで右サイドバックを務めたことを考えれば、まさかの黒星を喫したなかで数少ない収穫のひとつが広瀬のパフォーマンスとなる。その広瀬にあえてマリノスを飛び出した胸中を、あらためて直撃してみた。
「自分としては、何て言えばいいのか……チャレンジしたいというか、今後のサッカー人生で自分に必要なものが、ここで得られると思って来ました。自分のなかではいい部分を伸ばすのではなくて、自分にはないところを求めているので」
自分に足りないものとは、果たして何なのか。一転して「それは言えないんですけど」と答えを封印した広瀬は、前出の新体制発表会見で昨シーズンにマリノスの右サイドバックとして2度対峙し、1勝1敗の星を残しているアントラーズの印象をこう語っている。
「ひとつひとつのデュエルで激しく来ていたし、実際に加入してそういう練習をするなかで、ボールへの執着心を強くもっていることがわかる。自分はこれという特長をあまりもっていませんけど、基本である戦うという姿勢をピッチで表現できれば、と思っています」
マリノス時代を含めて、これまでも戦っていないわけではない。ただ、敵として対峙したアントラーズからデュエルにおける数々の攻防を介して、ライバル勢の追随をまったく許さない、国内外で20個ものタイトルを獲得してきた理由を肌で感じ取ったのではないだろうか。
シーズンが進めばわかる
フォワード出身ならではの攻撃力を、身長176cm体重68kgの身体に広瀬は搭載している。そこへクラブ全体に脈打つデュエルの激しさ、黎明期から受け継がれてきた敗北の二文字を拒絶するDNAを身にまとい、上手さに身体と心の強さを融合させたいと思い描いている、と考えれば合点がいく。
肝心な部分では言葉を濁す広瀬へ、あらためて聞いてみた。アントラーズの一員としてプレーしていくシーズンが深まっていけば、見ている側にも足りないものが何かわかるのか、と。首を縦に振りながら「わかると思います」と返した広瀬は、ちょっぴり照れた表情を浮かべている。
1日に行われたホーリーホックとのプレシーズンマッチで、右サイドバックで先発した元日本代表の内田篤人が右太ももを痛めて戦線離脱した。右下腿三頭筋の損傷で全治まで約4週間と診断されたなかで、16日の名古屋グランパスとのYBCルヴァンカップのグループリーグ初戦、そして23日のサンフレッチェ広島との明治安田生命J1リーグ開幕戦へ向けて、広瀬が放つ存在感がより高まってくる。
(取材・文:藤江直人)
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