イブラヒモビッチが不在
ミランにとって悪夢とも言える一報が飛び込んできたのは、現地時間1日のこと。冬に加入し、その絶大なる存在感を放ち続けていたFWズラタン・イブラヒモビッチがインフルエンザを患い、2日に行われるセリエA第22節のエラス・ヴェローナ戦を欠場することが発表されたのである。
イブラヒモビッチはミラン加入後、38歳という年齢ながらもピッチに立ち続けハイパフォーマンスを維持していた。最前線での存在感は別格で、とにかくボールを収めては攻撃を加速させている。第19節のカリアリ戦ではゴールも記録。昨季ブレイクを果たしたFWクシシュトフ・ピョンテクから、あっという間に定位置を奪った。
そんな元スウェーデン代表FWが不在となるヴェローナ戦。ミランにとっては大ピンチと言えた。イブラヒモビッチ加入後、彼を中心としたサッカーを展開してきたのだから、それも当たり前だ。その状況をどう打開し、勝利を奪うのか。ホームでの一戦で、ステファノ・ピオーリ監督の手腕が試されることになった。
ミランは4-4-2でヴェローナ戦に臨んでいる。2トップはここ最近好調のFWアンテ・レビッチとFWラファエル・レオン。MFイスマエル・ベナセルやMFラデ・クルニッチらが不在となっていた中盤底にはMFフランク・ケシエと、コッパ・イタリア準々決勝のトリノ戦で2ゴールと爆発したMFハカン・チャルハノールがコンビを組んでいる。
先制点を奪い、試合の主導権を握りたかったミランだが、立ち上がりからヴェローナにボールを保持される展開になった。3-4-2-1システムを採用してきたアウェイチームは、人と人との間をうまく使いながら敵陣に侵入。ダイレクトパスも織り交ぜながら、ミランのプレッシャーを的確に回避していた。
すると13分、ミランは左サイドを崩されると、MFマッティア・ザッカーニの鋭いクロスをDFダビデ・ファラオーニに沈められ先制点を献上。試合の入りとしては最悪だった。
1点を返したいミランは、その後レビッチを中心に攻撃を組み立てる。しかし、守備時は5バックを敷き、中央を固めてくるヴェローナに苦戦。クロスはことごとく跳ね返され、セカンドボールも簡単には拾わせてくれなかった。攻撃は外へ外へと追い出され、ミランはなかなかゴールに近い位置でプレーすることができなかったのである。
ミランが露呈する数々の脆さ
それでも、ミランはなんとか同点に追いついた。27分、ペナルティエリア手前やや左でMFジャコモ・ボナヴェントゥーラがファウルを受け、フリーキックを獲得。これを、チャルハノールが直接沈めた。
セットプレーによるワンチャンスを見事モノにしたミラン。その後は落ち着きを取り戻したのか、ヴェローナに対しボールを保持する展開が長く続いた。レビッチはサイドに開くなど果敢なポジション変更を行い、チーム内最多得点者であるDFテオ・エルナンデスも積極的に前線へ飛び込むなど、厚みのある攻撃を繰り出す。何度か決定的な場面も作り出している。
しかし、気になったのがカウンターへの対応。とくに中盤での強度だ。この日はベナセルもクルニッチも不在であり、チャルハノールが中盤底の位置で起用されていたが、彼はあまりにも守備の対応が軽すぎる。これまでの試合でもそうなのだが、背番号10は人ではなくボールにアタックすることが多い。つまり、簡単に足を出してしまうということだ。
もともと守備に定評がある選手ではなく、身体もそこまで強いタイプではない。もちろん、サイドハーフで出場した際には、ハードワークで後方の選手をサポートすることもある。しかし、中盤底というポジションで起用されるとどうしてもそのあたりの脆さは浮き彫りとなってしまう。ベナセルやクルニッチらのこれまでのパフォーマンスと比べても、チャルハノールに中盤底のポジションを任せるのは酷だったのではないか。
この日のヴェローナは3-4-2-1システムであった。チャルハノールが外されると、その分ケシエへの負担が増える。2シャドーが同選手の脇を突いてくるからだ。ミランはここを捕まえきれず、後手に回っていた。
ただ、ミランの問題はそこだけではない。右サイドバックのクオリティもかなり低かった。DFダビデ・カラブリアだ。
カラブリアの持ち味は積極的な攻撃参加であるが、クロスやフィニッシュといったところの精度があまりにも低い。もともと守備には改善の余地があるとされていたが、この日もそのあたりの課題は改善されず。ポジショニングの悪さから裏を突かれるシーンも多く、その後の対応も効果的ではない。もちろん個人の問題ではない部分もあるが、スタメン起用されるには力不足過ぎる。
これは試合後のデータになってしまうが、この日のヴェローナは左サイドからの攻めが実に51%を占めていた。カラブリアは明らかに狙われたのである。ミランの右サイドがそこまで強くないということを、ヴェローナ側も十分理解し、左サイドの攻めに重点を置いたと言えるだろう。
改めてわかる背番号21の偉大さ
しかし、数々の課題を露呈したミランだが、なんとかヴェローナの攻撃に耐え1-1で後半を迎えている。
後半はミランがボールを保持し、ヴェローナがカウンターの機会をうかがうという展開に。ホームチームはボールを外へ中へと流れるように動かして相手のDF陣を揺さぶっていた。
ただ、68分の出来事が試合の運命を左右した。ヴェローナのMFソフィアン・アムラバトが足の裏でFWサム・カスティジェホを蹴ってしまい、一発退場。アウェイチームは残り20分を10人で戦わなければならなくなった。
するとイバン・ユリッチ監督は引き分け狙いへとシフトチェンジ。ヴェローナは10人全員が自陣へ戻り、守りを固めてミランに対応したのである。
そうなると当然、ミランは攻めに人数を集めることができる。全体的に高いラインを保ち、波状攻撃を仕掛けた。サイドバックの選手も、最後はウイングのような位置でプレーを継続している。
しかし、途中出場のMFルーカス・パケタから何度か良いパスが通ったものの、フィニッシュの精度を欠いたミラン。クロスボールに対する強さはヴェローナに分があり、地上戦での勝負を余儀なくされた。
ただそうなると、引いた相手に対しミランの攻撃は停滞する。そもそも、ブロックを築く敵を前に崩し切る術を持っているチームではない。イブラヒモビッチが不在なら、なおさらだ。案の定、レビッチが外に開くことでレオンが中央で孤立。ボールを収めることができず、外に逃げてはゴールから離れた位置でアクションを起こす。敵陣深いエリアまで侵入しながら、この繰り返しだった。
こういった試合こそ、イブラヒモビッチのような存在は必要だった。ボールを収め、周りを生かせ、パワープレーでも強さを出すことができる同選手の特長は、引いたヴェローナのような相手に対してこそ効果を発揮する。相手のDFも対峙するのがイブラヒモビッチとなれば、いつも以上に的確な守備を見せなければならない。そのプレッシャーが、時に集中力を奪うこともある。
いない選手のことを言っても仕方がないが、「いれば」と思ってしまうのも事実だ。背番号21という存在が、それだけ大きいということが改めてわかった一戦でもあった。
試合は1-1のまま終了。ミランは2020年の公式戦で無敗を維持しているが、勝ち点1を奪うに留まった。ベナセル、イブラヒモビッチら主力を欠いた中での試合。その影響は、やはり大きかった。
なお、この試合では後半ATにMFダニエル・マルディーニがピッチに登場。祖父のチェーザレ氏、父パオロに次ぐ3代目マルディーニが、ついにセリエAデビューを果たしたのだ。
ただ、試合は残念ながら引き分け。ダニエルにとってのセリエAデビュー戦はほろ苦く、それよりもイブラヒモビッチ不在の影響が目立つ結果になってしまった。
(文:小澤祐作)
【了】