手際よく補強を進めた鹿島
Jリーグの各クラブは日本国内の温暖な地域でプレシーズンキャンプを開始し、AFCチャンピオンズリーグの予選もすでに開催されている。移籍市場は3月27日まで開いているとはいえ、2020シーズンに向けて形作られつつあるチームに目を向けてみるには良い頃合いだろう。
昨年ダビド・ビジャがヴィッセル神戸に加入したような、あるいは2018年1月に名古屋グランパスがジョーを獲得したような、ニュースを賑わす大型補強は今のところ行われていない。それでもいくつかのクラブは移籍市場で非常に効果的な動きを見せている。
一方で、まだ新しい血が不足しているように感じられるチームもある。今後の数週間にも補強が実行されなかったとすれば、昨年の戦いに上積みを加えるのは難しいと見込まれることになりそうだ。
まずは、シーズン開幕1ヶ月前を迎えた時点で順調に動いているチームから見ていこう。
鹿島アントラーズは、普段のピッチ上での戦いぶりと同じくらいピッチ外でも手際よく効果的な動きを見せた。長春亜泰へと移籍したセルジーニョを失ったのが痛手であることは間違いないが、1月3日から4日にかけての24時間のうちに4人の若手選手の加入とレンタル選手の出入りを全て完了させている。
日本で最も成功を収めてきたクラブである鹿島は、2019年には両サイドバックのポジションで苦戦を強いられる時期が長かった。今季はその繰り返しを避けるため、Jリーグでもトップクラスの3人である杉岡大暉、広瀬陸斗、永戸勝也をチームに迎え入れた。
それに加えて奈良竜樹と和泉竜司もJ1レベルで力を証明済みの選手たちであり、効果的な補強だと感じられる。今年の新たなブラジル人選手であるファン・アラーノとエヴェラウドにもセルジーニョの穴を埋められるポテンシャルがあり、アントラーズで成功を収めてきた数多くのブラジル人たちの系譜に名を連ねることができるかもしれない。
前者はパス出しの感覚に優れた選手であり、中盤に新たな創造的オプションを加えることが期待される。後者はペナルティーエリアやその周辺での存在感とゴールへの脅威をもたらす存在となるだろう。まさにそれこそが、昨季の戦いが佳境を迎えた時、鹿島に決定的に欠けていた部分だった。
メンバーを大幅に刷新した湘南と大分
湘南ベルマーレも、昨季を終えた時点より戦力を向上させたと感じられるチームのひとつだ。辛うじて降格を免れたチームは、そこから順調にメンバーを刷新することに成功している。
前線にはノルウェー代表のタリク・エルユヌシの補強が大きい。石原直樹(35歳)と岩崎悠人(21歳)の2人も、それぞれ異なるタイプの経験をファイナルサードにもたらしてくれるオプションとなりそうだ。
大岩一貴と馬渡和彰の2人は、チームを去った山根視来と前述の杉岡の穴を堅実に埋められる戦力となる。中盤にも茨田陽生と三幸秀稔というボール扱いに優れたMFたちを加えることができた。
同じくボールを繋いで戦うことを好むチームである大分トリニータも効果的に新加入選手を加えた。サプライズを引き起こした昨季に続いて、2020年も新たな挑戦に乗り出していくことになりそうだ。
オナイウ阿道はチームを去ったが、新加入の渡大生と知念慶はどちらも才能あるストライカーであり、ゴール前の危険なポジションに入り込むことができる。彼らがゴールネットを揺らすためには試合の中で何度かチャンスが必要となることもあるが、片野坂知宏監督のチームは中盤に佐藤和弘や町田也真人、野村直輝も加えており、数多くのチャンスを前線に提供することができるだろう。
静かな神戸と浦和
一方でヴィッセル神戸は、ここまでのところ珍しく静かにしている。だが過去2年間に派手な騒ぎを引き起こしたクラブとしては、今回はこの状況こそが必要なものだったのかもしれない。
負傷と(ピッチ内外での)不満の絶えない2年半を過ごしたルーカス・ポドルスキはついにチームを離れた。クラブ史上初タイトルを獲得した昨季の戦いを通してトルステン・フィンク監督が築いたバランスは崩さないまま、Jリーグで得点力を証明してきたドウグラスを清水エスパルスから、才能ある若手CB菊池流帆をレノファ山口FCから獲得したことで、重要なポジションに新たなクオリティーを加えることに成功している。
天皇杯での優勝にさらなる上積みを加え、今年はリーグ戦でも去年以上の戦いを見せたいとヴィッセルは望んでいることだろう。だが一方で、2019シーズンの順位を改善することを目指しながらも、ここまでの移籍市場で不安なまでに静けさを保っているチームもふたつある。
まずは浦和レッズだ。昨季は最後まで目を覚まさぬまま14位でフィニッシュし、最終的にはわずか1ポイント差で辛うじてJ1参入プレーオフ出場を免れた。チーム改革が必須だと感じられたが、大槻毅監督に引き続き時間を与える決断を下しただけでなく、補強の面でもほとんど動きは見られない。埼玉スタジアムに新たにやって来た即戦力はアルビレックス新潟のFWレオナルドだけだ。
このブラジル人ストライカーは昨年のJ2で28ゴールを挙げて得点王を受賞する見事な結果を残した。その1年前にもガイナーレ鳥取で24ゴールを叩き出し、J3得点王に輝いていた。だがJ2への適応にはある程度の時間を要し、シーズン前半戦を終えた時点では8得点にとどまっていた。浦和でも同様のスロースタートを強いられたとすれば、彼の置かれる状況は難しいものにもなりかねない。
(編注:1月28日に浦和レッズは、メルボルン・ビクトリーからU-23オーストラリア代表DFのトーマス・デンを獲得した)
札幌は大卒選手を加えただけ
2018年にAFCチャンピオンズリーグ出場権獲得に迫った北海道コンサドーレ札幌は、昨季は大きく順位を落として10位に終わった。だが本稿執筆時点で彼らが見せた主な動きといえば、期限付き移籍で加入していたルーカス・フェルナンデスおよび菅野孝憲と完全移籍の契約を交わしたことだけだ。(編注:2月2日にブラジルのルヴェルデンセからブラジル人FWドウグラス・オリベイラを期限付き移籍で獲得したことを発表)
大卒の新人選手3人をチームに加える一方で、放出した選手も湘南に期限付き移籍した岩崎のみ。だが直接のライバルとなる他クラブはいずれも昨年より強化を進めている。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が新シーズンに何らかの結果を残す野心を抱いているのであれば、移籍市場終盤に多少の補強が必要となることは間違いない。
鹿島とともに昨季のトップ4を占めた王者横浜F・マリノス、2位FC東京、4位川崎フロンターレの3クラブが進めてきた選手の放出と獲得は、いずれも堅実ではあるが派手なものではない。大型補強を行ってはいないが、主力選手を失うこともないオフシーズンを過ごしており、引き続き上位近辺を維持できる力を持ち続けると考えられる。
もちろん時間はまだ潤沢に残されている。今後の数週間に各監督がメンバーに手を加えることで勢力図が変わってくるかもしれない。だが選手の加入は早ければ早いほどチームへの融合も早まり、戦いの幕が開く2月末に順調なスタートを切ることができる可能性は高くなると言えるだろう。
(文:ショーン・キャロル)
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