ネイマールの評価が向上
開幕当時はスタンドのサポーターから「出て行け!」などと手痛いヤジを浴びたが、今では『オールスター級』と、評価が急上昇しているネイマール。12月に入ってからは、直近の1月26日の第21節リール戦まで毎試合ゴールを決め、この間だけで9得点5アシスト。リーグアン出場50試合で47得点は、同リーグで3度年間得点王となったズラタン・イブラヒモビッチ(43得点)をも上回る、約70年ぶりのハイペースだ。
リール戦では、前半戦、アンヘル・ディ・マリアから受けたボールをトラップしたあと、マルコ・ヴェラッティとのパス交換からゴールの高い位置を狙ったスキルフルなシュート。後半にはキリアン・ムバッペが倒されてゲットしたPKを決めて2点をマークした。
1点目を決めたあとは、カメラに向かってお茶目顔をするほどはっちゃけていたが、PKを決めたあとは、泣きそうな顔で天を仰いだ。ハーフタイムに、コービー・ブライアント氏が事故死した悲報を知ったからだった。
現地メディアでは、「ネイマールは生まれ変わった」という記事が目につく。夏の間はバルセロナへの復帰を熱望していたものの叶わず、パリ・サンジェルマン(PSG)に残ることになったことで気持ちを入れ替え、前向きに取り組んでいる、というシナリオだ。
ネイマールもリール戦のあとカナル・プリュス局のマイクに向かって「今シーズンはPSGに完全に集中している。これまでで最高のコンディションだ」と充実ぶりを語っている。
11月26日のチャンピオンズリーグ(CL)・グループリーグ第5節、レアル・マドリー戦で2-2と苦戦したあと(2-0でリードされ、80分を過ぎてからキリアン・ムバッペとパブロ・サラビアの得点でなんとか同点に追いついた)、チームでミーティングを行い、トーマス・トゥヘル監督が、中盤の選手たちの負担を減らすためには攻撃陣も守備に参加する必要がある、と説いた。
それに対してネイマールも、意識的に守備に取り組むことを約束。その後の試合では、タックルで相手からボールを奪ったり、プレッシングを受けているチームメイトをケアするなど、実際にプレーに表れていることも、「生まれ変わった」という評価向上につながっている。
真価が試されるCL決勝トーナメント
ただ、オフェンス面は、入団当初からすごかった。
自分がボールを受け取った時点でどこにスペースが空くかを、2歩3歩手前で予測して動き、そのときに、誰とワンツーの状態にもちこめばもっとも高い確率でゴールを決められるか、ということを瞬時に判断し、そのとおりに体を動かせる。動かせる、というより細胞が反応する、というか、本能でそれをやっている、そんな印象だった。ブラジル人特有のリズム感にも、ディフェンダーたちは翻弄された。
同じブラジル人で、モンペリエのベテランDFイウトンは、これまでのキャリアで対戦した中で、もっともドリブルが上手いのがネイマールだと言っている。
「次になにをするのかがまったく読めない。まさにケタ違いの才能だ。ほんのわずかなスペースでも抜いてしまうし、1対1で彼とマッチアップするのは至難の技だ。ボールから目を離さなくても、気づけば抜かれている。それがネイマールなんだ」。
ところが、そんな彼のプレーを賞賛するよりも前に、PKをめぐるエディンソン・カバーニとの確執だとか、ファウルされたときの反応が大げさすぎるとか、素行がイマイチだとか、メディアはネガティブな話題の方で、ネイマールのイメージを作っていた。「鳴り物入りのスターのあら探し」は、ここだけの話ではないが。
しかし、真摯にプレーし、毎試合のように芸術的なゴールシーンを披露するネイマールの姿に、論調もようやくポジティブ化してきた。
CLのグループリーグ最終節・ガラタサライ戦で、PKをカバーニに譲ったことも、メディアは美談として取り上げた。
「2年半に及ぶ確執がついに終焉」などと報じられたが、カバーニも後日「あれはPKを誰が蹴るか決めていなかった(当時の)エメリ監督の責任」と話していたように、実際は本人たちの間には確執などなかっただろうから、この件はむしろ、「メディアが抱いていたネイマールへの偏見」を終わらせたように思う。
ただし、彼の真価が本当に試されるのは、2月に始まるCLの決勝トーナメントだ。
仮にここで活躍できず、ラウンド16で敗退、などという結果に終われば、ネガティブ論争は再燃する。2月2日に、ネイマールはパリ市内のクラブで恒例のバースデーパーティを催すらしい。毎年、テーマカラーを決めていて、今年のドレスコードは「白」などと詳細まで報じられているが、18日のボルシア・ドルトムントとの第1レグで振るわない、などということにでもなれば、また「パーティーしてる場合か!」と叩かれそうだ。
ともあれ、ネイマールがようやく本領を発揮してきたいま、彼に触発された仲間たちともども、欧州最高峰リーグでPSGがどこまで邁進できるかは、シーズン後半戦のフランスリーグの注目トピックだ。
(文:小川由紀子【フランス】)
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