「最後の精度」で片づけてはいけない
「準備したから勝てるか、と言われたらわからない。勝負ごとだし、勝てる確率は上がるかもしれないけど。それに、監督が代われば戦術とかも変わるし、使いたいタイプの選手も変わる。それでも、準備期間が短かったとはオレは思わない。キャンプもしているわけだからね。それに主力選手と言っても、シーズンが終わるころにはウチには主力なんていないわけだからね」
言葉を補足すれば、主力なんていないとは、イコール、所属する全員がアントラーズイズムを体現できる――を意味する。黎明期から受け継がれてきた、言い訳が許されない常勝軍団の掟を誰よりも理解しているからこそ、日本サッカー界でよく言われる、負けたときの理由づけにも難色を示した。
「チャンスはあったよ。それはあるよ。(相手が)オーストラリア(のチーム)だもの。そう思いませんか? そこをやっぱり最後の精度、という言葉で片づけちゃうのかな、と。日本代表でもよく言われるじゃない。最後(のところ)が、とか」
再び言葉を補足すれば、決してメルボルンへのリスペクトを欠いていたわけではない。たとえ新戦力が数多く起用された状況でも、クラブとして積み重ねてきたものを出せば負ける相手ではなかったと、ピッチの上でその役割を果たせなかった不甲斐なさを含めて内田は伝えたかったのだろう。
「ザックが来たときは…」
「オレは試合に出ていないから、どうこう言うつもりはないけど。でも、自分たちが今後どのようなリアクションを見せていかなければいけないのかを、オレたち出ていない選手がやらなきゃいけない」
リードを許しながらも、交代枠をひとつ残してアントラーズは敗れている。FW伊藤翔とMF白崎凌兵の他に、攻撃的な選手がリザーブにいなかったという事情もある。それでも、自分や永木亮太、最年長の曽ヶ端準、ベンチに入らなかった遠藤康らが常日頃から背中を、どんな状況でも敗北の二文字を拒絶するアントラーズの伝統を、ザーゴ監督が掲げる戦術に融合させていかなければいけない。
指揮官が代わったばかりという事情もあり、夏場までは何とかやり繰りしながら、秋以降に勝負をかけられるチームになればと、鈴木ダイレクターも今シーズンに対してはある意味で覚悟を決めている。確かに手探りで戸惑いもあるが、そうした状況に甘えてはいけないと内田は力を込める。
「特に外国人の監督だし、そこは(要求を)守らなきゃというか、思い切りがなくなることが日本人選手にはあると思う。だから(日本代表に)ザックが来たときなんかは、最初はやっぱり、という感じだったから。オレは海外に出ていたから、そこはわかっているけど」
日本代表の指揮官が岡田武史監督から、イタリア人のアルベルト・ザッケローニ監督に代わった2010年の秋以降もチーム内に戸惑いが生じたと、内田はおもむろに思い出した。海外で外国人監督のもとでプレーしている選手たちのように、新監督の戦術をいち早く理解した上で、失敗を恐れることなく実戦のピッチで体現していく勇気と覚悟がいまこそ必要になってくる。
「ブーイングじゃないというのが悲しい」
あまりにも短いオフ。監督を含めた首脳陣の刷新。そして、過渡期にあるチームを物語るように12人もの選手が放出され、新たに11人が加わった陣容。昨夏に安部裕葵(FCバルセロナ)ら、3人の主力がヨーロッパへ移籍した状況を含めて、難しい時期にあると察したからか。4冠独占の可能性が早くも潰えたアントラーズに対して、サポーターはブーイングを浴びせなかった。
批判されるのを覚悟の上で試合後の挨拶へ向かった内田は、降り注いできた拍手と声援に「ブーイングじゃない、というのが悲しいね。あれっ、という感じで」と神妙な表情を浮かべた。
「厳しい目であってほしいというか。いままでもそうやって見られて育ってきたからね。オレもそうだったし、他の選手も。負けて頑張れよと言われるチームじゃなかったよな、というのがちょっとね。それを今日、そういうふうになっちゃったのが本当に申し訳なくて」
大雨のなかを駆けつけたサポーターへ逆に気を使わせてしまった結果に、内田は心のなかで頭を下げた。ACL本大会出場を逃したことでグループリーグから登場する、来月16日の名古屋グランパスとのYBCルヴァンカップへ。そして、敵地でサンフレッチェ広島と対峙する同23日のリーグ開幕戦へ。クラブとサポーターが一体となって妥協を許すことなく勝利を、そして捲土重来を期す戦いが始まる。
(取材・文:藤江直人)
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