デビュー戦でハットトリック
満員となったWWKアレーナの注目は、19歳のノルウェー人に注がれた。
ドルトムントは1月18日に、リーグ戦再開となるアウグスブルク戦に臨んだ。ザルツブルクから加入したばかりFWアーリング・ハーランドはベンチスタートで、前線にはトルガン・アザール、ジェイドン・サンチョ、マルコ・ロイスが起用されている。
ブンデスリーガデビューは、2点のビハインドを負う56分に訪れた。するとわずか3分後、DFラインの裏に抜けたハーランドは、サンチョのスルーパスにダイレクトで左足を振り抜いてゴールを奪う。スペースを見逃さない嗅覚と、ワンタッチでゴールを決める技術を見せた。
さらに直後にサンチョのゴールで同点に追いつくと、70分にはアザールがDFラインを突破してGKをかわす。最後にパスを受けたハーランドがゴールに流し込んで逆転に成功した。
デビュー戦はこれだけでは終わらない。ロイスのスルーパスにハーランドが反応してDFラインを突破する。柔らかいタッチで相手DFが寄せてくる一瞬前に左足を振り抜いくと、ボールはGKの届かないコースへと飛ぶ。投入からわずか23分間でハットトリックを達成した。
CLでも得点を量産する19歳
ハーランドが「初陣」で「ハットトリック」を達成したのは、これが初めてではなかった。
1度目は今シーズンの初戦。2019年1月にザルツブルクに加入したハーランドは、7月19日のオーストリア・カップで公式戦初戦に臨んだ。4部のパルンドルフ戦にフル出場したハーランドは、加入後初めてハットトリックを達成した。
それから約2か月後、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の初戦でもハットトリックを達成している。相手は伊東純也が所属するヘンク。この試合に先発したハーランドは開始早々に南野拓実のアシストを受けて先制点を奪う。さらに攻勢を強めるザルツブルクは34分にファン・ヒチャンのパスを受けたハーランドが再び決めて2点目をゲットした。
その後、両チーム1点ずつを奪って迎えた45分、DFマキシミリアン・ウーバーがインターセプトから敵陣へと攻め上がる。ペナルティーエリアで相手2人に囲まれたものの、こぼれ球がファン・ヒチャンのもとへ。これを折り返すとゴール前で待つハーランドがゴールへと流し込んでハットトリックを達成した。
CL第2節のリバプール戦では後半途中から投入された。すると1点ビハインドの60分に南野のアシストから同点ゴールを決める。昨季のCL覇者を相手にもポテンシャルを如何なく発揮した。
ナポリとの2試合でも1得点ずつ、第5節のヘンク戦でもゴールを奪い、6試合で8得点をマークした。並みいるビッグクラブのストライカーを差し置いて、得点ランキングでは10得点のロベルト・レバンドフスキに次ぐ2位に入っている。
父も元ノルウェー代表。その生い立ちは…
アーリング・ハーランドは、アルフ=インゲ・ハーランドの息子として、2000年7月21日に生まれた。ノルウェー代表として34試合に出場した父アルフ=インゲは、ノッティンガム・フォレスト、リーズ、マンチェスター・シティでプレーした経験を持ち、プレミアリーグ通算181試合に出場している。アーリングが生まれたのは、ちょうどリーズからシティへ移籍するタイミングだった。
アーリングは父と同じノルウェーのブリンFKの下部組織に加入すると、飛び級を重ねて15歳でトップチームデビュー。16歳で1部のモルデFKに移籍して2年間プレーしたのち、19年1月に母国を離れてザルツブルクへとステップアップしている。ちなみに、モルデ在籍時に指揮を執っていたのは後のマンチェスター・ユナイテッドの指揮官、オレ・グンナー・スールシャールだった。
ハーランドの名前は、U-20ノルウェー代表として出場したFIFA U-20ワールドカップで世界中に知れ渡った。ウルグアイ、ニュージーランドに連敗して迎えた3戦目のホンジュラス戦で、ハーランドは36分までにハットトリックを達成する。その後も勢いは止まらず、終わってみれば一人で9得点をマーク。ノルウェーはグループリーグ敗退となったが、出場わずか3試合で大会得点王に輝く偉業を成し遂げた。
ザルツブルクでの最初の半年間は、公式戦4試合に出場するに留まった。しかし、U-20ワールドカップで躍動したハーランドは今シーズン、リーグ戦開幕から7試合で11得点をマーク。わずか半年で33得点7アシストという天文学的な結果を残した。
強さよりも巧さが光る現代型ストライカー
ドルトムントはハーランドと4年半の長期契約を結んだ。2試合のルシアン・ファブレ監督の起用法を見る限りは、19歳の大器を大事に扱っていこうという意図を感じる。
前述のブンデスリーガデビュー戦でのハットトリックに続いて、ケルン戦でも65分から出場して2得点を挙げた。56分間で5ゴールはブンデスリーガ史上初の快挙だった。
ハーランドのプレーを見ると、194cmという体格から連想される力強さ以上に巧さを感じる。相手DFの死角から飛び込むポジショニングでワンタッチゴールを決めるだけでなく、DFラインとの駆け引きも巧みで、裏を取る技術に長けている。
アウグスブルク戦ではシュート3本で3得点、ケルン戦ではシュート3本で2得点。CLでは17本のシュートで8得点を決めている。そのシュート決定率からわかるように、左足から繰り出されるシュートの精度は非常に高い。
「熊のように強く、馬のように速い」と評されるフィジカルもストロングポイントとなっている。前線から降りてきてポストプレーで味方を活かすことができ、大きな身体に備わったスピードは、カウンターで威力を発揮する。
移籍後すぐに結果を出したことに、FWとしての才能を感じる。欠点があまり見当たらないのは、いかにも現代サッカーのストライカーらしい。バロンドールの候補者に名を連ねるのも時間の問題となるだろう。
(文:加藤健一)
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