センターバックの定位置を確保
オランダ1部(エールディビジ)のフローニンヘンが、期限付き移籍で板倉滉を獲得することを発表したのが2019年1月14日のこと。数か月後にプレミアリーグ連覇を達成するマンチェスター・シティへ完全移籍した後、板倉はオランダへと渡った。
小学4年から20歳まで川崎フロンターレで過ごし、18年にベガルタ仙台への期限付き移籍を経てフローニンヘンに加入した。しかし、直後に22歳の誕生日を迎えた板倉はトップチームで出場機会をつかめず、最初のシーズンは4部リーグに参戦しているU-21チームで数試合出場するにとどまっている。
そして迎えた勝負の今シーズン、大きな飛躍を果たすこととなった。のちにPSVに移籍する堂安律とともに、板倉は開幕戦のスターティングラインナップに名を連ねた。
スコアレスのまま迎えた87分、敵陣でインターセプトに成功した板倉は左サイドをドリブルで駆け上がった。中央でMFラモン・パスカル・ルンドクビストがパスを受けると、浮き球のパスを中央に入れてアイディン・フルスティッチのゴールをお膳立て。板倉は開幕戦勝利に貢献した。
オランダ『FOXスポーツ』は「(昨シーズンは)1分もプレーできず、すごく難しかったです。6ヶ月間良い練習ができましたが、これからは毎試合出場したい」と試合後のコメントを伝えている。
その言葉通り、板倉は定位置を確保した。16節までのすべてのリーグ戦に先発し、キャプテンを務めるDFミケ・テヴィーリクとともに最終ラインの中央を任された。
オランダでも発揮する足下の技術の高さ
日本代表としても、コパ・アメリカ2019(南米選手権)のウルグアイ戦で代表デビューを果たした。9月以降は日本代表にも継続的に招集され、9月5日のパラグアイ戦にも出場している。4バックを採用するA代表では中盤、五輪世代では主に3バックの左を担った。
日本ではセンターバックとボランチの両方でプレーしてきた。風間八宏監督の下、川崎フロンターレ時代に磨いた足下の技術は、オランダでも発揮されている。
90分換算でのパス成功数は、テヴィーリクの約48.6本を上回るチームトップの約51.6本。成功率も87%と高く、敵陣でも65%のパス成功率を記録している。デュエル勝率でもテヴィーリクの56%を上回る64%をマーク。数字を見る限りでは高いパフォーマンスを見せていると言えるだろう。
しかし、年の瀬も迫る12月、風雲急を告げる事態に見舞われた。前半の不調を巻き返すフローニンヘンは、9節から4勝2分で勝ち点を積み重ねた。しかし、フォルトゥナ・シッタルト、ユトレヒトに連敗を喫すると、ダニー・バイス監督は開幕から全試合に先発していた板倉を次戦からベンチに置いた。
年内最後の2試合は試合終盤の守備固めとして出場した。しかし、ウインターブレイクを挟んで1月18日にリーグ戦が再開されると、トゥウェンテ戦、アヤックス戦ではベンチで90分を過ごした。
後半戦は熾烈なポジション争いに
今季初めてベンチスタートとなったADOベンハーク戦後、オランダメディア『RTV Noord』は「滉は素晴らしい試合もいくつかあったが、そうでもない試合もあった。(ベンチに下げるのは)難しい選択だった」と指揮官のコメントを伝えている。
年内の2試合で代役に起用されたのはDFサミル・メミシェビッチ。ボスニア・ヘルツェゴビナ代表の26歳は昨シーズンのレギュラーで、チームでは副キャプテンを務めている。開幕から板倉がポジションを確保してきたのは、恥骨炎を患ったメミシェビッチが出遅れたことが大きい。
年明け2試合のベンチスタートは、コンディション不良が理由と伝えられている。メミシェビッチも同様にコンディションが整わず、テヴィーリクの相方にはサイドバックが本職のバート・ヴァンヒンタムが起用されている。33歳のヴァンヒンタムは、特にビルドアップ面を指揮官に評価され、1月26日のアヤックス戦では首位撃破に貢献する活躍を見せている。
今夏に控えた東京五輪に向けても熾烈なメンバー選考が待っている。最終ラインと中盤で併用できるのは板倉の強みだが、ライバルは少なくないフローニンヘンでのポジション争いは、母国開催の五輪の舞台に出場できるかどうかに大きな影響を与えるだろう。
今夏でフローニンヘンとの期限付き移籍は満了となる。保有元のマンチェスター・シティへの加入か、フローニンヘンに残留か、別のチームへの移籍か。27日に23歳の誕生日を迎えたばかりの日本人MFは、勝負の後半戦を戦っている。
(文:編集部)
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