「キンタ・ダンス」に似ている
さんざんな結果におわったAFC U-23選手権だったが、その中でも存在感を示していた選手はいた。その1人が橋岡大樹だ。
従兄弟に陸上競技の橋岡優輝、叔父が棒高跳びの元日本記録保持者、両親も元アスリートというスポーツ一家に育ち、浦和レッズのジュニアユースからトップへ駆け上がってきた。182センチとサイズもあり、スピードが素晴らしい。
EAFF E-1サッカー選手権でA代表デビュー、続くU-23選手権でも主に右のウイングバックとしてプレーした。右足を縦方向へ少し踏み出すフェイクから、左足でボールを引きずるように縦へ持ち出して突破する。JSLの日産自動車でプレーした金田喜稔が得意とした形で、「キンタ・ダンス」と呼ばれていたドリブルと似ている。当時の日産では木村和司、水沼貴史もこの形を多用していたものだ。スピードを生かすには向いていて、橋岡のそれも効果的だった。
橋岡のクロスボールは数少ない日本の攻め手になっていた。中央にそれほど高さがないのが難点だったが、それは橋岡のせいではない。ただ、サイドの選手としては組み立てが物足りない。サイドはボールの収まりどころになることが多く、中盤で受けたときにはプレーメーカー的な判断とパスワークが求められる。縦突破という武器はあるが、サイドプレーヤーとしてはもっと器用さがほしいところだ。
センターもサイドもやれる才能
むしろセンターバックとして大成してほしい気もする。身体能力は高く、高さもそれなりにある。何と言ってもスピードは魅力だ。
サッカーではポジションによって求められる才能が違う。センターバックにはクロスボールを弾き返すヘディング、1対1での防御力が不可欠だ。したがって大きな選手がほとんどなわけだが、大きな選手はアジリティやスピードに欠けることがある。一方、サイドプレーヤーには小柄な選手が多い。求められる才能の第一がスピードなので、サイズはそれほど影響しない。橋岡はセンターもサイドもやれる才能がある。
サイド、センター両用のDFとしては、酒井宏樹、冨安健洋、槙野智章がいるが、そんなに数は多くない。
センターもできるサイドバックか、サイドもできるセンターがいいのかは一概に言えないが、スピードのあるセンターバックの利点はカウンターアタックに強いことだ。ボールを保持するプレースタイルの場合、相手のカウンターアタックへの守備がカギになる。ボール保持と速いセンターバックはセットといっていい。横浜F・マリノスのチアゴ・マルチンスが好例だろう。
目指すべきは元フランス代表DF?
ボール保持型チームのサイドバックは攻撃時にかなりポジションを上げるので、センターバック的な能力よりもMFやFWを兼任できる攻撃力がほしい。橋岡はそのタイプではない。チームがボールを保持できて押し込めるなら、橋岡のタイプはセンターバックのほうが貢献できる。その点で、U-23選手権のサイド起用はややミスキャストだったのではないか。
現在は代表でも浦和でもサイドで起用されているが、いずれセンターに移るのではないか。リリアン・テュラムは右サイドバックとして1998年W杯優勝メンバーとなったが、後にセンターへ移動している。やはりセンターの守備力とサイドのスピードを兼ね備えた逸材だった。ただ、サイドバックとしては異常に粘着力のあるキープ力はあったものの、クロスはあまり上手くなかった。
スペイン代表のカルレス・プジョル、セルヒオ・ラモスもサイドからセンターへ移動してキャリアピークを迎えた。所属するチームとの関係しだいだが、橋岡もそっち系ではないかと思う。
(文:西部謙司)
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