覇権の行方は決まったも同然
直近5試合は4勝1分。2位につけるマンチェスター・シティの成績が、とくに悪いわけではない。しかし、首位リバプールは5戦5勝、通算でも21勝1分無敗。この強さは異常だ。1月21日時点で13ポイント差をつけられているシティが残り14試合を全勝しても、消化試合がふたつ少ないリバプールは10勝6敗で優勝できる。無敗のチームが6回も負けられるのだから、覇権の行方は決まったも同然だ。
昨年11月、コメンテーターを務めていた当時のジョゼ・モウリーニョ(現トッテナム監督)も、「リバプールが優勝するだろうではなく、いつ優勝するかだ」と語っていたが、2000/01シーズンのマンチェスター・ユナイテッド、一昨シーズンのシティが記録した33試合を破り、最速を記録更新する可能性も十分にある。
また、21勝1分というデータを踏まえると、無敗優勝にも言及しなくてはならない。一度も負けずにプレミアリーグのテッペンに立つ!? 常識では考えづらい。03/04シーズン、ティエリ・アンリ、ロベール・ピレス、パトリック・ヴィエラ、デニス・ベルカンプなどの強者を擁したアーセナルが達成しているとはいえ、16年前と今ではプレミアリーグの環境が激変している。
あのころのアーセナルはたしかに強かった。しかし、ライバルはマンチェスター・ユナイテッドとチェルシーだけだ。トッテナムはボトム10でさまよい、シティは降格の恐怖に苛まれる毎日だった。レスター、ウォルヴァーハンプトン、クリスタルパレス、シェフィールドなども今シーズンのような力を有していない。要するに昔話である。したがって、リバプールが今シーズンのプレミアリーグを無敗で制すると、〈インビンシブル〉の称号はアーセナルから取って代わる。
リバプールの無敗優勝を阻む2つの敵
では、スケジュールをチェックしてみよう。最大の関門は4月4日に控えるアウェーのシティ戦だ。この時点で、リバプールの優勝が決まっている確率は低くない。ただ、シティは3連覇を阻止され、なおかつホームでも勝てなかった場合、大恥をかくことになる。敵将ユルゲン・クロップを意識し、認めているからこそ、ジョゼップ・グアルディオラ監督もこれ以上の屈辱には耐えられないだろう。復讐心は最大の強みになりうる。ちなみに昨シーズンのリバプールが喫した唯一の敗北も、敵地エティハドにおけるシティ戦だった。
無敗優勝を阻止しかねないもうひとつの敵は、メンバーの固定化である。今シーズンのリバプールはフィルジル・ファン・ダイクの相棒と右インサイドハーフを除き、ほぼ同じメンバーで闘ってきた。試合終盤、あるいはFAカップでは主力を温存して体力の回復、維持に努めてきたとはいえ、疲労は蓄積されている。
なかでも左サイドバックだ。1月5日のFAカップ・エバートン戦でジェームズ・ミルナーが脛部を負傷。クロップ監督も「深刻な状態」と認めたように、復帰時期も明らかになっていない。アンドリュー・ロバートソンに負担がかかる。ジョー・ゴメスもこなせるものの、ファン・ダイクの相棒の座を力で奪い返した男をコンバートするのは、心情的におススメできない。汎用性が高い南野拓実も、さすがに左サイドバックは難しいだろう。
ゲーゲンプレスを極力控え、試合のペースを落としても勝ち続けるリバプールだが、プレー強度は基本的に高い。当然、故障のリスクをはらんでいる。主力がコンディションを崩した場合、前線とインサイドハーフは南野がカバーするに違いないが、左サイドバックは人手不足だ。夏の獲得を予定していたジャマル・ルイス(ノリッジ)を前倒しするか、アカデミーから抜擢するか……。無敗優勝のカギを握るポジションだ。
マージーサイド・ダービーに日本人!? まさに快挙だ
一昨シーズンのシティが記録した勝点100、勝利数32の最多記録もリバプールは塗り替える勢いだ。22試合を闘った時点の勝点が64に到達しているため、残り16試合で37ポイントを稼げば記録更新だ。今シーズンのパフォーマンスを踏まえると達成可能なミッションであり、あと13勝でリーグレコードとなる勝利数も同様だ。
主導権を握りながら効果的なパンチでダメージを奪い、大差の判定勝ちを収める……。まるでボクシングの世界チャンピオンのように振る舞う今シーズンのリバプールには、数多くの記録更新を期待せずにはいられない。
さて、南野である。「試合に出られるわけがない」というアンチの邪な期待を裏切り、1月5日のエバートン戦(FAカップ3回戦)で早くもデビューした。1月1日の入団から4日後、チームセッションをわずか2回こなしただけで、本拠アンフィールドで先発に起用されたのである。マージーサイド・ダービーに日本人!? まさに快挙だ。
得点チャンスは34分のヘディングしかなく、ライン間でボールを受けようとしてもパスが来なかったが、たった4日で連携が築けるほどフットボールは甘くない。プレスの起点として機能しており、クロップ監督も「スーパーな出来」と絶賛していた。その後のプレミアリーグでもベンチ入りしているのだから、戦力として考えられている証だ。
新記録達成に南野は絡めるか
しかし、ベンチ入りで満足するほど、南野の意識は低くないはずだ。前線、インサイドハーフ、4-2-3-1の二列目を高度にこなす汎用性は、ターンオーバーの軸になりうる。1月23日のウルヴズ戦から、26日にFAカップ4回戦のシュルーズベリー戦、3日後にウェストハム戦と、1週間で3試合のハードスケジュールだ。
マージ―サイド・ダービーに続き、ふたたびFAカップで先発のチャンスが巡ってくるかもしれない。DFラインに不安を抱えるウェストハム戦で、待望の初ゴール、初アシストが生まれるかもしれない。いや、データに直結しなくても、ハイパフォーマンスを見せればクロップ監督の信頼度はさらに深まるはずだ。
そして1月19日、リバプールはユナイテッドを2-0で破り、19年1月12日のブライトン戦から数えて39戦無敗。アーセナルが持つ49試合連続無敗記録(03年5月のサウサンプトン戦~04年10月のアストンヴィラ戦)というリーグレコードに、不可侵とさえいわれたデータに到達するまで残り10試合と迫ってきた。
では最後にもう一度、スケジュールをチェックしてみよう。順延もなくスムーズにこなしていくと、49試合目は4月4日のシティ戦(前出)である。これもなにかの因縁だ。良きライバルとの一戦に向け、リバプールは無敗を維持できるのか。タイ記録、新記録達成に南野は絡めるのか。プレミアリーグの後半戦は、まだなにかが起きる!!
(文:粕谷秀樹)
【了】