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久保建英vs香川真司、直接対決は実現したけど…。透けて見えた複雑なチーム事情と2人の立場

普段は見られないマッチアップが実現することこそ、カップ戦の醍醐味と言える。例えば現地21日に行われたコパ・デル・レイ(スペイン国王杯)のラウンド32では、1部のマジョルカと2部のサラゴサが昨季以来の再戦を果たした。さらに、久保建英と香川真司という日本代表の象徴的な2人の直接対決も実現した。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

2部のサラゴサが1部のマジョルカを圧倒の理由

久保建英 香川真司
マジョルカの久保建英(左)とサラゴサの香川真司(右)による直接対決がコパ・デル・レイで実現【写真:Getty Images】

 久保建英と香川真司、2人の日本代表選手がスペインの地で同時にピッチに立った。しかし、カップ戦ならではの日本人対決を楽しめるほど充実した試合内容にはならなかった。

 現地21日、コパ・デル・レイ(スペイン国王杯)のラウンド32が行われ、2部のレアル・サラゴサと1部のマジョルカが対戦した。

 サラゴサに所属する香川、マジョルカに所属する久保は、ともに4-2-3-1のトップ下、いわゆる“10番”のポジションで先発出場した。2人がそれぞれのチームで攻撃の中心だったのは間違いないが、組織としての完成度が違いすぎた。力の差を見せつけたのは、香川を擁するサラゴサの方だった。

 これには特殊な事情がある。サラゴサは先週末18日に予定されていたアウェイでのミランデス戦が直前に悪天候にともなうピッチ不良により延期に(しかも、スペイン2部で延期になった今季の3試合全てにサラゴサが絡んでいる!)。

 その前の試合からちょうど1週間空き、かつ25日に組まれているヌマンシアとのリーグ戦までも比較的余裕のあるスケジュールだったため、コパ・デル・レイに一部の主力メンバーを良好なコンディションで起用することができた。

 一方、マジョルカは直近のリーグ戦から中1日という超過密日程でサラゴサとのアウェイゲームに臨んだ。バレンシアに4-1で快勝を収めた試合が終わってから53時間で、マジョルカ島からサラゴサまで移動したうえで戦わなければならなくなり、スタメンの総入れ替えは避けられなかった。

 バレンシア戦でベンチスタートだった久保やMFアレイシ・フェバス以外のメンバーは、リーグ戦でほとんど出番のない選手ばかり。当然、チームとしてもぶっつけ本番なので組織力など全くなく、序盤から2部のサラゴサに圧倒された。

 前半のボールポゼッションは69:31で、サラゴサが終始押し込む展開に。マジョルカは久保とFWアブドン・プラッツが横並びになって、アンカー的に振る舞う相手のセントラルMFのうち1人をけん制しつつ、ジリジリと下がっていく。

香川はチームとともに状態上向き

香川真司
一時は不調に陥っていた香川真司だが、本来の輝きを取り戻しつつある【写真:Getty Images】

 マジョルカのビセンテ・モレノ監督はバレンシア戦後に「1週間でやる準備を1日でやらなければならない」と嘆いたが、やはり連係・連動の約束事が浸透しきっていない中では無闇に前からプレッシャーをかけるのではなく、しっかりとブロックを敷いて守ることを選んだ。しかし、2トップの動きに連動してサイドへボールが出た時に中盤からサポートが出てこなかったため、久保やアブドン・プラッツは守備でかなりエネルギーを使う羽目になってしまった。

 比較的容易にマジョルカの守備網をくぐり抜けられていたサラゴサは、後半開始早々に先制点を奪う。左サイドからボールを運んできたDFエンリケ・クレメンテからパスを受けた香川が、素早くターンして右の味方に展開する。そして最後はレアル・マドリー出身のMFアレックス・ブランコが左足で豪快なシュートをゴールへ蹴り込んだ。

 マジョルカも単発の攻撃で何度か反撃を試みるが、なかなか実らない。すると54分、サラゴサは自陣からカウンターで一気に右に開いたFWミゲル・リナレスを走らせ、ゴール前に走り込んでいたMFハビ・プアドにラストパス。今季途中加入のアタッカーのシュートは一度相手にゴールライン上でクリアされたかに思われたが、マテウ・ラオス主審がゴールと認めた。

 やや意気消沈気味のマジョルカに対し、サラゴサは畳み掛けるようにして攻撃を仕掛け、75分にはリナレスが3点目を奪って勝負あり。マジョルカは85分にフェバスが1点を返すにとどまり、いいところをほとんど見せられないままコパ・デル・レイ敗退となった。

 久保はマジョルカの攻撃を引っ張ろうと奮闘していたが、やはり守備に回る時間が長く、そこで無駄なエネルギーを使ってしまったのが痛かった。随所にクオリティは発揮したが、状況を一変させるような違いは見せられず、他の普段は出番のないサブ組の選手たちの中に埋もれてしまった。

 一方の香川は状態の良さを存分にアピールしていた。23分にはクロスバー直撃のフリーキックでゴールを脅かし、後半開始直後の48分に先制点をアシスト。他の場面でも味方と近い距離でパス交換しながら崩しの局面でアクセントとなり、フル出場で“10番”の役割を果たした。

露見したマジョルカの致命的な弱点

久保建英
久保建英はマジョルカを1部残留に導くことができるだろうか【写真:Getty Images】

 もしマジョルカが万全の状態なら、中心として輝くもっと魅力的な2人の対決が見られただろう。だが、天候などコントロールできない側面にも左右されるスケジュールに文句を言っても仕方ない。ならば両チームともに、この試合で見えてきた様々な成果や課題を今後の戦いに生かしていく方が有意義だ。

 勝利したサラゴサは現在2部で暫定4位につけ、1部への自動昇格も狙える状態にある。そしてマジョルカ戦でわかったのは、主力と同等のレベルのパフォーマンスを保証してくれる選手が多く揃っているということだ。当然、香川にも定位置は約束されていない。とはいえ厳しい競争があり、ある程度メンバーを落としてもチームとしての総合力に大きな変化が生まれないことは、安定して勝ち点3を積み重ね続けるために重要な要素になる。

 マジョルカは今後も1部残留に向けて苦しい戦いを強いられるだろう。昨季2部の厳しいプレーオフを勝ち抜いて昇格に大きく貢献したメンバー中心に戻して臨んだバレンシア戦は、攻守が噛み合って4-1の快勝を収めたが、今季の新加入選手や控えのベテラン中心で臨んだサラゴサ戦は2部クラブにあっさりと敗れることになった。

 サラゴサ戦にスタメン出場したDFアブドゥル・ラーマン・ババやDFアレクサンダル・セドラル、FWアレクサンダル・トライコフスキ、ベンチスタートだったMFジョゼップ・セネ、FWパブロ・チャバリア、FWアレックス・アレグリアといった期待されていたはずの新戦力たちがほとんど使い物にならないことが明らかになってしまったのである。この選手層の薄さは残留争いにおいて致命傷になりかねない。

 久保も香川も、彼ら自身のチーム内での立場が盤石ではない中で、直接対決から見えてきたのは対照的なチーム状態だった。1部残留を目標にするマジョルカで、久保は潜在能力の全てを解放し救世主となれるか。逆に1部昇格を目指すサラゴサで、香川はチームの先頭に立つ旗手としての矜持を見せられるか。リーグ後半戦も2人のサムライが見せるパフォーマンスに注目していきたいところだ。

(文:舩木渉)

【了】

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