16歳とは思えない状況判断力
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次の「技」については、帝京長岡(新潟)との準決勝の後半開始早々に決めたゴールにすべてが凝縮されていると言っていい。攻撃時には[4-1-4-1]システムのインサイドハーフに移る松木は、味方が右サイドで時間を作っている間に、ポジションをゴール前の左サイドへとシフトさせている。
逆サイドへクロスが流れてくる、という予感は予想を上回る形で現実のものになった。縦へ抜け出したMF古宿理久(3年)が放ったグラウンダーのクロスは、ブロックに飛び込んできた相手選手の足に当たって高くはね上がり、ファーサイドに詰めていた松木の前方に落ちてきた。
「ダイレクトでシュートにいったら、ふかす可能性があったので。そこは様子を見極めながら、落ち着いて流し込もうと考えました。ゴールへの嗅覚が上手く働いた感じですね」
慌ててボレーを放つのではなく、あえてコンマ数秒だけ遅らせてハーフバウンドさせ、ボールがはね上がった刹那に利き足の左足を合わせた。16歳とは思えないほどの冷静沈着な状況判断力をフル稼働させながら、低く、速い弾道のシュートを放つための最善の選択を下していたわけだ。
プレミアリーグEAST王者として臨んだ、昨年12月の高円宮杯JFA U-18プレミアリーグ2019ファイナルの62分にも、松木はWEST王者・名古屋グランパスU-18を突き放す決勝ゴールを決めている。高校進学にあたって得点力を課題にあげていた松木は、短い間に急成長を遂げていた。
強靭なメンタルを生み出すふてぶてしさ
最後の「心」については、誰よりも松木自身が「自分の一番の長所はメンタルです」と公言してはばからない。心の強さに対しては、黒田監督も苦笑まじりに太鼓判を押している。
「2年生や3年生に対しても関係なく、ピッチの上では呼び捨てだろうが何だろうがどんどん仲間を鼓舞し、遠慮なく指摘できるのが松木のいいところだと思っている。ふてぶてしい部分がメンタルの強さとなって、ゴール前の守備や攻撃ではゴールというところまで果敢にチャレンジできる選手として、今大会では伸び伸びとプレーしていますよね」
室蘭大沢FC時代は素質を高く評価され、年齢が上のカテゴリーでプレーする機会も多かった。ゆえに本来のカテゴリーに戻ったときに、松木をして「自分が引っ張っていかなきゃダメだ」と決意させるリーダーシップが自然と芽生え、強靱なメンタルを生み出す源泉となった。
青森山田中の3年時にキャプテンを務めたことで、おのずと責任感も芽生えた。足をつらせて途中交代し、悔しさとふがいなさとが相まってベンチで号泣した帝京長岡戦。そして、取材エリアで声を詰まらせながらも努めて前を向き、毅然とした姿勢を見せ続けた静岡学園戦。大会を通して見せたさまざまな表情を介しても、松木の胸中に脈打つ強い心がひしひしと伝わってくる。
「早めに海外へ行ってチャレンジしたい」
中高一貫で過ごす6年間の先に「プロ」の二文字を思い描きながら、青森山田の門を叩いてからまもなく4年になる。自信を深めたいまでは夢はそのままで、思い描くステージをはるかにグレードアップさせている。「Jリーグ、あまり見ないんです」と苦笑しながら、松木は憧憬の思いを明かす。
「声がかかれば、の話ですけど、早めに海外へ行ってチャレンジしたい。自分はプレミアリーグが、そのなかでもマンチェスター・シティが一番好きなんです。試合もずっと見ていますけど、Jリーグと比べてスピード感がまったく違うし、そういったところを経験したい、という思いもあります」
憧れの選手は同じ左利きで、マンチェスター・シティの次代を担うと、名将ジョゼップ・グアルディオラ監督も惚れ込む19歳のMFフィル・フォーデン。壮大な夢へ近づいていくためにも、残された2年間で身体作りを継続させ、テクニックをさらに高め、心もより強く磨いていく。
「来年は自分が引っ張っていくような立場になって、帰ってきたい」
スーパールーキーがこんな言葉を残した静岡学園との死闘から2週間とたたない25日には、東北高等学校新人サッカー選手権大会が開幕。青森山田は福島・いわきFCフィールドで、聖和学園(宮城)との1回戦に臨む。選手権で喫した借りは、同じ舞台でしか返せない。募らせた悔しさを晴らせる舞台も然り。過去の自分を乗り越え、さらに進化していくための戦いが早くも幕を開ける。
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(取材・文:藤江直人)
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