決勝戦で犯した致命的なミス
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しばらくは寝ても覚めても、大舞台で自らが犯した致命的なミスが頭をもたげてくるだろう。自分がマークしていた相手選手を、なぜフリーにしてしまったのか。その結果として、何が起こってしまったのか。青森山田の1年生、松木玖生は自問自答を繰り返しながら自らを責め続けるはずだ。
16歳の脳裏にこびりついて離れない場面は、埼玉スタジアムで13日に行われた第98回全国高校サッカー選手権大会決勝の85分に訪れた。ペナルティーエリアの左側で静岡学園が得た直接フリーキック。ゴール前では事前に決められていた相手に、青森山田の選手がそれぞれマークについていた。
身長177cm体重71kgの松木がついていた、身長178cm体重64kgのDF中谷颯辰(3年)はゴール前のほぼ中央にいた。しかし、MF井堀二昭(3年)がインスイングからクロスを供給した直後に、自らの視界から「5番」は消え去り、気がつけばファーサイドへフリーで回られていた。
しかも完璧なタイミングでジャンプされ、ヘディング弾を見舞う体勢に入ろうとしている。慌てて思考回路を切り替え、ゴールのカバーに入った。次の瞬間、飛び出したキーパー佐藤史騎(3年)と左ポストのわずかな間を、中谷の額に弾かれた強烈なシュートがすり抜けていった。
「自分が(マークを)外してしまったので。申し訳ない気持ちでいっぱいです」
「柴崎が1年生のときよりも…」
一瞬にして地獄へ突き落とされた心境だったのだろう。国見高以来、18年ぶりとなる大会連覇の夢を絶たれた試合後の取材エリア。33分までに奪った2点のリードをひっくり返される逆転弾を、なす術なく見送るしかなかった自分の無力さを、声を詰まらせながら松木は振り返っている。
静岡学園にとって、そしてサッカー王国静岡勢にとっても実に24年ぶりとなる王座奪還をもたらす一撃を決められた直後に、松木は両手で顔を覆いながらゴールライン上で立ち尽くしていた。しかし、わずか数秒後に、決して見逃すことのできない行動に打って出ている。
ゴールネットに弾かれ、かかとのあたりに転がってきたボールを拾いあげると、センターサークルへ向かって走り始めた。まだ時間は残されている。絶対にあきらめない。必ず同点、そして逆転できる。一連の立ち居振る舞いから、自らとチームを鼓舞する強烈なメンタルが伝わってきた。
試合が再開された直後の89分に、松木はFW金賢祐(3年)との交代を告げられている。汚名返上の機会は訪れず、ベンチへと引きあげてくる目には涙がにじんでいた。悔しさだけが残る幕切れとなったが、だからといって今大会を通して松木が放った輝きが否定されることはない。
「1年生でこれだけのプレーができる。なので、来年、再来年もさらに期待したいと思っています」
松木の今後を問われた青森山田高の黒田剛監督が、大会期間中に思わず目を細めたことがあった。同じく1年生から選手権の舞台で活躍した、MF柴崎岳(現デポルティボ・ラ・コルーニャ)を思い出しながら「柴崎が1年生のときよりも、肝が据わっている」と比較したこともあった。
青森山田高で次代を担う下級生が託される「7番」を背負い、ボランチとして全5試合に先発出場。得点ランキングで3位タイとなる4ゴールをあげた松木は、まぎれもなく今大会における最大の衝撃だった。成長途上の心技体を紐解いていけば、16歳がもつ可能性にこれからも期待したくなる。
身体作りのために自炊に挑戦
まず「体」に関しては、この1年間で体重が5kgほど増えている。成長期とも重なったなかで意図的に筋肉量を増やし、結果として体幹が強くなっていると黒田監督は振り返る。
「中学3年生の後半から筋トレをバンバンやって、高校生に負けないだけの身体を作っていました」
北海道室蘭市で生まれ育った松木は、北海道コンサドーレ札幌のキャプテン、宮澤裕樹をはじめとするプロ選手を輩出したことでも知られる室蘭大沢FCでプレー。小学校6年生のときに全国大会を制した青森山田中学に魅せられ、中学進学とともに親元を離れることを決意した。
中高一貫の青森山田で松木はすぐに頭角を現し、高等部への進学が決まった中等部3年の夏からは高校のBチームでプレー。プリンスリーグ東北だけでなく、2018シーズンの最終節ではトップチームの一員としてプレミアリーグを経験。高いレベルに触発されるように、自らへ筋トレを課した。
しかも、寮で出される食事に加えて、身体作りへ与える効果をあれこれと研究しながら自炊にも挑戦している。自炊の内容を聞くと、ちょっぴりはにかんだ笑顔とともにこんな言葉が返ってきた。
「基本的には肉類とサラダを買って、常にご飯を3杯は食べるようにして、という感じです。一時は筋トレをしすぎて、身体が重くなって動かないような状態になりました。昨年の夏くらいですけど、自分が思い描くプレーをまったく出せず、このままだとちょっとやばいかなと思いましたけど、この冬にかけて増量しながら、なおかつアジリティー面でも動ける身体になってきたと思っています」
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(取材・文:藤江直人)
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