冨安健洋は失点に関与
後半の36分だった。マッティア・バーニの退場によって一人少なくなっていたボローニャは、ヴェローナの猛攻を受けていた。ヴェローナの左サイドにボールが回り、冨安健洋とアンドレア・ポーリがその前を固める。しかしその次の瞬間、ボールを持ったヴェローナの左ウイングバック、ダルコ・ラゾビッチはポーリのプレスをあっさりフェイントでかわし、そのまま縦を突破した。
冨安は、サイドのカバーに入った。ところがスピードに乗ったラゾビッチを食い止めることができず、左足でクロスを上げさせてしまう。それを途中交代のファビオ・ボリーニにヘディングで押し込まれ、先制をしていたボローニャは同点に追いつかれてしまった。
この失点の直接の要因は、ポーリが抜かれてしまったことにある。カバーに入った冨安も、スピードに乗った相手からクロスを阻止することは難しかっただろう。だが失点シーンのみならず、ラゾビッチがクロスを上げたシーンは何度もあった。退場者が出る前のことだ。
前半戦第1節の対決では、クロスはおろかアタッキングゾーンの侵入さえ許さなかった相手に多くのチャンスを与えられた。サイドバックになっても1対1は抑えていた冨安にしては、この苦戦は最近にはなかったことだった。
冨安のパフォーマンスそのものは悪くなかった。特に前半はこれまでの試合同様、攻撃面での積極性はよく目立っていた。守備から攻撃へ切り替わると、サイドに開いてパスを呼び寄せ、そして前線のスペースへと動いた味方へとすぐパスを出す。連携はどんどん成熟しており、すぐに味方を把握し、ワンタッチかツータッチの早いタイミングでボールを動かしていた。
ボローニャを困らせたヴェローナの2シャドー
9日、ボローニャはホームでヴェローナと対戦。冨安は右サイドバックとして先発フル出場を果たしたが、後半36分に自身の守るサイドから同点ゴールのクロスを許した。試合は1-1のドローに終わっている。
前半は積極的に攻撃に関わった。低い位置から正確に前線へパスを通し、攻撃の組み立てに参与する。14分、裏に出ようとした相手をカバー。体をぶつけられながらも競り勝ち、ボールを拾ってパスを出した。34分には単独でサイドをドリブル突破。あげたクロスを一度は相手に止められるが、それを拾い直してなおも攻撃につなげる粘りを見せた。比較的早い時間に先制し、チームも良いリズムの中にあった。
ただ冨安は、守勢に回った際に普段よりも苦労した。相手の巧妙な戦術によってサイドで数的優位をつけられ、その結果ラゾビッチをフリーにさせてしまったためだ。
ポイントは、相手の2シャドーの動きにあった。イバン・ユリッチ監督のもと、ヴェローナが採用したのは3-4-2-1。しかしその2シャドーは、外に開いたり中に絞ったりと、頻繁にポジションを変えていた。左サイドで言えば、マッティア・ザッカーニが担当していたポジションだ。
これが、ボローニャの守備陣の対応を難しいものにしてしまった。サイドバックとセンターバックで、どちらがその動きを見たら良いのか。味方とともに迷い、ザッカーニを封じるように絞った結果、サイドのスペースが空いてラゾビッチをフリーにさせてしまう構図となってしまった。
36分には1対1で対峙するが、ドリブルで抜かれてクロスを上げられる。相手に通ってヘディングシュートを打たれ、GKがセーブするも危ないシーンだった。さらにアディショナルタイムにもラゾビッチをフリーにしてしまい、クロスを上げさせてしまった。
戦術コーチによる分析
後半は試合をコントロールできていたが、前述の通りDFバーニがこの日2枚目のイエローカードを喰らって退場となると、あとは防戦一方。ラゾビッチがフリーになるという状況には拍車がかかり、スピードを上げて裏へと走ってくる相手を冨安がカバーに行っても食い止めきれない。そして36分、あの失点シーンが訪れてしまったというわけだ。
チームのコーチ陣としては、守備よりも攻撃の方に反省点を求めていた印象である。人混みでの記者会見などはまだ避けているシニシャ・ミハイロビッチ監督の代わりに記者会見に登場したエミリオ・デ・レオ戦術コーチは「前半でチャンスを決めるべき時に決めなかったのが痛かった。後半も自分たちのクオリティを忘れ、ボールを大きく蹴り出すことにハマってしまった」と反省を語った。
しかし、これは全体の守備の不安定さとも直結していた。「選手たちが心配を募らせてしまった挙句、前にボールを蹴り出してしまうようになっていた。だがそれでは展開もできず、また全体が間延びしてしまうから、コンパクトな守備の構築ができなくなっている」。デ・レオコーチは、このように守備の苦境を分析した。そしてそれはそのまま、冨安のいた右サイドが数的不利に晒されていたことの説明にもなる。前の選手からの距離も間延びし、十分なサポートが得られなかったのである。
対戦が一巡すると各チームともに研究が進み、途端に厳しくなるといわれるセリエA。前半戦の活躍で高い評価を欲しいままにしていた冨安にとって、今後またこのような戦術上での苦境を別のチームにも作られるようになるかもしれない。その時に、どう立ち回るのか。攻撃への関与とともに、守備面でも一層の連係・連動を築き、ディフェンスラインに安定感をもたらすことのできる選手へとスケールアップが果たせるように期待したい。
(取材・文:神尾光臣)
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