VARは世界中で導入が進んでいる。しかしアジアでは…【写真:Getty Images】
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【U-23日本代表 1-1 U-23カタール代表 U-23アジア選手権・グループB第3節】
ロシアワールドカップやコパ・アメリカなどによって知名度が向上し、今季からJリーグでも導入が決まっているVAR(ビデオアシスタントレフェリー)。だが、その存在意義が問われるような事例も多い。
そもそもVARがフットボールの世界に導入されたのは、審判の判定において「明らかに間違っているものを正すため」だった。誤審が減る可能性もあるが、完全になくなるわけではなく、それをなくすためのものではない。
導入初期の段階では頻繁に試合の流れが止まったり、運用基準がなかなか定まらなかったり、試行錯誤が続いていた。欧米ではようやくトップレベルの試合でも受け入れられつつあるが、まだ課題の多いシステムであることは間違いない。
とはいえ競技規則もVARの運用に適したものへと改正され、審判をサポートするためのテクノロジーは徐々に世界中で浸透しつつある中で、改めて存在意義や役割の正当性が問われる事態にもなっている。とりわけアジアでは問題が山積している状態だ。
15日に行われたAFC U-23選手権(東京五輪アジア最終予選)のグループリーグ第3節で、U-23日本代表はU-23カタール代表と1-1の引き分けを演じた。この試合では前半アディショナルタイムに日本のMF田中碧がVARの介入によって判定が覆って一発退場になった一方、後半の終盤にはカタールにPKが与えられた場面で映像によるレビューが適切に行われなかった疑いがある。
あくまで最終的な判定に関しては主審が下すものとされるが、時に問題となるのはピッチ上で試合を裁く審判がVARに頼りがちになってしまうことだ。欧米の経験豊富で技量も備えた審判は、自身で明確な判定基準を持っていて、PKやレッドカード、決定機に関わる場面で「明らかな間違い」の可能性がある場合にのみ適切なVARのサポートを活用できていることが多い。
一方、欧米に比べ技量で劣り、経験にも乏しいアジアの審判は、自分の判定に自信が持てないままVARの助言に従って映像を確認すると、自分の目で見たものとは違う景色を目の当たりにしてプレーへの印象が変わり、判定がブレてしまう傾向がある。
そうなると選手もVARの介入や主審の判定からなんとか利益を得ようとするし、特にAFC U-23選手権では「アピールしたもの勝ち」のような事例がいくつもあった。例えば日本対カタールの後半にカタールがPKを得た場面、あるいは日本対シリアで後者にPKが与えら得た場面などがそうだ。大声を出しながら大げさに倒れることで、主審はVARに相手の反則をアピールして揺さぶるといった手段が横行する。
ピッチ内とピッチ外で交信しながら判定を確認し、間違いを正すVARの運用にはトップレベルのクオリティや経験値、ブレることのない明確な判断基準、競技への理解が必要とされる。現時点でアジアの審判にはそういった質が足りておらず、VARを適切に運用するだけの準備が整っていないように感じられる。正しいものを正しいと見定められない、あるいは間違いを正せない、間違いが増えるといった状態が続けば、エンターテイメントとしてのサッカーの価値は下がる一方だ。
もちろんVARのシステムにも、主審や副審の肉眼では到底判別できないようなあまりに細かいオフサイドやハンドを見つけられ、それによって利益・不利益が生じてしまうなど大きな課題が残されている。しかし、それ以上に正しく運用できないようでは、存在意義そのものが疑われてしまう。
アジアにも世界レベルの国際大会で笛を吹くに値するハイレベルな審判はいるが、全体を見渡せば欧米との実力差は大きい。そこでトップレベルの実力が要求されるシステムが入り込むとどうなるかは明らかだろう。サッカー発展途上地域のアジアにおいて、VAR導入は時期尚早だったのである。
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