バカバカしいVAR
プレミアリーグは折り返し点を過ぎたが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の評判がよろしくない。
「フットボールを殺す」「サポーター無視」「どこがアシスタントなのだ!?」などなど、あちらこちらから否定的な意見ばかり聞こえてくる。
なかでもオフサイドの判定は、あまりにもバカバカしい。腕やつま先が数センチ出ていただけでもオフサイドになる。極論だが、強風下でユニフォームの裾がたなびき、相手最終ラインより前に出ていたら反則──という解釈だ。センチ単位でジャッジするのではなく、からだひとつ前に出ていたらオフサイド、とルールブックに明記した方がよさそうだ。VARに泣き続けるマンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督も、きっと満足してくれるに違いない。
そんなシティを尻目に、リバプールが首位を快走している。本稿執筆時点で19勝1分無敗。2位レスターに13ポイント、3位シティに14ポイントもの大差をつけ、30シーズンぶりの覇権奪還はすでに決まったといって差し支えない。不測の事態、例えばフィルジル・ファン・ダイク、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネが揃って長期欠場のアクシデントにでも襲われないかぎり、早ければ3月末にも優勝する可能性すら出てきている。
1月2日のシェフィールド戦にも勝利を収め、プレミアリーグは365日無敗の快挙も達成した。2003/04シーズンのアーセナル以来となる無敗優勝なるか、一昨シーズンのシティがマークした総得点(106)、勝利数(32)、得失点差(+79)などをすべて上まわるのか。今後は数々の記録更新も注目の的だ。
レスターとシティは当確
リバプールの優勝がほぼほぼ決定したいま、注目は〈トップ4チャレンジ〉である。
前半戦のパフォーマンスを踏まえると、レスターは大崩れしないだろう。選手層が薄いとはいえ、今シーズンはヨーロッパの大会の出場権を持っていないため、ターゲットをプレミアリーグ一本に絞れる。ジェイミー・ヴァーディーが充実の一途をたどり、創造力豊かなジェームズ・マディソン、ユーリ・ティーレマンスが中盤を支える。
ただ、ウィルフレド・ディディの欠場がどの程度の影響を及ぼすだろうか。膝にメスを入れ、1月中は戦線を離脱する。この間の対戦相手はサウサンプトン、バーンリー、ウェストハム。容易くはないが、とくに難しいわけでもない。いま、レスターは5位マンチェスター・ユナイテッドを14ポイントも引き離している。ディディ不在の間に3連敗でもしないかぎり、アドバンテージを握りながらのトップ4チャンレンジが続く。
シティが4位以内からこぼれるはずがない。レロイ・ザネ、エメリック・ラポルト、ジョン・ストーンズと主力の負傷が相次ぎ、前半戦は5つも取りこぼしたが、彼らのハイレベルはだれもが知るところだ。すでにストーンズは戦列に戻っている。ザネとラポルトも1月末にはトップチームに合流できる予定だ。ラポルトのクサビがザネに入り、類稀なるスピードで敵陣突破。さぁ、いよいよ逆襲だ。
しかし、リバプールには14ポイントもの大差をつけられてしまった。逆転は不可能だ。5位ユナイテッドを13ポイントもリードしている。安全圏だ。レスターとの1ポイント差はすぐにでも逆転できる。悔しいだろうが2位キープを目標に、そして32節の対決までリバプールが無敗をキープしていれば、怨敵を大差で叩き潰す。留飲を少しでも下げたいところだ。
トップ4争いの行方は
本稿執筆時点で4位チェルシーから10位アーセナルが9ポイント差でひしめき合っている。トップ4チャレンジは残りひと枠だ。総合力を踏まえると、シェフィールドとクリスタルパレスは除外せざるをえない。よくやってはいるものの、4位以内に食い込めるような力はまだない。
また、トッテナムも厳しくなってきた。第21節のサウサンプトン戦で右膝を痛めたムサ・シソコは、4月上旬まで戦列を離れる。この試合の75分にピッチを去ったハリー・ケインは、左足のハムストリングに裂傷を負っていた。彼もまた、しばらくは使えない。幾多の修羅場をくぐりぬけてきたジョゼ・モウリーニョ監督をもってしても、主力2選手の欠場をカバーする特効薬は処方できない。
ユナイテッドも望み薄だ。ダビド・デヘアは神通力を失った。FAカップ3回戦のウォルバーハンプトン戦で股関節を痛めたハリー・マグワイアは、長期の戦線離脱を余儀なくされそうだ。さらにポール・ポグバが右足首を手術し、いつ復帰できるか分からなくなった。
オレ・グンナー・スールシャール監督は、ポグバ不在のゲームプランをいつまで経っても考えない。トップ4チャンレンジからの脱落が決まった。スールシャールは一日も早く、その座をマウリシオ・ポチェッティーノに譲った方がユナイテッドのためになる。
アーセナルが置かれた立場
こうしてチェルシー、ウルブズ、アーセナルが残った。
ここからは選手層がカギを握る。ウルブズは17、18人でやり繰りする小さな所帯だ。ラウンド32まで残っているヨーロッパリーグをどこまで重視するのか、早々とトップ4チャレンジに集中すべきなのか。
二兎を追うもの一兎も得ず、の例えもある。ヌーノ・エスピリト・サント監督をはじめとする首脳陣の選択が、今シーズンを大きく左右するだろう。主力と控えに若干のレベル差があるだけに、目標を一本に絞るべきかもしれない。
アーセナルも使える戦力は限られている。エクトル・ベジェリンはハムストリングに不安を抱え、キーラン・ティアニーは左肩を脱臼した。ソクラティス・パパスタスプーロス、セアド・コラシナツ、ロブ・ホールディングはミスが多すぎる。計算できるDFはダビド・ルイスただひとり、という有り様だ。
ミケル・アルテタ新監督によって魅力的なフットボールを展開し、チームそのものにも明るい光が差し込んでいるとはいえ、最終ラインが急速にレベルアップするとは思えない。4位チェルシーとの9ポイント差をひっくり返すのは困難なミッションだ。
チェルシーが優勢か
トップ4チャレンジの中心は、やはりチェルシーだ。テイミー・エイブラハム、メイソン・マウント、クリスティアン・プリシッチといった若手が織りなす攻撃はエンターテインメント性にあふれ、彼らを操るウィリアンとジョルジーニョの味わい深いプレーも必見だ。
また、経験豊富なエンゴロ・カンテとセサル・アスピリクエタが脇を固め、ロス・バークリーやマテオ・コバチッチも中盤の貴重なアイテムだ。そして言うまでもなく、ルベン・ロフタス=チークがアキレス腱の負傷から復帰することは大きなプラスになる。トップ4チャレンジのライバルをはるかに上まわる選手層が、チェルシーの強みといって差し支えない。
ただ、チェルシーは24節からアーセナル、レスター、ユナイテッド、トッテナムとの4連戦が控えている。いわゆる〈6ポインター〉だ。この正念場で3連勝、最低でも2勝すれば、チャンピオンズリーグの出場権をググッと引き寄せるに違いない。
トッテナム、ユナイテッド、ウルブズ、アーセナルは克服できそうにない問題を抱えている。主力を形成する若手は好不調の波が激しいものの、今シーズンのチェルシーはフランク・ランパード監督のもと、一体感をもって闘っている。トップ4チャレンジのポールポジションに、ウェストロンドンの強豪が位置していることは、紛れもない事実だ。
(文:粕谷秀樹)
【了】