柔道の攻防にヒントが
近年のフットボール界では、ボールポゼッションをひたすら高めていくのではなく、効果的にカウンターを狙うべきだという見方が支配的になってきている。
ところが実際には、カウンターから決まったゴールの割合は、過去10年間で半減しているからだ。つまりデータだけを見るならば、今日のフットボール界に訪れているのは、カウンター全盛時代であるよりは、むしろカウンター受難の時代だという結論になる。あのバルセロナでさえもが、カウンターを駆使しているにもかかわらずだ。
どうして、このような奇妙な現象が起きてしまうのか。UEFAのテクニカルレポートが示唆するものと、一般のフットボールファンが受ける印象とでは、なぜかくも食い違うのだろうか。
謎を解く秘密は、まさにカウンターの浸透にある。
10年前に比べて、単純なカウンターからゴールが決まる割合が半減したのは、ヨーロッパのトップクラブが「カウンターへの対抗措置」を考えるようになったからに他ならない。
かつての戦術論議で争点となっていたのが、守備から攻撃にいかにスムーズに移行するかであったとするならば、今日問われているのは、ボールを失って攻撃が失敗に終わった際に、いかに再び守備に戻るかというテーマになっている。どのクラブも、当然のようにカウンターを狙うようになってきたからだ。
日本の読者のみなさんには、柔道の攻防を思い出してもらうとわかりやすいかもしれない。
基本的に柔道の試合では、どちらかの選手が、「内股」のような技を仕掛けていく。
内股をかけられた相手はじっと耐えるか、あるいは「内股すかし」のような技をかけて切り返しを狙う。切り返しとは、フットボールでいうところのカウンターに相当する。
この手の切り返しは非常に有効になる。技をかけてきた人間は体勢が崩れているし、そこを突く形になるからだ。
だが攻防は、そこで終わらない。相手が「内股すかし」をかけてきた瞬間、さらに別な技で切り返すことができれば、もっと大きなダメージを与えることができる。相手もまた体勢が崩れているし、「自分の返し技が返される」などとは夢にも思っていない。
やや説明が長くなったが、ゲーゲンプレスを始めとする「カウンターに対するカウンター戦術」は、この発想に極めて近い。
相手がボールを奪い、速攻に転じようとしてきた瞬間に、もう一度ボールを奪い返すことができれば、さらに効果的な攻撃を仕掛けることができる。敵の選手たちは、すでに守備のブロックを解いて、前に向かって走り出そうとしているし、完全に逆を取られる形にもなる。
事実、クロップは次のように断言している。
「ボールを奪い返すのに1番いいタイミングは、相手にボールを奪われた瞬間だ」
クロップは、その理由もはっきり述べている。
「この段階では、ボールを奪った相手の選手は、ボールをどこにパスするかを探している」
クロップの指摘は正しい。
そもそもボールホルダーにタックルを仕掛けたり、パスをインターセプトしたりする場合には、まず相手の攻撃の流れを読む作業に集中しなければならない。またボールを奪い返す過程で、体力を消耗していることも考えられる。
そこから攻撃に転じるためには、たとえ一瞬にせよ、自分の意識を守備から攻撃に切り替える時間が必要になる。ボールを再び奪い返す側にとっては、そのわずかな「間」や躊躇、判断の迷いが狙い目になるのである。
(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)
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