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リバプール、クロップ監督の戦術「ゲーゲンプレス」の意味とは? 単なるカウンターではない新時代の戦術【ゲーゲンプレスの原点 前編】

今シーズンのプレミアリーグで首位を独走するリバプール。南野拓実の加入も決まり注目が集まるこのチームを率いるクロップの戦術「ゲーゲンプレス」の原点を探る。世界的サッカー史家がサッカーの進化を読み解く『戦術の教科書』(ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之著/2017年刊)から、一部を抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

text by ジョナサン・ウィルソン photo by Getty Images

イングランドで誕生するべきだったゲーゲンプレス

ユルゲン・クロップ
リバプールを率いるユルゲン・クロップ監督【写真:Getty Images】

 巡り巡ってリバプールを率いることになったのはご承知の通りだが、クロップがドーバー海峡を渡って、プレミアリーグにやってきたのは別の意味でも興味深い。

 クロップは1980年代から密かに素地ができつつあった、ブンデスリーガの戦術革命(プレッシング理論の浸透)、そして2000年以降に始まった、ドイツフットボール界の刷新を受けて表舞台に登場してきた。

 しかしゲーゲンプレスの戦術的なルーツは、実はもう1つある。1980年代序盤のイングリッシュ・フットボールだ。

 イングランドのチームは、1977年から1984年にかけてプレッシングからのダイレクトなカウンターで躍進。リバプールなどが実に七度もヨーロッパの頂点に立っている。

 ところがイングランドのフットボールは、そこから伸び悩んでしまう。

 まずクラブチームの活動に関して述べれば、「ヘイゼルの悲劇」などの影響により、ヨーロッパの大会から締め出しを食らう。

 と同時にプレミアリーグの発足も、戦術進化の妨げになった側面がある。そもそもFA(イングランド協会)は、リルシャールという場所にトレセンを設けて、人材の育成に励んでいた。ところがプレミアリーグの発足により、このトレセンは機能を停止してしまう。ロングボールを重視する、悪しき伝統を充分に是正できぬまま、各クラブに人材の育成を委ねる形になった。

 確かにFAは数年前にトレセンを復活させたが、失われたものはあまりにも大きい。1980年代の中盤から、そのまま順調に戦術思想が発達していれば、ゲーゲンプレスにかなり近い発想が生まれていた可能性は高かった。

 その意味で現在、イングランドのフットボール関係者が、最大のライバル国であるドイツに戦術を学ぼうとしているのは、実に皮肉な現象だと言える。クロップが駆使している「ゲーゲンプレス」などは、イングランドのフットボール界に用意されていたはずの未来、本来あるべき戦術進化を示唆しているからだ。

 ただしゲーゲンプレスに関しては、イングランドのフットボールファンの間でも誤解されている部分がある。

 そもそも「ゲーゲンプレス」を逐語的に翻訳すれば、「反プレッシング」あるいは「カウンター・プレス」という意味になる。ここで決定的に重要なのは、単なるプレッシング戦術や、カウンター戦術ではないという点だ。ゲーゲンプレスとは「カウンターを狙って、プレッシングを展開してくる相手への対抗措置」なのである。

 なぜこのような戦術が、かくも注目されるようになったのか。その理由は、近年の戦術進化の方向性にある。

 2014/15シーズン、UEFAはチャンピオンズリーグの内容を踏まえてテクニカルレポートを発表。「カウンターが鍵となる」という項目では、ブレーメンなどの監督を務めたトーマス・シャーフに解説を担当させている。

 シャーフは、ルイス・エンリケの下でバルセロナのプレースタイルが変化したことに言及。ボールポゼッションで圧倒するアプローチから、すばやいカウンターを狙う方針にシフトしたことなどを指摘している。

 ただし、このレポートはカウンターの有用性を説いたものではない。むしろ逆に、単純なカウンターから得点を奪うのが、いかに難しくなってきているかを示唆していた。

 それはデータの推移を見れば一目瞭然となる。

 例えば2014/15シーズン、オープンプレーからもたらされたすべてのゴールのうち、カウンターを契機としたものは20・6%だった。

 だが前シーズンは、全ゴールのうち23%がカウンターを起点としたものだったし、2012/13シーズンには、27%のゴールがカウンターからもたらされている。

 さらに2005/06シーズンにまでさかのぼれば、カウンターから決まったゴールの割合は、さらに増加する。同レポートは、UEFAのテクニカルディレクターであるアンディ・ロクスバラによってまとめられたが、彼はなんとオープンプレーから決まったすべてのゴールのうち、40%がカウンターからもたらされたとしている。

 この事実は衝撃的だ。

(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)

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