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日本代表 5年前

U-22日本代表の日仏ハーフ山口瑠伊、「日本語が一番苦手」と苦笑する特異な経歴とは? スペインで磨くGKの感覚

U-22日本代表は28日、キリンチャレンジカップ2019でU-22ジャマイカ代表と対戦し、9-0で大勝した。スペイン2部・エストレマドゥーラでプレーする山口瑠伊は、半年ぶりにU-22日本代表のゴールマウスを守った。16歳の夏に日本を飛び出してフランス、スペインと渡り歩いた21歳は、候補者が並ぶ東京五輪の守護神争いに名乗りを上げる。(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人 photo by Getty Images

GK候補は8人

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U-22日本代表のGK山口瑠伊はジャマイカ戦に先発した【写真:Getty Images】

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 前半の45分間に限れば、シュートを打たれるようなピンチは一度も迎えなかった。何しろU-22ジャマイカ代表の攻撃陣が、ペナルティーエリア内へ侵入してきた回数そのものがゼロだった。U-22日本代表のゴールマウスを守る山口瑠伊がボールを手で扱ったのも、たった一度だけだった。

 苦し紛れに蹴られた縦パスが通らず、両手でしっかりと抱え込むようにキャッチしたのが39分。その時点でMF中山雄太(ズヴォレ)、MF旗手怜央(順天堂大)、FW前田大然(マリティモ)、再び旗手、そしてMF安部裕葵(バルセロナ)が次々とゴーネットを揺らし、大量5点のリードを奪っていても、ラ・リーガ2部を主戦場とする21歳の集中力が途切れることはなかった。

「簡単に思える試合が逆に難しくて。あまりシュートとか、クロスなどのアクションがないときに、どれだけ試合に集中できるのか。そういった点で、この試合の難しさというのは感じていました」

 U-22ジャマイカ代表をトランスコスモススタジアム長崎に迎えた、28日のキリンチャレンジカップ2019は、森保一監督に率いられる東京五輪世代にとって12度目の活動となる。これまでに招集されたゴールキーパーは総勢8人。小島亨介(大分トリニータ)が最多の6度を数え、オビ・パウエルオビンナ(流通経済大)、波多野豪(FC東京)、谷晃生(ガンバ大阪)、そして山口が5度で続く。

 もっとも、4度の大迫敬介(サンフレッチェ広島)は東京五輪世代を中心に構成されたフル代表として、小島とともに6月のコパ・アメリカ、今月中旬のEAFF E-1サッカー選手権へ招集。両大会でキャップをひとつずつ獲得している実績を踏まえれば、東京五輪の守護神に最も近い存在と言っていい。

サッカーと柔道の共通点

 代表メンバー数がワールドカップなどの「23」と比べて「18」と少ない、五輪におけるゴールキーパーの枠はわずか「2」となる。大迫が一歩抜け出している状況で、谷、初めて招集された小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)との競争を制し、6月のトゥーロン国際大会以来の復帰を果たしたジャマイカ戦で先発を射止めた価値に、山口は「すごく嬉しいこと」と端正なマスクを綻ばせた。

「もちろん、まだまだ成長させなければいけないところもあります。すごくいい競争になっていると思うので、あとは僕自身の問題だと思っています」

 自らの強い意思で、異色に映るキャリアを歩んでいる。フランス人の父・ヴァンサンさんと、日本人の母・浩美さんの間にパリで生まれた山口は、生後6ヶ月で家族ともに来日。東京・新宿区ですくすくと育ち、大の親日家で柔道5段の腕前をもつ父の影響で、サッカーに先駆けて柔道を始めている。

 一時はサッカーと両方に夢中になった山口よれば、柔道の特に寝技に入る瞬間は「キーパーが身体を投げ出してセーブするときの感覚に似ている」という。どちらか好きな方を選ぶ、という岐路に立った11歳のときにサッカーを選んだ山口は、中学進学とともにFC東京U-15深川に加入する。

 同期には今回のジャマイカ戦に招集されたDF岡崎慎(FC東京)とDF杉岡大暉(湘南ベルマーレ)だけでなく、後に青森山田高に進学して同校の全国高校サッカー選手権初優勝に守護神として貢献した廣末陸(レノファ山口、来季からFC町田ゼルビアへ期限付き移籍)がいた。

「半年もしないうちに行くことを決めた」

 FC東京U-15深川からFC東京U-18への昇格を争う過程で、山口の方が将来性を高く評価された。しかし、努力の末に歩み始めたトップチーム昇格への近道から、山口はあえて外れる。2014年夏に父の母国、リーグ・アン(当時)のFCロリアンのユースチームへ移籍した。

「半年もしないうちにフランスへ行くことを決めました。チャンスが転がってきたので、何も考えることなくすぐに、という感じですね。向こうへ入団テストを受けにいって、その結果でオファーが来たので。海外でチャレンジしたい、という思いを抱き続けていたことが一番大きかったですね」

 山口は幼稚園年代からフランス教育省に承認されたインターナショナルスクール、東京国際フランス学園(旧リセ・フランコ・ジャポネ・ド・東京)に通っていた。東京・北区内にある同学園から、FC東京U-18の練習拠点がある小平市内へ毎日通うのは、16歳になったばかりの山口にとって肉体的にも、そして精神的にも大きな負担となっていた。

 勉強を含めたすべてが中途半端になりかねない状況では、今年のトゥーロン国際でチームメイトになった同期のライバル、波多野と競争していく上でスタートラインにも立てないのではないか。こうした思いも山口の背中を強く押し、所属選手の教育にも力を入れるロリアンの一員になった。

「それでも、少しするとフランスからスペインの方に行きたいと思うようになって。代理人と一緒に探しているなかで、いまのチームを見つけました」

憧れはケイラー・ナバス

 韓国で開催されたFIFA・U-20ワールドカップに、メンバーのなかで唯一の海外クラブ所属選手として出場した直後の2017年6月。スペイン4部リーグのエストレマドゥーラBへ移籍した山口を動かしたのは、長く胸中に抱き続けた憧憬の思いだったのかもしれない。

「目標とするゴールキーパーはいないですけど、小さなころから憧れてきたキーパーはケイロス・ナバスとか、昔ならオリバー・カーンとか、最近ならば(マルク=アンドレ・・)テア・シュテーゲンですね。一人ひとりが特別で、いろいろなところが好きでしたけど、一番は(ケイラー・)ナバスです。スピードを生かしたシュートストップやクロスへの飛び出しに、特に憧れていました」

 身長185cmと自身の188cmよりも低いナバスは、2010年に母国コスタリカからスペインへ新天地を求め、アルバセテ、レバンテUD、そして銀河系軍団レアル・マドリーで活躍。群を抜く反射神経と判断力の速さはワールドカップの舞台でも存分に発揮され、2014年のブラジル大会で旋風を巻き起こしたコスタリカ代表が、ベスト8へと進出する原動力になった。

 憧れのナバスがプレーしていたスペインで心技体を磨き続けた山口は、今シーズンから2部リーグを戦うエストレマドゥーラのトップチームへ昇格。11月3日のジローナFC戦でリーグ戦デビューを果たし、カップ戦でも1試合に出場した実績を引っさげて今回のジャマイカ戦へ参戦した。

4つの言語を話せるマルチリンガル

「やっぱりゴールを守ることを、それもまずは無失点で抑えるというキーパー本来の仕事の部分で、日本でプレーしていたとき以上に、まさに身体へ染み入るような感覚で学んだところですね。そこからクロスへの飛び出しもあるし、ビルドアップのところでもサポートしてチームに貢献する、というところだと思っています」

 6シーズン目を迎えたヨーロッパにおける日々で新たな血肉になった部分を、山口はキーパーに求められる原点だと力を込める。そして、無我夢中で駆け抜けてきたなかで得た副産物もある。山口本人をして「日本語が一番苦手です」と苦笑させる、他の外国語の急速な上達ぶりだ。

「いまでは日本語、英語、フランス語にスペイン語の4つを話せます。日本にいたときは父とフランス語で、母とは日本語で話していました。英語に関しては、両親が英語でいつもしゃべっているのを聞きながら独学で覚えました」

 これから覚えられる外国語として、ポルトガル語とドイツ語はどうでしょう、と聞くと笑顔で肯定しながら、さらにもうひとつをつけ加えることも忘れなかった。

「あとは、イタリア語はいけるんじゃないかと」

 ヨーロッパで長くプレーすることを思い描いているからか。7ヶ国語を駆使する日本代表のベテラン川島永嗣(RCストラスブール)に並ぶマルチリンガルぶりを目指す山口は、一方で母親から受け継いだ、日本人ならではの大和魂をも胸中にたぎらせている。

コロンビア戦のリベンジ

 自身は招集されなかった11月のU-22コロンビアとのキリンチャレンジカップ2019。東京五輪世代の国内初お目見えとなり、久保建英(RCDマジョルカ)や堂安律(PSVアイントホーフェン)らのフル代表組をあえてU-22代表に招集しながら、0-2の完敗で一敗地にまみれた。

「U-22世代の一員として悔しかったし、そのリベンジを果たしたいという気持ちが強いんです」

 スペインの地でコロンビア戦の映像も見た山口は、個人的なプレーよりも、何よりもU-22代表を勝たせるという強い気持ちを抱いて帰国・合流した。秘められた熱い思いは、後半にも1点を加えて大量6点のリードを奪って迎えた58分のプレーに反映されていた。

 前線からの積極果敢なプレスをかけ続け、守備から攻撃へのリズムを奏で続けた前田、安部、旗手が同時に交代した直後の一瞬の隙を突かれて、ジャマイカのキャプテン、MFピーター・バッセルに意表を突くミドルシュートを放たれた。ゴールの右隅を目指しながら、急降下してくる強烈な弾道にしっかりと反応した山口はダイブから両手でセーブ。コーナーキックに逃れている。

 なぜか公式記録にはシュートと記されていない一撃でネットを揺らされていたら、画竜点睛を欠いたと言われかねないあわやの大ピンチ。前半のキックオフ直後から自らに言い聞かせてきたキーワード、集中を途切れさせなかった山口は、小さな雄叫びを来夏に迫る東京五輪へのサバイバル戦へと紡いだ。

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(取材・文:藤江直人)

【了】

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