トッテナム、最大の懸念はエリクセン
序列、練習内容、食事のメニューなど、監督が代わればすべてが見直される。11月19日、トッテナムはマウリシオ・ポチェッティーノを解任した。翌日、ジョゼ・モウリーニョが新監督に就任した。チームは一変する。
ポチェッティーノに心酔していたエリック・ラメラ、ファン・フォイスは優先順位を下げ、近ごろはベンチからも外れるケースが増えてきた。モウリーニョに限らず、前任者のカラーを打ち消したいのが新監督の性だ。タンギ・エンドンベレやジオバニ・ロ・チェルソなど、今夏の新戦力が早々と整理の対象になっても不思議ではない。
ただ、トッテナムは選手層が薄いため、ポチェッティーノのカラーをすべて打ち消すような荒業は危険すぎる。徐々に創り変えることが肝要だ。
さて、「絶対的な主力」とモウリーニョが信頼するハリー・ケイン、「私は彼に恋をしたようだ」と新しいボスが独特の言い回しで評価したソン・フンミンは、これまで同様に定位置を確保している。
その一方で、クリスティアン・エリクセンは来年1月の放出が既定路線だ。「ステップアップのときを迎えた」と本人も退団を示唆し、レアル・マドリーやユベントスへの移籍を望んでいたにもかかわらず、色よいオファーが届かなかったことは賢明な読者の皆さんもご存知だろう。
市場の再開が目前に迫っている現在も、エリクセンの移籍は望み薄だ。マドリーもユベントスも中盤は人材過多で、買いよりも売りが優先と、両クラブの上層部が明らかにしている。モウリーニョは「モチベーションを踏まえると使いづらい」と語っている。さぁ、どうしたものだろうか。
ここは妥協点を見いだすしかないようだ。新スタジアムの建築費用を少しでも回収すべく、トッテナムのダニエル・レヴィ会長が移籍金を下げるとか、もしくはプレミアリーグのクラブに差し出すとか、ある程度のリスクを冒したビジネスも考える必要がある。
来年6月を待ってボスマンプレーヤーになるのなら、移籍金が発生する1月に売る、が賢明だ。ましてエリクセンは功労者である。飼い殺しはあまりにも理不尽だ。
「プレミアリーグのクラブとビジネスしないとはいっていない」
レヴィ会長のもとに、なんらかのオファーが届いたのだろうか。なお、ボスマンプレーヤーのトビー・アルデルヴァイレルトが12月20日に契約を延長し、ヤン・フェルトンゲンのエージェントも「交渉のテーブルに着く」と前向きなコメントを発していた。両センターバックは残留濃厚だ。
アーセナル、期待の新監督も前途多難な状況に
12月20日、アーセナルの新監督にミケル・アルテタが就任した。マンチェスター・シティの名コーチとして名を馳せ、同クラブのジョゼップ・グアルディオラ監督も一目置く優れた指導者だ。しかし、ノースロンドンの強豪は断捨離以前の問題を抱えていた。
センターバックはだれひとりとして当てにならない。右サイドバックのエクトル・ベジェリンは度重なる負傷で精彩を欠いている。16節のウェストハム戦でキーラン・ティアニーが左肩を脱臼して全治3か月。左サイドバックは上がったら戻ってこないセアド・コラシナツただひとりになった途端、シティ戦で負傷退場。18節のエヴァートン戦はFW登録のブカヨ・サカを左サイドバックに起用するしかなかった。人材不足はだれの目にも明らかだ。
アルテタは19節のボーンマス戦から指揮を執る予定だが、断捨離のための時間があまりにも短すぎる。移籍を希望するピエール=エメリク・オーバメヤン、下降線をたどるメスト・エジルの去就も含め、新監督は前途多難だ。
ユナイテッド、若手の大量獲得も胸騒ぎな情報が…
オーレ・グンナー・スールシャール監督の人選から、マンチェスター・ユナイテッドの断捨離を考えてみよう。
拙速、かつ人為的な世代交代により、ネマニャ・マティッチの居場所がなくなりつつある。しかもボスマンプレーヤー。退団は避けられそうもない。アシュリー・ヤングも同様だ。両サイドバックの貴重なバックアッパーとはいえ、34歳という年齢がネックになる。
スールシャールはアーロン・ワン=ビサカ、ブランドン・ウィリアムズといった若手を好み、ティモシー・フォス=メンサーも膝の負傷が癒え、来年1月中旬に戻ってくる。優先順位の下落に耐えかねたヤングが、退団を申し出る可能性も否定はできない。
また、アクセル・トゥアンゼベに使えるめどが立ち、膝を痛めて7月下旬から戦列を離れていたエリック・バイリーが、12月20日にトップチームの全体練習に復帰した。ハリー・マグワイアとヴィクトル・リンデロフを含めてCBは4人揃う。
こうして、マルコス・ロホとフィル・ジョーンズの立場が危うくなった。ロホはこの夏、エヴァートンとの交渉が成立寸前で頓挫している。ミスが多すぎるジョーンズは、スールシャールの信頼をついに得られなかった。次のキャリアを刻むときが迫ってきたようだ。
さて、高級紙『テレグラフ』はマンチェスター・シティのジェイドン・サンチョ、レスターのジェームズ・マディソン、アストンヴィラのジャック・グリーリッシュが冬の補強候補と伝えている。スールシャールはザルツブルクのエルリング・ハーランドに対する興味を隠していない。しかし、これ以上ヤングガンズを増やしても余計な緊張感をあおるだけだ。
また、前線にスピード系の選手を揃えすぎたため、引かれて、スペースを消されるとなにもできなくなる。データサイト『opta』によると、スールシャール体制下ではボール支配率が対戦相手を下まわると11戦8勝、上まわった場合は28戦でわずか10勝という数字が検出されている。0-2で敗れた18節のワトフォード戦(ここまでわずか1勝のチームに完封負けを喫するとは!?)も、ボール支配率は64%だった。冬の補強は、このデータを十分に考慮しなくてはならない。
そして最後にポール・ポグバである。彼が希望するマドリーもユベントスも、120~130億円とされる移籍金を支払う余裕はなく、ユナイテッドも値下げはしない。好ましくない現状を分かっているからこそ、エージェントのミーノ・ライオラはメディアを通じて殊勝なアピールを繰り返しているのだろう。
「ポールはユナイテッドを愛し、愛するクラブに全身全霊を傾けようとしている」
発言内容が半年ほど前と180度変わった。ライオラが舌先三寸であることは業界の常識である。ポグバの才能は認めるものの、悪評の多いエージェントが背後に控えるかぎり、絶対の信頼は置けない。ライオラのコメントは、いわゆる情報操作だ。世論を味方につける手段に違いない。
ポグバとライオラをコントロールできず、ゲームプランに幅も深みもないスールシャールに、何人かの若手が疑問を抱きはじめたという胸騒ぎな情報も飛び交いはじめた。来年の1月も、ユナイテッドはポグバ関連で弄ばれるのだろうか。
(文:粕谷秀樹)
【了】