今季初のエル・クラシコ
スペインの伝統的な一戦であるエル・クラシコがスコアレスドローに終わるのは、2002年以来17年ぶりのことだという。日韓ワールドカップが開催された年から今まで、エル・クラシコでは必ず得点が生まれていたということだ。
そう考えると、現地時間18日に行われたバルセロナ対レアル・マドリーは、少し物足りなさが残る…いや、そんなことはなかった。両チームにとっては不完全燃焼感が残るかもしれないが、見ている側としては大変興味深い試合であったと言えた。やはりエル・クラシコはエル・クラシコである。
もともと10月26日に開催される予定だったバルセロナ対マドリー。しかし、バルセロナの政情不安により異例の延期となり、現地時間18日の開催に至った。試合の開催地、カンプ・ノウは厳戒態勢。いつもとはまた違った緊張感が漂っていたと言える。
そんな重要な一戦で、ホーム・バルセロナは4-3-3を採用。3トップはお馴染みのFWリオネル・メッシ、FWルイス・スアレス、FWアントワーヌ・グリーズマンを並べ、アンカーにはMFセルヒオ・ブスケッツではなくMFイバン・ラキティッチを起用。右サイドバックにDFネウソン・セメドを置き、MFセルジ・ロベルトをインサイドハーフの一角で起用している。
対するマドリーは怪我人が多く出ている中、4-4-2のフォーメーションを採用。FWカリム・ベンゼマとFWガレス・ベイルが最前線に張り、MFイスコをトップ下で起用。DFマルセロが負傷で不在の左サイドバックにはDFフェルラン・メンディが先発に名を連ねた。
立ち上がりからペースを握ったのはアウェイのマドリー。ベンゼマとベイルの2人はバルセロナの2CBに対し、中央を締める形でプレッシャーを与える。ボールの逃げ口となるアンカーのラキティッチには基本的にはイスコ、そうでない場合はMFトニ・クロースやMFフェデリコ・バルベルデが入れ替わりながらマークを行った。サイドバックも相手のサイドバックの位置までプレッシャーに行くなど、マドリーは全体的なラインを高く保った。
ラインを高く保つということは、それだけ中盤のエリアを使われるとピンチを招きやすくなる。実際、GKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンのわずか1本のロングパスから中盤の位置まで下りてきたメッシへボールが渡り、バルセロナの攻撃は一気に加速したシーンは、試合開始からまもなくして何度か見受けられた。しかしながら、マドリーの守備陣は無理に飛び込まず、我慢して相手の攻撃陣に対応。中盤の選手のプレスバックも素早く、大きなチャンスはほとんど与えなかった。
マドリーは攻撃時、選手の距離感をコンパクトに保ち、テンポの良いパスでバルセロナ守備陣をうまく外した。10分には、クロース→イスコ→ベンゼマとスムーズな繋ぎを見せ、最後は背番号9が左足でシュート。これはGKの真正面に飛んだが、試合の入りではマドリーが攻守両面で上回っていた印象が強かった。
マドリーが捕まえきれなかった男
バルセロナはマドリーの前からのプレッシャーに苦戦を強いられ、なかなか前までボールを運べない展開が続く。狭いスペースでボールを失っては押し込まれ、フィニッシュを浴びたりCKを与えたりとラインをズルズル後ろへ下げられた。
事実、バルセロナは20分過ぎまでシュートの1本すら放つことができていなかった。メッシの個の打開から何度かゴール前まで侵入することはあったものの、最後の最後でマドリーの守備陣に跳ね返された。マドリー守備陣のラインはキチンと整っており、バルセロナと言えどここを崩すのは困難であったと言える。
しかし、唯一マドリーを苦しめたものがあった。この日、左サイドバックとして先発出場を果たしていたDFジョルディ・アルバのランニングである。
30分にはそのJ・アルバが味方のビルドアップを見ながらサイドをゆっくりと駆け上がると、グリーズマンからパスが通る。フリーな状態でボールを受けた背番号18は中央へ飛び込んできたS・ロベルトにピンポイントクロスを送り、決定機を演出した。
40分にはJ・アルバのランニングを見逃さなかったメッシが浮き球のパスを送ると、スペイン人レフティーは完全に相手の背後を突き、フリーな状態でGKティボー・クルトワと1対1の状況を作り出す。シュートは惜しくも枠外に飛んだが、飛び出す際にオフサイドラインを気にし、少しペースを緩めるなど、攻撃面でのセンスを感じさせるプレーであった。メッシとのホットラインは健在で、ここはマドリーが捕まえきれなかった唯一のポイントだと言えた。
そしてマドリーにとってもう一つ不安だったのが左サイドのスペース。F・メンディが果敢に前線へ飛び出すことで攻撃に厚みは増すのだが、その分、後ろの枚数が足りなくなり、大きなスペースが空くことがあった。
たとえば44分のシーンでは、MFフレンキー・デ・ヨング→グリーズマンと左で作った際に、反対サイドのF・メンディは戻り切っておらず、DFセルヒオ・ラモスもボール方向を見ていたため、大外のスアレスが完全フリーとなっていた。そこを見逃さなかったグリーズマンがウルグアイ人FWへクロスを送り、決定機を作り出したのだ。
マドリーの前線からのプレッシャーは確かに脅威であった。しかし、深い位置まで侵入できれば崩せるポイントは少なからずあったと言える。前半はこのまま0-0で終了していたが、バルセロナは後半にこういった部分をいかに突いていけるかが、勝利へのカギとなっていた。
レアルの攻守におけるクオリティの高さ
勝負は運命の後半へ。そこでもペースを握ったのは、マドリーであった。相変わらず前線からの守備がハマっており、バルセロナのビルドアップを阻止。簡単にスペースを与えないことで、相手にペースを握らせなかった。
その状況を見て、最初に動き出したのはエルネスト・バルベルデ監督であった。同指揮官はN・セメドに代えMFアルトゥーロ・ビダルを投入。S・ロベルトを右サイドバックへと回し、より高い位置でボールを奪いとる戦い方を目指した。
しかし、状況はなかなか好転しなかった。マドリーは自陣からでもダイレクトパスを織り交ぜたテンポの良いパス回しでバルセロナのプレスを的確に回避。63分の場面では自陣からボールを持ち運び、最終的には敵陣で4対4の状況を作り出している。後半の入りもマドリーの方が一枚上手であった。
71分にはMFカゼミーロの浮き球に抜け出したF・メンディがグラウンダーのクロスを送ると、ベイルが反応し、ゴールネットを揺らした。しかし、F・メンディの抜け出しのところでオフサイドがありゴールは認められず。バルセロナからすれば助かったシーンであった。
攻撃面でクオリティの高さを見せつけていたマドリーは、守備でも申し分ない対応を見せた。73分の場面ではゴール前でボールを保持されるなどピンチを招いたが、一人ひとりが高い集中力を保ってボールに素早いアプローチをかけ、ボールをどんどんサイドへ追いやっていく。味方がコースを限定しているのを冷静に判断し、次にどこにボールが出るのか予測ができているため、ボールホルダーへのプレッシャーが一切、遅れることがなかった。
と、マドリーは再三チャンスを生んだが、それをゴールへと結びつけることはできなかった。結局、試合は0-0のまま終了。両者勝ち点1ずつを分け合う形になった。
躍動するカゼミーロ
試合後のスタッツを見てみると、バルセロナは支配率こそ52%でマドリーを上回ったものの、シュート数では9本:17本となっているなど相手に大きな差をつけられた。インターセプトの回数も7回:12回、クリアの数は28回:6回となっているなど、いかにマドリーに押し込まれたかがわかるデータが残っている。スコアこそ0-0であったが、内容はバルセロナの完敗であったと言えるだろう。
マドリーは対バルセロナ戦術を90分間遂行し、試合の主導権を握ったと言える。ジネディーヌ・ジダン監督の下、準備されてきたことをしっかりとピッチ上で表現し、内容面での勝利を収めたと言える。パフォーマンスが良かっただけに0-0で試合を終えたのは悔いるべき点だが、十分勝利に値する内容であった。
そのマドリーにおいて最も輝きを放っていたのがアンカーのカゼミーロであったと言える。守備面での勝負強さ、攻撃面では積極的にシュートを放つなど、豊富な運動量を活かして90分間躍動し続けていた。
バルセロナの大きな展開にも、瞬時の判断力とアクションの速さを効かせ、ボールホルダーに素早く対応。味方のピンチを、身体を張って防ぎに防ぎまくった。「いまのいい対応だな。誰だ?」と思うとそれが高い確率でカゼミーロ。それほどこの男の存在感は際立っていた。
ブラジル人MFはこの日、タックル成功数5回を記録。これは両チーム合わせてトップとなる成績だ。シュート数も4本、パス成功率も67本で85%を記録するなど申し分ない活躍であった。懸命なプレスバックとハードな守備。バルセロナのゴールへの活路を寸断するには必要不可欠な選手であったと言える。
エル・クラシコを終え、バルセロナは次節にアラベスと、マドリーはアスレティック・ビルバオとそれぞれ対戦する。激しい首位争いはまだまだ続くはずだが、先に抜け出すのはどちらになるだろうか。
(文:小澤祐作)
【了】