パウロ・ベント監督が貫くスタイル
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森保一監督が率いる日本代表はEAFF E-1サッカー選手権・韓国大会優勝をかけてアウェイ・釜山の地で韓国代表と対戦する。前日には“なでしこジャパン”こと女子代表が優勝を決めており“アベック優勝”の期待もかかるが、そこに立ちはだかる韓国代表はこれまでのチームと変わった顔を見せている。
ロシアワールドカップ後に韓国代表の監督に就任したのは元ポルトガル代表MFのパウロ・ベント。当初はビッグネームの名前が浮かんでは消える状況で、噂にもあがっていなかったところからパウロ・ベントが監督就任に至ったのはもちろんビッグネームとの話がまとまらなかったこともあるが、カタールW杯まで見据えたプレゼンテーションが明確だったことが伝えられる。つまり良くも悪くも旧体質のスタイルを脱して韓国のサッカーを前進させるプランニングだ。
ポルトガル人指揮官にとって最初の真剣勝負の場となったAFCアジアカップ2019は準々決勝でカタールに敗れて早々に大会を去ることとなった。当然ながら韓国メディアから批判的な声が相次いだが、パウロ・ベントは将来のためにスタイルを継続させることを強調した。実際にボール保持率はカタールに対して61%、パス成功率もカタールを大きく上回る87%を記録した。
それをゴールに結び付けることができなかったが、途中からパワープレー的な戦いに切り替えることもなくスタイルを貫こうとする姿勢が見られるなど、韓国が指揮官のもとで変わろうとしていることが浮き彫りになった試合でもあった。
そしてKリーグの選手を主体にGKク・ソンユン(北海道コンサドーレ札幌)、DFキム・ヨングォン(ガンバ大阪)、MFナ・サンホ(FC東京)という3人のJリーガー、中国超級リーグのパク・ジス(広州恒大)とキム・ミンジェ(北京国安)、MLSのバンクーバー・ホワイトキャップスからファン・インボムを加えたE-1の韓国代表も継続的なプロジェクトの途上にあることを思わせる。
2試合でわずか3得点だが…
2-0で勝利した香港戦も1-0と辛勝した中国戦もフォーメーションは4-3-3だが、相手との位置的優位を意識した、立ち位置の変化が見られた。香港戦では主にサイドバックがややインサイドに絞り、左右のウィングがワイドに張る形を取り、香港のブロックをストレッチさせてインサイドのスペースを突く形を続けた。結果的にペナルティエリア手前で得たFKからファン・インボムが直接シュートを突き刺して先制点をあげると、後半にはCKの流れから追加点をあげた。
中国戦では両サイドバックがウィングのような高い位置まで上がり、ワイドに開いたセンターバックの間にアンカーのチュ・セジョンが落ちる形を多くとり、中国のハイプレスを回避する形から相手陣内に押し込んだ。しかしながら多くのチャンスを決めきれず、前半13分にチュ・セジョンのCKからDFのキム・ミンジェが合わせて奪った1点を守りきる形となった。2試合で奪った3得点は全てセットプレーなのだ。
韓国のテレビでは得点力不足が、ここまで7得点を記録している日本と対比的に伝えられるが、中国を相手に66%のボール保持率、16本のシュートを記録した一方で、中国には2本しか打たれていない事実に驚かされる。しっかりとボールを保持しながら位置的優位を作り、攻撃が終わっても攻守の切り替わりからボールに寄せるだけでなく、バランスを維持して相手の攻撃を限定し、効率よく回収して次の攻撃につなげていく。韓国代表のサッカーは確かに進歩しているのだ。
ただし、やはり日韓戦というのは日本にとって特別であるように、韓国にとっても特別だ。ある意味で戦術より精神的な勝負強さが重視される向きもある大一番で、韓国代表が従来のパワーやスピードと言ったフィジカル勝負や局面の数的優位より、ピッチ全体に位置的優位を作っていくスマートな戦い方で日本を押し込む時間帯を多く作ったとしても、勝利という結果を導けなければパウロ・ベントに対する批判はさらに強まることになるだろう。
もちろん日本としては韓国のプロジェクトが継続されるためにE-1優勝という栄誉を譲る必要は全くない。むしろ、なりふり構わず襲いかかってくるトラではない韓国は現時点で与し易い相手かもしれない。
ただ、3-4-2-1という森保一監督の本来得意とするシステムに対して、韓国代表がどういう立ち位置で優位性を取ろうとしてくるのか、そこからどう日本の3バックを攻略にかかるのか。それこそ進化へのプロセスにある韓国との試合における大きな注目点なのだが、結果として志半ばで韓国代表監督に引導を渡す試合になる可能性もある。
(取材・文:河治良幸【韓国】)
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