冨安が移籍後初アシスト
1-0で迎えた後半の8分だった。後方から味方が組み立てを図った時、冨安健洋は右サイドで手をあげた。目の前に広大なスペースが空いていたことを見て、パスを呼んだのだ。
ボールを受けるが、アタランタの選手たちはどういうわけかプレッシャーをかけてこない。すると冨安は、自らボールをドリブルで前へと運んだ。前線ではその動きに合わせ、味方がエリア内に動いてマークを外す。その中で、少し後方からフリーで走り込むMFアンドレア・ポーリの姿を視野に捉えた。
そして、右足で柔らかいキックを放つ。ある程度スピードに乗りながら、柔らかい回転の掛かったアーリークロスはエリア手前で落ちて、前線に陣取ったポーリの頭を正確に捉える。山なりのシュートはゴールの左上隅に飛び、アタランタGKピエルルイジ・ゴッリーニの指先をかすめてネットを揺らした。
2-1としたボローニャは一点差に詰められるものの、アタランタの猛攻を守り切って勝利を飾った。つまり冨安のアシストは、決勝点につながったわけだ。日本代表のセンターバックは、セリエA挑戦にあたって右サイドバックに活躍の場を得る。以来高い攻撃能力を披露していた彼は、とうとうセットプレー時のヘディングなどよりも先にクロスで得点を演出してしまった。
積極的な姿勢は、開始から見えていた。先発に復帰した右ウイングのリッカルド・オルソリーニをフォローし追い越すようなオーバーラップもさることながら、それ以上に目立っていたのは低い位置からのミドルパス。深い位置でボールを受けると、2、3枚先を見てオルソリーニや、サイドに流れてきたロドリゴ・パラシオらにパスを出し、攻撃を動かそうとしていた。
戦力には限りがありながらUEFAチャンピオンズリーグに出場し、グループリーグ突破まで決めてしまったアタランタの強みは独特の戦術にある。各選手がさながらオールコートのマンマーク気味に相手選手に張り付き、パスコースを消すと同時に高い位置からの潰しを図る。
しかし低いところで彼らのプレスを回避し、裏へと素早く展開すれば、3バックの裏のスペースという弱点を攻略できる。事実、先制点を奪ったボローニャの攻撃は縦へのロングカウンターから。冨安自身のプレーにも、深いところからアタランタDFの裏を狙おうとする意識が見られた。
ただ、そこは強敵。先制点を奪われたアタランタは圧力を増し、ボローニャを逆に追い詰めていく。冨安に対しても対面の左ウイングバックであるロビン・ゴセンスがプレスをかける。パスコースを塞がれ近くの味方に横パスを出すと、狙われていたかのようにパスの受け手がプレスで囲まれる。こうしてボールを奪われると、失点続きのボローニャの守備陣は安定感を失う。冨安自身も左クロスへの対処が良くなく、中途半端なクリアを拾われてしまうという前節ミラン戦の時と同じミスをしていた場面もあった。
次節は本職CBに?
しかし、やられっぱなしでは終わらない。冨安は前述のように、後半開始早々にアシストに成功。その後も前線を目掛けて積極的にミドルパスを放ち、チームの攻撃を動かすとともにアタランタのプレスの無力化につとめた。
一方、冨安は守備でも粘り強い対応を続けた。アタランタの攻撃になれば、まず対面のゴセンスを見る。カバーに回って裏のスペースへの走り込みを警戒するとともに、相手がボールをもてば積極的に食らいついてくる。ゴセンスが中央に逃げてきたら一緒に張り付き、プレスを掛けてボールを奪う。普段ならゴセンスが相手選手に対してよく仕掛けることを、逆にやって動きを封じ込めていた印象だった。
挽回を狙うアタランタは、後半から若手FWムサ・バロウを投入。左サイドにも良く流れてくるバロウの動きに反応し、左サイドの選手たちは外に中にと複雑にポジションを入れ替えて攻めてくる。しかし冨安はゴセンスに目を離さず、ポジションチェンジで撹乱を図る相手に対しても堅実な守備を続けた。またルイス・ムリエルらに対峙する味方選手もしっかりとフォローし、最終的に1点差を守った。
前節のミラン戦では2失点に絡み、試合翌日の地元紙の評価は非常に良くなかった。だがその次の試合できっちりと結果を出してくるところは、冨安のメンタルの強さを思わせるものだ。
積極的にゲームを作り、スピードを攻撃面でも発揮して、さらにはアーリークロスで得点まで演出してしまう。「彼はセンターバックだったが、サイドバックとしても素晴らしいということを我われは発見してしまった」。先日、クラブの技術統括を務めるワルテル・サバティーニ氏は地元紙の前にこう語っていたが、その通りの能力がピッチで示されたということだ。
ただ、次節レッチェ戦では、冨安は本職のセンターバックに戻る可能性もある。この日はDFのリーダーであるダニーロが2枚のイエローをくらって退場処分となったが、その後センターバックに戻されて穴埋めを任されたのは彼だったのだ。「ダニーロの穴を埋めるために最良の手を考えたい」とエミリオ・デ・レオ戦術担当コーチは語ったが、どんな答えを出すのか楽しみだ。
(取材・文:神尾光臣【イタリア】)
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