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チェルシーの戦術、選手起用法は? 補強ゼロなのにパワーアップ、弱点を埋める若手のブレイクスルー【序盤戦レポート(8)】

2019/20シーズンは序盤戦を終えた。補強が成功して首位争いを演じるチームもあれば、低迷して監督交代を余儀なくされたチームもある。各クラブのこれまでの戦いを振り返りつつ、見えてきた戦い方と課題を考察していく。第8回はチェルシー。(文:編集部)

シリーズ:序盤戦レポート text by 編集部 photo by Getty Images

チェルシーの戦術は?

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チェルシー【写真:Getty Images】

 昨季はUEFAヨーロッパリーグで優勝し、プレミアリーグでは2強に次ぐ3位。マウリツィオ・サッリ監督就任1年目としては悪くない結果だったが、今季のチェルシーの開幕前の下馬評は決して高いものではなかった。

 理由は大きく3つ、根本的には1つに収束される。国際サッカー連盟(FIFA)は2019年2月、チェルシーに対して直近2度の補強禁止処分を科した。クラブ強化の根本を揺るがす事態となり、サッリは1年でクラブを去った。さらに、通算110得点、92アシストのエース、エデン・アザールがレアル・マドリーに移籍。まさに四面楚歌の状態で今季の戦いに臨んだ。

 新たな選手を獲得できなかったチェルシーは、期限付き移籍でプレーしていたMFマテオ・コバチッチを完全移籍で招き入れ、武者修行をさせていた若い選手を呼び戻した。サッリに代わって指揮を執るフランク・ランパードは、若い彼らを一段上のステージへと上げることに成功している。

 基本フォーメーションは4-2-3-1。ミドルプレスからショートカウンターで攻め込む形でチャンスを狙う。最終ラインから前線へのロングボールも攻撃の形のひとつ。サイドハーフは運動量に優れ、惜しみない上下動でチームに躍動感を与える。中盤の底にはボールタッチに優れる選手が配置され、積極的に攻撃に絡んでいく。

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)では難敵ぞろいのグループHを2位で突破。プレミアリーグでは6連勝を記録するなど上位に付けていたが、第13節マンチェスター・シティ戦に敗れて以降はしばらく調子が下向いた。

センターバックは新顔が台頭

 GKはケパ・アリサバラガが不動の存在。ロングパスの精度が高く、最前線へのパスはチャンスの起点にさえなる。シュートストップは足下への反応が抜群によく、同胞のダビド・デ・ヘアを彷彿とさせるプレーを見せている。

 センターバックには、若い顔ぶれが並ぶ。昨季はダビド・ルイスとアントニオ・リュディガーが務めたが、前者はアーセナルに移籍し、後者は9月から3か月に渡って戦線離脱。代わって名乗り出たのはレンタルから復帰した2人だった。

 クルト・ズマは昨季、エバートンで主力に成長し、プレシーズンでも期待に応えるパフォーマンスを見せた。レンタル先のダービーでランパードに師事したフィカヨ・トモリも、アンドレアス・クリステンセンからポジション奪取に成功した。

 レンタルから帰ってきた2人が成長を遂げ、ケガから復帰したリュディガーと、背番号を27から4へと変更したクリステンセンが控える。4人とも20代前半から中盤と若いが、伸びしろ十分な陣容と言えるだろう。

 サイドバックは主将を務めるセサル・アスピリクエタが務める。本職は右サイドだが、20歳のリース・ジェームスが台頭してきたことで、左に回る機会が増えている。レンタル先のウィガンから復帰したジェームスは、攻守にパワフルなプレーを持ち味としている。

 左サイドバックにはブラジル人のエメルソンが控える。左利きを活かした攻撃参加は、アスピリクエタを上回るものがあるが、守備においては主将に一日の長がある。マルコス・アロンソは新体制下で出場機会を減らしている。

アザールが抜けた穴を埋めるアタッカー陣

 中盤の底は2つのポジションを3人の実力者が争う。ジョルジーニョはビルドアップに長け、長短のパスで起点となる。コバチッチは高いキープ力とテクニックでつなぎ役になる。今季はケガがちなエンゴロ・カンテも、3列目からの飛び出しは相手の脅威になれる。三者三様の特徴を持っており、対戦相手やゲームプランに応じてローテーションすることが可能になっている。

 トップ下は公式戦10得点をマークして昨季ブレイクしたルベン・ロフタス=チークが、5月に負ったアキレス腱断裂の大ケガにより不在。代わって起用されたメイソン・マウントは、イングランド代表でも初得点をマークするなど、飛躍のシーズンとなっている。

 両サイドハーフはいずれも献身性とテクニックを備えている。アスピリクエタに次ぐ在籍7年目を迎えたウィリアンは、アザールの10番を継承。直接FKを含めたフィニッシュの精度も健在だ。

 ドルトムントから加入したクリスティアン・プリシッチは、主に左サイドでプレー。鋭いドリブルからのカットインが得意で、21歳にしてCLでの実績は十分。加入後初ゴールは開幕から2か月半を要したが、そこでハットトリックを達成してしまう勝負強さを持ち合わせている。

 1トップでは、テイミー・エイブラハムがブレイクを果たした。25得点を挙げてアストン・ビラを昇格に導くと、プレミアの舞台でも得点能力を如何なく発揮。3試合で7ゴールを固め打ちするなど、わずか12試合で得点数は2ケタに到達した。

 前線は若手の台頭と同時に、ベテランが出場機会を得られずに苦しんでいる。32歳のペドロと33歳のオリビエ・ジルーはベンチを外れる機会も多い。レンタルから復帰したミチ・バチュアイも、エイブラハムの台頭に影を潜めている。

 3季ぶりのプレミア制覇は難しいものの、トモリ、マウント、エイブラハムといった若手が大きく飛躍。栄冠はそう遠くない未来まで近づいているかもしれない。

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