事実上最高地点の2位につけるマルセイユ
マルセイユが好調だ。
現在、パリ・サンジェルマン(PSG)に次いで単独2位。首位とは勝ち点5+1試合、と、およそ8点の差があるが、3位のリールに6点つけているから、前半戦は2位で終えることができるだろう。いまのリーグ・アンでは、PSGの優勝はほぼ既定路線であるから、2位の座は、事実上、他のクラブが目指す最高地点だ。
マルセイユがこれほどの好位置で前半戦を終えるのは、2014/15シーズン以来だ。この年はなんと前半戦首位。残念ながら、後半戦は失速して結局は4位で終えたのだが(優勝はPSG)、“エル・ロコ”こと、アルゼンチン人監督マルセロ・ビエルサが率いたこの年のマルセイユはなかなか面白いゲームをするチームだった。
そして今シーズン、マルセイユを率いているのはポルトガル人のアンドレ・ビラス・ボアスだ。
いまだにサポーターの間で英雄と仰がれているのもベルギー人のエリック・ゲレツ監督(2007~09)なので、「マルセイユは外国人監督が相性いいかも!?」と湧いている(直近の優勝は、現フランス代表監督ディディエ・デシャン監督の2009/10シーズンだが…)。
さて、ビラス・ボアス監督だが、上海上港の監督を2017年11月に退任した後はフリーと、約2年近いブランクがあったこともあり、着任が発表された後はサポーターの反応は鈍かった。開幕戦でいきなりスタッド・ランスにホームで敗れ、その後も降格圏内のディジョンやアミアンから勝ち点3を取り損ねるなど「取りこぼし」的な試合が続いて8位まで順位を落とすと、いやな空気も漂いだした。
しかし、11月に入ると、上位を競い合うリールとリヨンに連勝して勢いづき、第17節のボルドー戦まで、現在6連勝中だ。
ビラス・ボアス招聘による変化
序盤は手探り状態だった新監督の采配が、徐々に機能してきたのは間違いない。とはいっても、ビラス・ボアスはビエルサのように、「なんだこのシステムは!?」というような、仰天采配をしているわけではない。
ビエルサの戦術は選手たちにとって非常に難解で(いわゆる明確な“システム”はなく、見ている方にも難解だった)、それを理解するために長時間のビデオセッションがあったり、ピッチ上で実践するにもかなり負担が大きかったと、あとになって選手たちが次々に漏らしていた。しかし、きちんと実行できさえすれば結果が出るとわかっていたから、指揮官は自分の方針を変えようとはしなかった。
シーズン後半戦に徐々に順位を下げたのは、選手たちが心身ともに限界に達してしまったのも要因だった。
そこへいくとビラス・ボアスは、劇的な変化は避けつつ、いまできる最善策を選択している、という印象だ。0-4で敗れたPSG戦のあと、酒井宏樹にビラス・ボアスの印象を聞いたときも、彼のプレーに対する指示も前任者のときととくに変わりはなく、特別な戦術を用いているわけでもないと話していた。
そんな中で新指揮官の影響を感じるのは、チームの雰囲気が明るくなったことだ。
前任者のリュディ・ガルシア監督は、任期終盤の頃にはサポーターやメディアとの関係も悪化していて、チーム全体に「行きづまり感」のようなものが漂っていた。
そこへ、違うメンタリティを持つフレッシュな外国人、とりわけフランスでは一般的に好人物判定を受けているポルトガル人の指揮官を投入したことで、雰囲気が明るくなった。42歳と若く、選手との距離感も近い。新監督はスポーツダイレクターのアンドニ・スビサレッタら、フロント陣とも密に連絡を取り合っているとのことで、クラブ内の風通しも良さそうだ。しかも彼はフランス語が流暢なので言葉の問題もない。
もっとも今シーズンは、より上位で競り合うはずのリヨンやリールも前半戦で躓き、アンジェといった伏兵が上がってくるなど、上位10位内の順位が1試合の結果で大きく動くような混沌とした状態にある、というのも、8位に転落してもスルッと2位まで浮上できた背景にはある。
マルセイユに強い印象はないが…
それに、14/15シーズン同様、今シーズンはマルセイユにしては珍しく、欧州カップ戦出場がなく、負担が少ない。
ただ、酒井も3連勝目のトゥールーズ戦のあとで「(マルセイユ相手に)一矢報いてやろうという相手ばかりなので、どんなに小さいクラブでも、勝つことはすごく難しい。簡単に勝てる相手なんてフランスリーグにはいない」と話していたように、6連勝はなかなかできることではない。
さらに特筆すべきは、今季は戦力的にも強力な補強をしたわけではないということだ。
マリオ・バロテッリが退団したので、ボカ・ジュニオールズからアルゼンチン人FWダリオ・ベネデットを獲得。中盤の要だったルイス・グスタボが夏のメルカート期限ギリギリにフェネルバフチェに移籍したため、慌ててナントからヴァランタン・ロンジエという、じわじわと評価を上げている25歳のMFを、そしてロランドとアディル・ラミの2人が抜けたセンターバックにビジャレアルからアルバロ・ゴンザレスをレンタルで獲得したのみ。必要最低限の人員調達に止め、かけた予算も2700万ユーロ(約32億円)ほどだ。
加えてエースのフロリアン・トーバンは足首を手術して長期離脱中であり、試合日にベンチに座るのは、30番代の背番号をつけたティーンエイジャーのアカデミー生。そんな層の薄いメンバーながら、新入りの3人は即戦力として毎試合出場し、ベテランのディミトリ・パイェもいぶし銀的な巧さを随所で発揮。
センターバックのブバカ・カマラをボランチで使えば予想以上に機能し、昨シーズンはほとんど印象になかったセルビア人MFネマニャ・ラドニッチも、第14節のトゥールーズ戦で入団後初ゴールをあげたとたんに3得点とノッている。手持ちの選手たちが生かされているのは、ビラス・ボアスの使い方のうまさもあってのことだ。
正直、今シーズンこれまでのマルセイユを見ていて「うわー強い! PSGに次ぐ2位も納得だわ」という印象は、あまりない。のだが、その派手さのない中に、着実に、そつなく、でも自分たちの強みを出していこう、という監督のメッセージが感じられる。そしてそのメッセージが選手たちに浸透しているのも見て取れる。
マルセイユは「ノリやすい」チームだ。連勝して気分が乗ってくると、勢いでどんどん好転していったりする。1昨シーズン、あれよあれよと言う間にヨーロッパリーグ(EL)決勝戦に進出したときのように。
フランスのサッカー界は、『マルセイユに元気があると盛り上がる』と言われる。そんな人気ナンバー1クラブが、新監督のもとで、どこまで行けるかに注目したい。
(文:小川由紀子【フランス】)
【了】