久保に対してはブーイング
バルセロナの本拠カンプ・ノウは、多くのサッカーファンから「フットボールの聖地」として知られている。1957年にオープンし、収容人数99,354人を誇る同スタジアムではこれまでにも数多くの名勝負が生まれている。かつてレアル・マドリーなどに在籍し、カンプ・ノウでのプレーも経験した元西ドイツ代表のMFギュンター・ネッツァー氏は「これほどまでに情熱的な人たちに囲まれてプレーしたことはない」と、同スタジアムの雰囲気をこう話していたという。
そんな世界に誇るスタジアムに、一人の日本人が降り立った。いや、凱旋したという言い方が正しいか。かつてバルセロナの下部組織でプレーしていたMF久保建英である。同選手は現地時間7日に行われたリーガ・エスパニョーラ第16節のバルセロナ戦にマジョルカの一員として先発出場。カンプ・ノウの芝を踏むことになった。
試合は戦前の予想通り、ホームのバルセロナがボールを持つ展開に。マジョルカは自陣に引いて守るが、相手の素早いパス回しに悪戦苦闘。最終ラインはズルズルと下がり、バルセロナに簡単にゴール前への侵入を許していた。
リーグ戦3試合連続スタメンとなった久保は5分、ボールを持つとドリブルを開始。するとスタジアムからはブーイングが起こった。ライバルクラブであるレアル・マドリーに移籍したこともそうだが、カンプ・ノウでブーイングを浴びるということは一人の選手として認められた証拠でもあったと言える。
マジョルカは6分、GKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンのゴールキックに抜け出したFWアントワーヌ・グリーズマンに得点を許し、早い時間に1点のビハインドを背負った。そして、その後は守備が完全に崩壊。自身6度目のバロンドールを受賞したFWリオネル・メッシに2ゴールを許し、FWルイス・スアレスの芸術弾を浴びるなど前半だけで大量4失点。FWアンテ・ブディミールが返した1点も虚しく、1-4で45分間を終えた。
後半はバルセロナのペースも落ち、試合は少し落ち着いた。マジョルカは相変わらずボールを保持される展開が続いたが、GKマノロ・レイナの好セーブもあり、失点を許さない。反対に64分にブディミールがこの日2ゴール目を叩き出すなど、一時は2点差にまで詰め寄った。
しかし、この男が最後に仕事を果たしてきた。83分、右サイドを飛び出したDFセルジ・ロベルトからスアレスへパス。ボールをキープした背番号9は後ろから走り込んできたメッシへ球を落とす。レフティーはそのボールをニアサイドへ飛ばし、ハットトリックを達成した。
自身6度目のバロンドール受賞を自らのハットトリックで祝したメッシ。試合はアルゼンチン人FWの活躍もありバルセロナが5-2の大勝を収めた。マジョルカはこれでリーグ戦3連敗。アウェイ戦では未だ勝利を収めることができていない。降格圏にいるセルタとの勝ち点差はわずか1と、厳しい状況だ。
久保に唯一欠けていたものとは
さて、チームはバルセロナに力の差を見せつけられた形になったが、久保自身のパフォーマンスはそれほど悪くはなかった。この日も、マジョルカの中では最も可能性を感じさせたプレーを見せており、カンプ・ノウでのプレッシャーも受けている印象はなく、堂々としていた。
25分には自陣深い位置でボールを奪うと、ブーイングを浴びながらもドリブルを開始。最終的にはハーフウェーラインまでボールを運び、相手のファウルを誘発して最終ラインを大きく押し上げることに成功した。押し込まれている状況で、こうしたプレーを発揮できるのはチームにとって大きかった。
ファーストシュートは62分、ショートコーナーの流れから右足で放ったものであった。シュートは枠を大きく外れてしまったが、積極性という意味では申し分ないプレーであったと言える。その1分後にはブディミールの得点に絡むなど、少ないチャンスながら攻撃面での役割をしっかりと果たした。
久保はこの日、タッチ数こそ51回と少なめであったが、データサイト『Sofa Score』内ではブディミール、MFダニ・ロドリゲスに次ぐチーム内3番目に高い評価が与えられている。シュート数は2本と、ここ数試合に比べるとやはりインパクトは小さかったかもしれないが、それでもカンプ・ノウで爪痕は残せたと言えるようなパフォーマンスであった。
しかし、久保にとってこの日最も欠けていたのは味方のサポートだと言える。マジョルカの選手はバルセロナの選手を前に怖気づいたのか、ボールを受けようとするアクションがまったく見受けられず、流動性がなかった。中盤でのボールロストも多く、バルセロナにチャンスボールを与えるシーンも散見。ほとんどの選手が、カンプ・ノウの雰囲気に飲み込まれていた。
そのため、久保がボールを持ってもサポートの少なさに困り、結局は個人でという場面が多くあった。ボールを出してもリターンに恵まれない。44分の場面ではDFクレマン・ラングレを外してブディミールにパス。そのまま斜めに走った久保へうまくリターンが通ればシュートという状況を作り出したのだが、クロアチア人FWの落としが雑となり、結局はMFセルヒオ・ブスケッツにカットされてしまうといったことがあった。バルセロナのプレッシャーに縮こまったマジョルカの選手。ここは久保にとってあまり好ましいことではなかった。
味方が動かないということは、相手も大きく動く必要がない。ということは、その分相手に余裕を与えてしまっているということになる。そういった中、さらに相手が強豪・バルセロナという中で、久保は孤軍奮闘したのだ。ここ数試合のようなインパクトは残せなかったとしても、いかに難しい状況の中でプレーしていたかを考えると、今日のパフォーマンスは評価せざるを得ない。
久保が味方のサポートの少なさに苦しむということは、マジョルカ加入当初にも見受けられたものだ。今日はそんなマジョルカの悪さが前面に出てしまった。次節の相手は同じく残留を争うセルタ。絶対に落とせない一戦に向け、今日のような課題はなんとしても克服したいところだ。
(文:小澤祐作)
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