21日間で7試合、超過酷なポルトの12月
12月2日から22日までの21日間でリーグ戦とカップ戦が合わせて7試合が組まれている。クリスマスまでの3週間はポルトにとって過酷なものになるはずだ。
セルジオ・コンセイソン監督は度々「我々はこういったプレッシャーに慣れている」と述べるが、おおよそ3日に1試合をこなす過密日程の中で選手たちの身体は間違いなく疲弊する。だからこそ、常に多くの選択肢を確保しておく必要があるし、全ての選手にチャンスが巡ってくる可能性がある。
これまでリーグ戦やヨーロッパリーグ(EL)などで出場機会に恵まれていなかった選手たちには、現地5日に行われたタッサ・ダ・リーガ(リーグカップ)のグループD第2節、カーサ・ピア戦で実力を発揮するチャンスが与えられた。
中島翔哉も公式戦では10試合ぶりとなる先発出場を果たし、確かな爪痕を残している。リーグ戦などでは試合の勝敗が決した状況で終盤に起用されることが多かったが、その限られた時間の中で見せてきた成長をピッチ上で90分間にわたって示すことができた。
伏線はあった。今月2日に行われtたポルトガル1部リーグ第12節のパソス・デ・フェレイラ戦に84分から途中出場した中島は、アレィショナルタイムの6分間も合わせて、約13分にわたって攻守に奔走した。
すでに2-0のリードした状態で、反撃の糸口となるゴールを与えないための確実な守備対応ではポジショニングや献身性の向上が見られた。攻撃面でも素早いターンからのドリブルや、粘りの効いたボールキープで試合を終わらせるなど状況判断にも改善がうかがえた。
体調不良でELのアウェイゲームを欠場した直後の試合ではあったものの、13分間のパフォーマンスは「次につながる」と感じさせるには十分だったと言える。そして迎えたのが5日のカーサ・ピア戦での先発出場だった。
ポルトはやはり過密日程を考慮してか、格下の2部クラブ相手に先発メンバーを大幅に入れ替えた。4-4-2の左サイドMFとしてピッチに立った中島は、やや中央寄りの立ち位置を取ってボールに関わっていく。
守備の向上が明らかな一方で…
長足の進歩を見せる守備では周りを確認しながら選手と選手の間のスペースを埋めるポジショニングや、積極的なプレスバックが光った。中盤でのボール奪取やインターセプトも度々見ることができ、中島のプレーからカウンターにつながった場面もあった。
一方で、これまでと違ったのは攻撃時の存在感だ。27分にはペナルティエリア内の狭いスペースでボールを受けると、反転してすぐさまスルーパスを通す。最終的に受け手のFWルイス・ディアスはオフサイドと判定されたものの、状況的にはゴールになっていてもおかしくない決定機だった。
40分には左サイドへ抜け出した中島が左足でマイナス方向へ折り返すと、MFブルーノ・コスタの惜しいシュートにつながった。
後半になると4-4-2から4-2-3-1へのシステム変更にともなって、中島は右サイドへ移った。75分には選手交代によって再び左サイドへ。このような試合中のポジションチェンジにも柔軟に対応した。コンセイソン監督が中島を交代させるような素振りはなく、約2ヶ月ぶりとなるポルトでのフル出場となった。
最も輝いたのは68分の場面だ。DFジオゴ・レイチのヘデイングクリアを前線で収めると、素早く反転して右に走っていたブルーノ・コスタへ預ける。そしてこの生え抜きMFは左を並走していたルイス・ディアスにボールを渡し、最終的にスタメン復帰を果たしたコロンビア代表FWが勝利を決定づける2点目を流し込んだ。一瞬のポジショニングと素早い判断でゴールの起点となったプレーは称賛されて然るべきだろう。
ただ、この活躍がすぐにリーグ戦でのスタメン奪取につながるかどうかは微妙なところだ。チーム内での立場を良くするには、今すぐに改善すべき“悪癖”が残されている。それも現代サッカーにおいては致命的とも言える無意識的な動きだ。
以前、中島と世代別代表でともにプレーした経験を持つある選手がこうつぶやいていたことがある。
「翔哉はボールを持たせて、『自由』を与えてこそ輝く選手だからね。そうじゃないと難しい。やっぱり『自由』にやらせないと」
この「自由」な振る舞いで攻撃の全権を握る選手は、今や絶滅危惧種と言えるかもしれない。よりシステマチックに個々のピッチ上での役割がハッキリしたサッカーが全盛になった今、規律の中に必要以上の自由があれば、それは異物になってしまう。
指揮官が中島に要求するもの
中島の場合、とにかくボールを触りたがるため、狭いスペースや前を向くのが難しそうな局面でもパスを盛んに要求する。それだけならまだしも、パスを受けられないと、自分の持ち場を放棄してフラフラとボールに引き寄せられるようにポジションを離れていってしまうのだ。
例えば相手が前線からプレッシャーをかけずに徐々に引いていく場面で、センターバックがボールを前に運ぼうとすると、中島はそこからパスを引き出そうとマークを引き連れて下がってくる。そうなると今度はボールを持ったセンターバックの前進するスペースが消え、中島もパスの選択肢から外れる。結果的に全体のポジションバランスが崩れたまま、別の難しい選択肢に切り替えなければならないこともある。
もし厳しい状況でボールを受けて強引に前を向こうとすると、今度は味方がカウンターのリスクに晒される。実際にこれまでも中盤の低い位置まで下りてきた中島が危険な場所でドリブルを始め、すぐに相手に囲まれてボールを失い、速攻を止めるために後ろのディフェンスラインの選手がファウル(時にはイエローカードを伴う)で止めなければいけない場面を何度も見てきた。
83分から途中出場したパソス・デ・フェレイラ戦、ピッチに立って数分後に一度相手選手が痛んで試合が止まった時間帯があった。そこで中島はコンセイソン監督に呼ばれ、ベンチ脇で何やら指示を受けていた。
指揮官は腕で稲妻を描くような、何かを刺すような、大きめのジェスチャーでゴールを指し示しながら中島に訴えかけていた。これが何を意味するか。コンセイソン監督が、中島にもっとゴールに近い位置でドリブルを仕掛け、フィニッシュまで持ち込めるような場面を作るように求めているものだと推察した。
当然、中島の特徴を考えれば攻撃面で圧倒的な違いを作れるポテンシャルはあるし、技術も持っている。だからこそゴール前でプレーする時間を増やし、もっと決定的な場面に絡んで欲しいと考えるのは自然なことだ。
ところが中島には現代的なウィングに求められるポジショニングの考え方や戦術的思考が身についておらず、とにかくボールを触るためのアクションが自然に、無意識レベルで出てきてしまう。
「ベンチでふくれっ面をしていることに価値はない」
前を向いてドリブルができていても、スピードが上がらずに相手のプレスバックしてきた選手に追いつかれて後ろから潰される場面が多いのも、然るべきタイミングとポジションでプレーできていないからと言える。この“悪癖”を改善することこそ、初ゴールに近づき、出場時間を伸ばしていくことにつながっていくだろう。
中島がプレーするポルトは非常に合理的なサッカーを志向しており、ポジションごとの役割や動きがハッキリと決められている。そういった戦術の中で動きながら、カーサ・ピア戦の後半は徐々にポジショニングにも改善が見られただけに、継続が期待されるところだ。
どんな試合でも勝利に貢献するパフォーマンスや結果を残せば、コンセイソン監督はその選手を見捨てない。最近出場時間を増やしているセネガル代表MFママドゥ・ルームも、シーズン序盤はベンチ入りすらままならない状況だったが、少ないチャンスで信頼に応える活躍を見せて主力定着へのきっかけを掴んだ。
コンセイソン監督はパソス・デ・フェレイラ戦を終えてルームの抜てきについて問われると、同僚のFWゼ・ルイスが発した「ベンチに座っているのは、痛々しいことでも悲しいことでもない。そこでふくれっ面をしていることに価値はない」との言葉を引用しつつ次のように述べた。
「ルームの場合、彼は自分のための時間を待って、ハードワークして、チャンスを掴む機会があった時には非常に集中していた。まだまだ成長しなければいけないことはたくさんあるし、何も達成してはいないが、ポルトのようなクラブで自らを主張するために重要なステップを踏んでいる」
一連の言葉は中島にもそのまま当てはまるだろう。ポルトの12月はとにかく過酷で、どこかで必ずチャンスはやってくる。その時に備えてどのように日々を過ごし、改善した成果をピッチで表現するか。
ゴールまであとわずかなのに、とにかく今のままポテンシャルを最大限に発揮できない状態は、本当にもったいない。組織の中で自分の強みを表現する道を見い出し、1月以降にさらなる輝きを放つために、ここからの2週間は特に重要だ。
(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)
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