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Jリーグ 5年前

マリノスGK朴一圭が蹴る人を食ったようなパス。J1優勝へ、スタイルを実現させる埋もれていた逸材【西部の目】

明治安田生命J1リーグは最終節を残して、横浜F・マリノスが15年ぶりの優勝に王手をかけている。リーグ最多の65得点をマークする攻撃的なサッカーを最後尾から支えるのがGK朴一圭(パク・イルギュ)だ。FC琉球をJ3優勝に導いてマリノスにやってきた苦労人は、足下の技術とともに、フリーな味方にパスをつける冷静さを持っている。(取材・文:西部謙司)

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

ショートパスとロングパスの「間」

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横浜F・マリノスのGK朴一圭【写真:Getty Images】

 横浜F・マリノスのサッカーでは、相手のカウンターアタックへの守備が多くなる。ボールを支配して敵陣へ押し込み、失ってもハイプレスを仕掛けていく。ディフェンスラインは高く、GKはより広いスペースを守らなければならない。さらにゴールキックからでもパスをつないでビルドアップしていくので、GKには足下の技術が要求されている。

「今でもまだ慣れてはいませんよ」

 そうは言うが、朴一圭は横浜FMの「自分たちのサッカー」を楽しんでいるようだ。川崎フロンターレとの第33節、朴自身は緊張感があったそうだ。

「このチームでは一番年上のほうなのですが、皆が頼もしいですよ。落ち着きというか覚悟みたいなものがあって、そのせいで周囲を緊張させない雰囲気が出来ている。自分は緊張して試合に入ったのですが、笛がなるといつもどおりの安心感がありました」

 つなぐGKは、蹴れなければいけない。GK以外の味方が全員マークされていたら、最前線へ蹴るのがセオリーだ。トップは1対1なので、1人に勝てばGKがいるだけだからだ。相手のDFが1人余っていたら、フィールド上の味方の誰かはフリー、自分に相手が向かってきていたら2人がフリーである。GKは素早く状況を整理して、フリーの味方にボールをつなぐ。つまりパスをつなぎたいなら、ロングボールを蹴るという選択肢は持っていなければならない。

 Jリーグにも、つなげて蹴れるGKが増えた。しかし、朴の場合はショートパスとロングパスの「間」も持っている。トップやサイドへのロングパスだけでなく、もう少し短い距離のミドルパスがあるのだ。その少し「抜いた」感じのパスは正確で、人を食ったようなところもあるが、精度とともにフリーな味方を見つける冷静さが特徴だ。

 横浜FMのスタイルにうってつけのGKはJ3からやって来た。

J3優勝からJ1優勝へ

「昨年はJ3で優勝、今年は横浜FMに移籍して2年連続で優勝争いができた。普通では経験できないことなので楽しみながらやっています」(朴)

 東京朝鮮中高級学校から朝鮮大学校、2012年に当時JFLの藤枝MYFCに加入。FC KOREA(関東1部)を経て藤枝に戻り、2016年にFC琉球に移籍した。2018年のJ3で優勝している。

 確かに朴は横浜FMのスタイルにピッタリのGKだが、J3の選手を獲得したのはスカウトの勝利といっていい。第5節のサガン鳥栖戦に先発出場すると、以来ほとんどの試合でゴールを守り続けた。まもなく30歳、GKとしてはピークを迎える年齢かもしれないが、埋もれていた逸材を発掘してきた横浜FMのフロント力が光る。

 アンジェ・ポステコグルー監督をはじめ、選手たちもことあるごとに「自分たちのサッカー」と言う。ただ、横浜FMのサッカーはフワッとした「自分たちのサッカー」ではなく、1つ1つのプレーがすべてつながっている理詰めともいえるサッカーだ。なぜGKからつなぐのか、「偽サイドバック」なのか、ハイプレスなのか、全部説明がつく。明確なスタイルは明確な弱点を持つことでもあるのだが、スタイル先行でフィットする選手を補強して長所を最大化した。

 スタイルが首尾一貫しているから、必要な選手は明確だ。チームに不可欠なタイプのGKとして朴がピックアップされたのだろう。

「下のカテゴリーの人たちに、こういう道もあると示せた。母校の陽の当たらない子たちにも勇気を与えたい」(朴)

 J3からJ1へ、そして優勝へ。希なシンデレラ・ストーリーである。

(取材・文:西部謙司)

【了】

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