放出すべきはポグバ
首位リバプールの背中はもう見えない。14節終了時点で22ポイント差。恥ずかしすぎる。2位レスターとの差は14ポイントに開き、3位マンチェスター・シティには11ポイントも離されている。逆転なんかできっこない。つかず離れずプレッシャーをかけたいが、今シーズンのパフォーマンスを踏まえると、その差はさらに広がると考えるのが妥当だ。
もはや一刻の猶予も許されない。難しいミッションになりつつあるトップ4奪回、あるいはヨーロッパリーグを制してチャンピオンズリーグの出場権を得るためにも、来年1月の補強はmustだ。名門のプライドをかなぐり捨て、マンチェスター・ユナイテッドは現実的な補強を図る必要がある。
その前に余剰戦力、モチベーションを失った者は知名度に関わらずお引き取り願おう。中盤センターの優先順位が下がる一方のネマニャ・マティッチ、キャプテンにもかかわらずロッカールームをまとめられないアシュリー・ヤング、限界を呈しつつあるジェシー・リンガードは、安値でも換金した方が得策だ。
さて、最大の換金対象であるポール・ポグバの気持ちはマンチェスターにない。今夏に続き、レアル・マドリー移籍かユベントス復帰を目論む確率は100%を超えている。移籍金は120~130億円か。悪くないビジネスだ。
しかし、マドリーもユベントスも中盤の人材は過剰気味だ。主力が長期の欠場を余儀なくされないかぎり、来年1月の移籍市場で動くとは思えない。「買いより売りを優先する」。マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長が明らかにした。「若手の囲い込みが優先」。ユベントスのパベル・ネドベド副会長が冬のプランを語っている。ポグバの行き場がなくなった。それでも移籍を試みるとすれば、駄々っ子にも笑われる。
選択肢はアッレグリをおいて他にない
ポグバ残留は最悪のシナリオではある。やる気のない選手はチームに悪影響を及ぼすからだ。オーレ・グンナー・スールシャール監督がポグバに気を遣いすぎている事実も大きすぎるマイナスだ。いったい、どちらが上なのだ!? パワーバランスはすでに崩れ、スールシャールは求心力を失った。
ギャリー・ネヴィル、ライアン・ギグス、ポール・スコールズといったOBは「時間を与えるべきだ」と現体制を支持するが、庇いだては不要だ。今シーズンはクリスタルパレス、ウェストハム、ニューカッスル、ボーンマスに敗れている。アストンヴィラ、シェフィールド、サウサンプトンに引き分けた。勝ってしかるべき相手にこれだけ多くのポイントをロスしているのだから、スールシャールの底は完全に割れたといって差し支えない。
パワープレーの場面でハリー・マグワイアを前線に上げなかったり、同点で迎えた後半追加タイムにプレミアリーグ未経験の若手を投入したり、トリッキーすぎる采配も目立つ。組織を創り、熟成を図るには時間が必要だとしても、スールシャールがなにをやりたいのかは、依然として不明のままだ。新監督を招くしか、再建の道のりは残されていない。
適任者はマッシミリアーノ・アッレグリだ。筆者がコラム、情報番組などで何度も指摘してきたように、ポグバとはユベントスで同じ釜の飯を食った。トラブルメーカーの操縦法は心得ている。状況に応じたプランニングにも定評があり、試合は落ち着く。再建の担い手としうってつけの存在だ。
また、ユベントスで5連覇、ACミランでもスクデットを獲得したため、勝者の哲学が骨の髄まで染みこんでいる。本人もプレミアリーグに興味を持ち、英語を猛勉強中だ。いつ声がかかっても対応できるよう、準備を着々と整えている。しかも現在フリー。交渉のハードルは低い。
ポグバの残留が濃厚になりつつあるいま、選択肢はアッレグリをおいて他にない。サー・アレックス・ファーガソンの勇退が決まったとき、交渉担当の対応が遅れてユルゲン・クロップもジョゼップ・グアルディオラも取り逃がした。同じミスを犯してはならない。アーセナルは、ウナイ・エメリを1年190日で解雇した。スールシャールは12月19日で(暫定)監督就任から丸1年を迎える。ヨーロッパリーグの決勝に進出したわけでもない。アッレグリは人気銘柄だ。今シーズン終了後の接触では遅すぎる。
もちろん、マウリシオ・ポチェッティーノという選択肢もある。しかしトッテナムを解雇されたとき、なんらかの契約で縛られている公算が大きい。同クラブのダニエル・レヴィ会長は冷徹なビジネスマンだ。プレミアリーグのクラブに、優れた監督を手放すような愚は犯さないだろう。
スールシャールの目は節穴
〈9番〉タイプの補強も急がなくてはならない。ロメル・ルカクがインテルに移籍し、いやいや、ルート・ファンニステルローイ以降、ユナイテッドには頼れるセンターフォワードがいなかった。前線の基準点は是が非でも欲しい。
マリオ・マンジュキッチとは相思相愛ともいわれている。所属するユベントスでは構想外になったのだから、獲得に支障はないはずだ。
運動能力、戦闘能力ともに高く、なにより勝負に執着する。淡白なタイプが多いユナイテッドの前線には、勝利のためなら身を粉にできるマンジュキッチが絶対に必要だ。中央、あるいはサイドで体を張りながらボールをキープし、マーカーに削られても視線でプレッシャーをかける。若手FWの〈生きた教科書〉にもなれるだろう。
ところが、イタリアの情報サイト『TUTTO mercato web』は次のように伝えていた。
「スールシャール監督がマンジュキッチの年齢(33歳)、なおかつ試合出場数の激減で試合勘が鈍っていることに難色を示し、冬の第一ターゲットをザルツブルクのエルリンク・ハーランドに変更した」
この報道が事実だとしたら、スールシャールの目は節穴である。ハーランドは将来を嘱望される19歳のFWだ。21歳のマーカス・ラシュフォードや18歳のダニエル・ジェームズなど、ユナイテッドの前線は若手が顔を揃えている。必要な要素は経験だ。これ以上アンダー21を獲得しても、なんの足しにもならない。やはりスールシャールは危険だ。この男、ユナイテッドを壊すつもりなのか!?
6シーズン目を迎えた迷走のサイクル
ステップアップを目論むクリスティアン・エリクセンも、ユナイテッドと再三リンクされている。事実、来年1月の退団は必至だ。しかしポチェッティーノ同様(前述)、彼も契約で制限があるはずだ。例えば、「移籍するなら国外限定」という縛りが考えられる。ましてユナイテッドの交渉担当は、エドワード・ウッドワードCEOだ。足もとを見られて痛い目に遭うだけだ。こうしてエリクセンは消えた。
MFではなく、むしろDFに目を向けた方がいいだろう。ケガばかりしているルーク・ショーに代わり、エヴァートンのルカ・ディーニュに左サイドバックを託すプランも悪くない。左足クロスの精度はプレミアリーグ屈指のレベルだ。いま、エヴァートンは17位に沈んでいる。ディーニュの心も動いているに違いない。シティが来夏の補強リストに加えた、との情報も伝わってきた。接触は早い方がいい。
6シーズン目を迎えた迷走のサイクルが、いつ果てることもなく続いている。現状を放置しておくと再建までさらに長い時間を要し、劣化も瞬く間に襲いかかってくる。リバプールとシティは待ってくれない。レスターは急速に力をつけてきた。チェルシーも復調著しい。来年1月の対応を誤った場合、取り返しがつかなくなる。ユナイテッドは、覚悟ができているのか。
(文:粕谷秀樹)
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