“覚醒”の印象すら与える南野拓実の活躍
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試合後、南野拓実は静かに言った。
「タイミングが良かっただけかと思います」
11月27日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)。グループEの第5節で、RBザルツブルクは敵地でKRCヘンクと戦った。
この決勝トーナメント進出へと望みを繋ぐ一戦で、南野は、トップ下のポジションで先発する。布陣は中盤ダイヤモンド型の[4-4-2]だ。
前半は両チームともアグレッシブな姿勢を貫く。ヘンクの右サイドで先発した伊東純也は、果敢にペナルティエリア外からシュートを打ち、スピードを活かして積極的に仕掛けてくる。対する南野も、鬼気迫る様子で味方に指示を出しながら、左右に流れてチャンスを演出した。2人の日本代表MFは、勝利への飽くなき執念を、ピッチの上に示し続けた。
伊東が振り返る。
「前半は、最後以外は悪くなかったと思います。こっち(ヘンク)にもチャンスがあったので、悪くはなかったと思います」
「最後以外は」——。一進一退の攻防が続いたが、前半の終了間際、わずかな隙をついたザルツブルクがヘンクを突き放す。直接FKのチャンスから、ドミニク・ショボスライが少し無造作に蹴ったキャッチしづらいボールを、GKガエタン・クーケが目の前に落とすと、すかさずパトソン・ダカが詰めて先制点を決める。
そして、そのわずか2分後。間髪入れず。ザルツブルクが2点目を奪う。決めたのは南野。ペナルティエリア内の右側で、エノック・エムウェプからパスを受けると、右足を振り抜いてゴールを決める。これで今季CLでは先月のFCリバプール戦に続いて2点目。国内のリーグ戦とカップ戦も含めれば、19試合で8得点と、観る者に“覚醒”の印象すら与える。
積み上げてきたものを証明している
しかし、今季このようにコンスタントに点を取っているからと言って、南野個人としては、何か特別な理由があるわけではないし、何かを変えたわけでもないのだという。
「(個人的に)変わったというよりは、今まで自分がこだわって続けてきた部分が、この今、チームと自分が成熟してきた中で、いいタイミングでこういうみんなに注目してもらえる大会(CL)があって、いい感じで点はチームとしても取れていると思いますし、タイミングが良かっただけかと思います。これからも続けていけたらいいと思いますね」
南野は、「こだわって続けてきた部分」を次のように説明する。
「チームの攻撃に効果的に関わりながら、ボックス内での自分のシュートの感覚とか、タイミング良くゴールに向かっていくところも自分の特徴の1つだと思っていて、そういう強みをここ(ザルツブルク)で磨き続けたし、代表でもそういう部分を出せて自信になっているところもあります。でも、これからも満足せずに、さらに磨き続けていければいいかなと思いますね」
15年7月にセレッソ大阪からザルツブルクに完全移籍で加入して5年目。それ以来「積み重ねてきたもの」が、タイミング良くCLのピッチ上のパフォーマンスに現れるようになった、といったところだろうか。
「別に変えたことは、自分としては特別ないというか。本当に、今まで積み重ねてきたものをこのCLにぶつけたいと思っていたし、それを今、証明している最中です」
後半に入って2点を追加したザルツブルクは、ヘンクの反撃を1点に抑えて4-1のスコアで完勝。12月10日に行われるリバプールとの最終戦に、決勝トーナメント進出の望みを繋いだ。
「今まで積み重ねてきたものを」「証明している最中」の南野。欧州最高峰の舞台での戦いは、現在進行形で続いている。
「ザルツブルクはリバプール相手にも一矢報いることはできるチームだと思います。サッカーはやっぱり何が起こるかわからないし、もちろんボコボコにされる可能性もあると思いますけど、逆に僕らがなんらかの形で勝つ可能性もあると思う。そのことを信じてやっていきたいと思います」
(取材・文:本田千尋【ヘンク】)
【了】