レベルの高い一戦に
とにかくレベルの高すぎる試合であった。現地時間26日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)・グループリーグA組第5節、レアル・マドリー対パリ・サンジェルマン(PSG)の一戦を一言で表すならば、先述した言葉で十分だと思う。強豪同士の戦いは、やはり面白い。
サンティアゴ・ベルナベウで行われたこのゲームは、立ち上がりからお互いにテンション高く挑んだ。マドリーは、グループリーグ第1節でPSGに0-3と完敗を喫しており、今回はそのリベンジに燃える。また、この時点で決勝トーナメント行きも決まっていなかったので、なおさら気持ちは入っていた。一方のPSGは決勝トーナメント行きを確定させていたが、首位通過を果たすにはここでの勝ち点奪取が必須。マドリーと同じく11人全員が集中した試合の入りを見せていた。
その中でまず試合のペースを握ったのはホームのマドリー。ピッチを幅広く使いながらPSGの守備陣を揺さぶって、人数をかけたところでスピードを上げ崩し切る。MFイスコが先発で起用されたが、同選手やFWカリム・ベンゼマ、FWエデン・アザールらは流動的にポジションを入れ替え、PSGのマークをかく乱。とくにベンゼマの動きや判断力は抜群で、アウェイチームはここを捕まえきることができず苦戦していた。
攻撃面で優勢に出たマドリーは、相手のカウンター時も落ち着いて対応。ここ最近の成長ぶりが著しいMFフェデリコ・バルベルデの献身性と走力、アンカーのMFカゼミーロの的確なアプローチと、中盤ほとんどのエリアで相手を上回った。FWキリアン・ムバッペのスピードはPSGの武器であるが、それを発揮させぬほど、マドリーのオーガナイズされた守備が素晴らしかった。
こうして、15分過ぎまでほとんどPSGに決定的な場面を与えなかったマドリーは、良い流れを維持したまま先制に成功する。17分、ペナルティエリア角のスペースを突いたバルベルデにDFダニエル・カルバハルからのパスが通ると、マイナスの折り返しをイスコがシュート。これはポストに弾かれたが、こぼれ球に反応したベンゼマが冷静にゴールへ流し込んだ。
このゴールはマドリーの自陣深い位置からの組み立てが起点となって生まれたものだった。左サイドのアザールがボールキープして反対サイドのバルベルデへパス。一度カルバハルへボールを預けたウルグアイ人MFがそのままスペースへ走り込んでリターンを呼び込む。そして、すでにイスコとベンゼマがペナルティエリア内にいた。
ピッチを幅広く使ってPSGを揺さぶり、ジネディーヌ・ジダン監督が最も期待しているバルベルデの走力が生きる。そしてイスコとベンゼマのゴール前の嗅覚。まさに、マドリーが立ち上がりから見せていたポジティブな部分がすべて詰まった理想的な先制弾であったと言える。
躍動するクロース
良い形で先制に成功したマドリーは、その後もPSGを深い位置まで押し込む。アウェイチームは、DFチアゴ・シウバとDFプレスネル・キンペンベが思い切ってラインを上げることができなかったため、ただただマドリーの攻めに耐えるしかなかった。ムバッペ、MFアンヘル・ディ・マリアらにも効果的なボールが収まらず、攻撃陣も停滞。マドリーの勢いに飲み込まれてしまった。
一方、マドリーの中で輝きを放っていたのがMFトニ・クロースであった。左インサイドハーフで先発出場を果たした同選手は、味方へのサポートを素早くかつ的確に行い、ビルドアップを助ける。長短のパスを使い分けながら攻撃のリズムを変えるなど、効果的な役割を果たした。
ゴール前に顔を出せば、多彩なフィニッシュでGKケイラー・ナバスを襲う。もちろんすべてが枠内に飛んだわけではないが、シュートで終わるということはそれだけ相手のカウンターの芽も生ませないということ。当然ながら単純なミスも少ないため、相手に中盤でボールを奪われてチャンスを与えることもなかった。
これは試合後のデータになってしまうが、クロースはこの日、チーム内で断トツトップとなる103本ものパスを出している。成功率は驚異の98%。その中で決定的なパスも全体でトップとなる7本繰り出すなど、中盤で見せた安定感がいかに抜群であったかがわかるだろう。
また、クロースは90分間動き続け様々なエリアに顔を出してはボールに絡み続けた。それを証明するかのように、ドイツ人MFはこのゲームで走行距離11.09kmを記録。これはチーム内でトップ、全体でも2番目に高い数値であった。
このように、クロースの安定感あるパフォーマンスが際立ち、チーム全体として流れを維持したまま時間を進めたマドリーは、前半を1-0で折り返すなど申し分ない試合運びを見せた。前半だけのスタッツを見ても、シュート数は15本:7本、支配率も55%:45%、ボールロストも50回:61回と、マドリーがほとんどの面で上回っていたと言える。チーム全体として機能していたのは明らかで、PSGにエンジンをかけさせなかった。
ただ、当然トーマス・トゥヘル監督がこの状況を黙って見るわけがない。やはり後半頭から、動いてきたのだ。最初に送り出したのはあの選手であった。
ネイマールによって変化したこと
ドイツ人指揮官が後半からピッチに送り込んだのはFWネイマールであった。MFイドリッサ・ゲイェに代わっての出場。それまでのシステムは4-3-3であったが、後半はMFマルコ・ヴェラッティとDFマルキーニョスのダブルボランチを形成させ、ネイマールをトップ下に置くオーソドックスな4-2-3-1へと変更させた。
前半のPSGにおける王様はムバッペであった。背番号7のところにボールを集め、同選手のスピードやテクニックを生かすという攻撃の形は、PSGにおいては重要なこと。しかし、前半はそのムバッペを生かすまでの過程がうまくいかなかった。先ほど前半のスタッツを紹介したが、PSGのボールロストは61回。これがほとんど中盤での出来事であった。当然、そこでボールを失うと前線の選手までパスは通らない。だからこそトゥヘルは、後半にチームにおける王様をネイマールへと変更したのである。
王様といっても、ムバッペを生かしたいという考えは変わらない。しかし、前半と大きく違うのはボールを奪ったらすぐにムバッペではなく、トップ下・ネイマールへとボールの置き所を変えたこと。そこで一度ボールを落ち着かせ、ムバッペを使う。ネイマールに与えられた役割は単純であった。
ネイマール投入直後は、その効果もあってパスのテンポは非常に素早くなった。ムバッペにも次第にボールが収まるようになり、PSGの攻撃は加速。マドリーを押し込めるようになった。
しかし、当然ながらマドリーもそこをわかっている。時間が経つにつれネイマールへのプレスを強め、潰しにかかったのだ。すると徐々にブラジル人FWの存在感は薄れていく。ネイマールはやや球離れが悪い場面も見受けられるなど、トップ下の役割が少しずつ果たせなくなってきたのだ。
するとトゥヘルの判断も非常に素早かった。75分にMFユリアン・ドラクスラーとMFパブロ・サラビアを同時に投入したのだ。システムは4-2-3-1のままで、1トップにムバッペを配置させ、ドラクスラーを左に、サラビアを右に回したのである。
交代の意図は明確であった。サラビア、ドラクスラーの両者は外でも内側でも勝負できる選手だが、この日は内側への意識を強めさせ、ネイマールの周りをサポートするという役割が与えられたのだ。サポートというのは攻守両面におけることである。サラビアとドラクスラーはパスセンスにも長ける選手。1トップに移動したことでより広大なスペースを使うことが可能となったムバッペを生かすには、最適な交代策であったと言えるだろう。
PSGはその直後の79分にベンゼマにゴールネットを揺らされてしまうが、そのわずか2分後にラッキーな形で1点を返すことに成功。そして、そこからまた2分後に再びゴールが生まれ、2点差を振り出しに戻したのである。
2点目のシーンはまさにトゥヘルが思い描いた通りであった。起点となったのはネイマールで、そのサポートに回って内側に絞っていたドラクスラーとパス交換した後にDFファン・ベルナトへ。グラウンダーのクロスをドラクスラーがシュートし、そのこぼれ球に反応したサラビアが決めた。交代で送り出した3人が絡んだ見事なゴールであった。
ムバッペはこの日わずか3本のシュートに留まったが、そのうちの2本は後半によるもの。ネイマールら投入後により生きるようになったのは事実だ。ブラジル人FWの投入により歯車がかみ合い出したと言えるだろう。
試合はこのまま2-2で終了。しかし、マドリーとPSGともに悲観すべきドローでないことは確かだ。ハイレベルな戦いが生んだ、美しきドローであったと言えるだろう。
(文:小澤祐作)
【了】