過密日程の幕開け
9月、10月、11月と、3ヶ月連続でインターナショナルマッチを消化してきた選手たちは、ここからはしばらくの間、クラブでの戦いに専念することになる。
開幕直後に苦しんだチェルシーは6連勝で3位に浮上したが、シティは前節でリバプールに敗れ、レスターとチェルシーに抜かれて4位に転落。独走状態になりかねない今季のプレミアリーグで、このビッグマッチは首位・リバプールへの挑戦権をかけた試合も言い換えることができる。
シティのポゼッションからゲームは始まったが、チェルシーもディフェンスラインを下げることなくプレスをかけ、ボールを奪うと手数をかけずにゴールへとベクトルを向ける。開始20分までにシティの2本に対してチェルシーは5本のシュートを記録。先制に成功したのはシュートを多く放ったアウェイチームだった。
チェルシーは、MFマテオ・コバチッチが相手DFの裏のスペースに浮き球のパスを送ると、これに2列目からMFエンゴロ・カンテが飛び出してボールを受ける。左SBのバンジャマン・メンディに身体をぶつけられながら左足を振り抜くと、ボールはゴールに吸い込まれる。アウェイチームが21分に先制点を挙げた。
ポジション変更が流れを変える
先制を許したシティはすぐさま反撃に出る。MFダビド・シルバのスルーパスは引っかかったが、これを拾ったMFケビン・デブルイネが左足を振り抜いて同点に。さらに37分にFWリヤド・マフレズがカットインから左足でシュートを放つと、相手DFの股を抜けてファーサイドのゴールネットを揺らす。約8分間でシティが逆転に成功した。
チェルシーはコバチッチやジョルジーニョからFWテイミー・エイブラハムへの縦パスを起点に、カンテやクリスティアン・プリシッチ、ウィリアンのドリブルでチャンスを作り出す。中盤が本職のフェルナンジーニョはエイブラハムとのマッチアップに苦戦していた。
立ち上がりこそチェルシーペースで進んだ試合だったが、先制後はシティがチャンスを作ってスコアをひっくり返す。微調整を施したシティが形勢逆転に成功した。
シティはお馴染みの4-3-3で試合をスタートさせたが、チェルシーのプレッシャーに苦しむと、インサイドハーフのデブルイネがMFロドリの隣へとポジションを移し、4-2-3-1のように変形した。
シティは4バックの前に2人のMFがいることで、守備時のブロックが安定した。コバチッチやジョルジーニョからの配給からのチャンスは減り、チェルシーは両CBがボールを持ち、出しどころに困るシーンが増えていく。その後もデブルイネはインサイドハーフともボランチとも言えない絶妙なポジションで相手を幻惑させた。
チェルシーは74分にMFジョルジーニョを下げ、MFメイソン・マウントをトップ下に入れた4-2-3-1の形にしたが、1点をリードしたシティは確実に時計の針を進めた。
後半アディショナルタイムのラヒーム・スターリングのダメ押し弾はVARによって幻となった。それでも、後半はスコアが動くことなく終わり、2-1でシティが勝利。両者の順位は入れ替わり、シティが3位に浮上した。
「プランB」が秘めたポテンシャル
昇格組のノーリッジ、リバプールといった鋭いプレッシングを仕掛けてくる相手に対してシティは苦しみ、今季は既に3敗を喫している。就任4年目にして高い完成度を誇るペップのサッカーは、既に相手チームにも知り尽くされたものとなった。
この日、シティが記録したボール保持率は46.7%。クラブ公式サイトによると、ペップ・グアルディオラ監督就任以降で最低の数字での勝利らしい。チェルシーは出足の速いプレスでシティを苦しめたが、「我々が持っている別の側面を見せられた」とデブルイネが語る通り、この日のシティはディフェンスから試合をコントロールしていた。
ボールを保持しながら敗れた試合は山ほどあるが、ボール保持率で下回りながら勝利を収めた試合は数えるほどしかない。好調チェルシーを相手に、新たな勝ち方を身に着けたとも言えるのではないだろうか。
もちろんこれはペップのサッカーにおける「プランA」ではない。しかし、バルセロナ時代から時折見せる一発勝負での弱さを補うだけのポテンシャルが、この試合で見せた「プランB」に秘められているように見えた。
シティはこれから過密日程へと突入。約6週間でこの試合と元日のエバートン戦を含めて12試合が組まれている。そこにはマンチェスター・ユナイテッド、アーセナルに加えて、2位に位置する好調レスターとの対戦も予定されている。リバプールとの勝ち点差は9。取りこぼしは1つも許されない中で、この試合から得られた新たな戦い方がカギを握るかもしれない。
(文:加藤健一)
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