ジキルとハイドのゲーム
前半が0-4、後半は1-0。まるで違うチームがプレーしているみたいだった。ゲームは相対的なものだから、前半はベネズエラが素晴らしく、後半は日本が良かったといえるし、前半の日本がひどく、後半のベネズエラが低調だったともいえる。しかし4点リードしたベネズエラのペースダウンは当然で、前半のスコアがより実力を反映したものと考えられる。
日本はベネズエラのビルドアップを制御できず、逆に自分たちは上手く組み立てられない。前半はこのままの流れなら負けるだろうという状況だった。U-22日本代表のコロンビア戦とよく似ていた。そして、こうなったときの日本が流れを変えられないのも同じだった。ロンドンの高さと強さにはなすすべなく、45分間で4失点。前半で勝負をつけられてしまった。
後半に盛り返せたのは、交代出場のMF古橋亨梧、FW永井謙佑、MF山口蛍、そしてMF原口元気の鬼気迫るフォアチェックのおかげである。4点リードでやや受け身になったベネズエラに対して捨て身のプレスが上手くはまった。前半はいつも左サイドで起用されていたMF中島翔哉をトップ下に移動させたのもポイントだろう。守備に穴が開きにくくなった。しかし、後半はベネズエラを圧倒したものの1ゴールに終わった。完敗である。
リスクのみが浮き彫りになった“中島システム”
日本のビルドアップはMF橋本拳人がディフェンスラインに落ちてサイドバックを上げ、さらに中島がDF佐々木翔より低い位置まで下りてボールを預かる形。右の原口はそこまで引かないので左右非対称の「中島仕様」である。中島がそこから中央へドリブルで入り込んでのコンビネーション、中央が固ければ右へ散らす。
このところ定番となっている組み立てだが、この日はMF南野拓実もFW大迫勇也もいない。効果的な崩しにはつながりにくく、逆にボールを失ったときは日本の左に大きな穴が開く。中島も懸命に戻って守備はしていたが、サイドで1対2にされるケースが相次いだ。中島システムのリスクのみが浮き彫りにされた。
後半は中島を中央へ移したので守備負担は軽くなり、守備バランスが大きく崩れることもなくなっている。前半途中から修正すべきだった。もっというなら最初からそうすべきだった。
ワールドカップでこれをやったら失態
日本がハイプレスに来ると、ベネズエラは4-3-3のアンカー役であるベルナルド・マンサノがポジションを下げて巧みにプレスを回避している。ハイプレスがはまらないときに修正できないのはアジアカップ決勝のカタール戦と同じだった。唯一、ベネズエラがタッチライン際でつないできたときは挟み込んで奪えていたが、3失点目は日本の左サイドでロンドンから奪えず、後手に回ったところを逆サイドへ展開され、ハイクロスの折り返しをロンドンに決められている。
後半は下がるマンサノもマンマークで抑え、永井と原口の献身的なプレスでベネズエラのビルドアップを窒息させた。ただ、一か八かのハイプレスであり、前半からこれをやっていたらどうだったかはわからない。
前半はミスも多かった。中島が下りてきて受けようとするので、左サイドの奥を使えない。18分のパスミスが典型だが、横パスのコースに中島と柴崎が重なっていた。後半に原口が左サイドになってからは、幅をとることができるようになり、佐々木の攻め上がりで奥も使えている。中島が仕掛ける位置も相手ゴールに近くなった。
ベネズエラは強力なチームだったが、ワールドカップのグループリーグを突破するには最低でも引き分けないといけない相手だ。1-4は論外で、ワールドカップでこれをやったら大会はほぼ終了といえるほどの失態である。
中島を左に置いた特殊な仕様はリスクを大きいこと、前半で修正できないと試合が終わること、修正のためのリーダーがフィールド上にもベンチにもいないことが明確になったように思う。それが今わかったのはむしろ幸運だった。
(文:西部謙司)
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