南米ベースで感覚を磨く背番号18
森保一監督が率いる日本代表はベネズエラに前半だけで4失点を喫し、後半に山口蛍のゴールで一矢報いたものの、ホームで歴史的な惨敗となった。
ベネズエラが素晴らしいチームであり、南米予選を前にした最後のチェックということで、ただの親善試合ではない真剣勝負を挑んでくることは戦前から分かっていたこと。結果が大差になった要因は日本の側にあると言える。
試合の明暗を分けたのが前半8分という早い時間帯の先制点であることは確かだ。深い位置のクロスからエースのロンドンにドンピシャで合わされての失点。これでベネズエラは勢いに乗り、日本は動揺を強めた。ただ、1つ気になるのはクロスから失点した責任の比重が、直接クロスを上げられた右サイドバックの室屋成に行きすぎていることだ。
もちろん責任の一端はある。普段、Jリーグで間合いの似た相手とマッチアップすることが多い室屋にとって、アシストしたMFジェフェルソン・ソテルドは160cmのサイズながら独特のリズムがあり、ブラジルの名門サントスで10番を付けるテクニシャン。17年U-20W杯の準優勝メンバーだが、欧州に渡らず、チリのクラブからサントスに引き抜かれ、南米ベースの感覚を磨いている。
「やっぱり自分からしたら、ああいう相手とやる機会自体が少ない中で、少し独特なリズムだったり、そういうところに自分も慣れていかないといけないというのを感じました」
そう語る室屋にとって、ほぼ最初のボールをめぐる対峙があの決定的なシーンだった。ペナルティエリア内に侵入された状態で、二度切り返されて左足でボールを上げられた室屋は「あのタイミングで上げられないことはないというか、ペナ内なので難しい対応だった」と振り返る。
先制シーンに至るプロセス
一発目の縦の仕掛けにスピードで食らい付いたが、コンタクトに行ったところをショルダーでキープされ、そこからマイナスの切り返しにも遅れず対応したものの再度、縦に鋭く切り返しながら一瞬の間を破られた。もちろん体をうまく被せてクロスを弾ければ良かったが、そもそもの原因はペナルティエリア内での難しい対応を強いられたこと、そして最終的には上げられた先の問題もある。
この失点までの実に7分間、すべてがうまく機能していなかったわけではない。ただ、プレスをかけるにもボールをつなぐにも、全体の距離が遠く、ベネズエラのオーガナイズされたパスのつなぎ、オフザボールの動きなどに組織がほつれを引き起こされて失点シーンに至ったのは間違いないだろう。
その状況を踏まえて、この失点シーンのプロセスを振り返りたい。起点になったのは日本のパスワークにおけるミスだった。中盤の空中戦で原口元気が競り勝って、前に出たボールを浅野拓磨が拾うと、インサイドに運んで手前の柴崎岳にパスした。そこから柴崎が左サイドの佐々木翔に展開すると、佐々木はインサイドにボールを戻す。
しかし、相手のプレッシャーに対して引いてパスを受けようとした柴崎と、柴崎が元にいた位置にリターンした佐々木の意思が合わず、結果的にミスパスとなって、中央のFWサロモン・ロンドンのところに流れてしまった。そこからベネズエラは素早くパスをつなぎ、司令塔のMFトマス・リンコンが一気にカウンターのギアを上げようとしたところで鈴木武蔵がプレスバックし、さらにボランチの橋本拳人が素早く寄せ、ファウルで止めた。
エアポケットに侵入した背番号7
これでセンターサークル内からベネズエラのリスタートとなったわけだが、ここからベネズエラの攻撃が非常に巧妙だった。倒されたリンコンからショートパスを受けたソテルドが中盤のプレッシャーを吸収し、リンコンにリターン。日本のディフェンスが中央に集まった状態で、リンコンは左サイドバックのロベルト・ロサレスに展開し、日本の守備を同サイドに引きつけて、速いパスを左右のセンターバック、さらに右サイドハーフのダルウィン・マチスとつないだ。
ここで見事な動きを見せたのがスペイン1部のグラナダで活躍するMFヤンヘル・エレーラ。マチスのキープに合わせて中央から右前方に流れると、縦パスを受けながら、ワイドに佐々木の裏をカバーした畠中のコンタクトを跳ね返し、振り抜きの素早いクロスを上げた。
このボールはゴール前のロンドンには合わなかったが、逆サイドに流れたボールをロサレスが拾い、サイドハーフの原口をワイドに引き出しておいて、内側のソテルドにパス。そこから中に流れてソテルドの進出コースを用意した。
こうしてペナルティエリアでのソテルドと室屋のマッチアップができあがった。ただ、マッチアップと言ってもボランチの橋本がカットインのコースを切っていたため、ソテルドはまず縦に仕掛けるしかなかった。だからこそ、室屋も割り切ってスピード勝負に付いていけたわけだが、そこから二度の切り返しでクロスを上げられる。
ただ、ここで室屋が絶対にやられてはいけないのがゴール方向に破られること。そして次にシュートコースを空けてしまうことだ。ペナルティエリア内で下手に足を出せない状況の対応として最低限の仕事はしたと評価したい。もちろんクロスを上げられたのは室屋の責任だが、ゴール前には日本の選手が揃っていた。
ここでうまかったのは右サイドからゴール前に入り込んでいたマチスの動きだ。ソテルドがペナルティエリアの左隅で二度の切り返しを行う間に、ゴール前でセンターバックの植田直通と畠中槙之輔、そしてボランチから下がって対応していた柴崎の三角形のちょうどエアポケットに顔を出すことで、一瞬にして三人の意識を引き付けてしまったのだ。
室屋成の責任に集約してはいけない
最終的にゴール前で競り合ったのは左サイドバックの佐々木とロンドンだった。Jリーグをよく見ている人なら知っていると思うが、佐々木は身長こそ176cmであるものの、決して空中戦に弱い選手ではない。ただ、ロンドンは189cmという上背にくわえて上体の幅と強さがあり、ファーサイドでハイボールをまともに競り合う形で、ほぼノーチャンスになってしまった。
佐々木としてはまともに競りに行こうとするのではなく、競り勝てない前提で体を当てるなど邪魔をできれば、ゴール方向に飛ばされたとしてもGKの川島永嗣がセーブできる範囲のシュートになったかもしれない。ただ、佐々木の責任を問うのであれば、やはり失点の流れにつながったミスパスの方だろう。もちろん、そこも佐々木だけの問題ではなく、パスワークにおける意思疎通に問題がある。
こうした流れを見ても、1つひとつの局面を切り取れば個人の問題がフォーカスされるわけだが、負の連鎖というのはかなり前からつながっているものだ。ただ、そうした状況だからこそ、誰かがどこかで断ち切ることができれば防ぐことができた失点でもある。
結論として、失点は室屋に責任の一端があるものの、彼の問題に集約するべきではない。チームとして検証し、共有するべき問題であるが、個人としても失点を防ぐために何ができたのかを突き詰めて、クラブに持ち帰って改善して行くことが次につながって行くはずだ。
(取材・文:河治良幸)
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