中央大学からJ2・FC岐阜に進んだ古橋
サッカーにおいて、特に日本サッカーにおいては、若い選手たちをトップチームに組み込んでいく上でのプロセスが確立されているのが普通のことだ。
クラブの下部組織から引き上げられた選手であれ、高校や大学チームから加入した選手であれ、若手選手はチャンスを待ちながらチームへの適応期の最初の段階を過ごさなければならないケースが多い。プロとしてのやり方を覚えていく中で、時にはベンチからの交代出場や、何らかのカップ戦での出場機会を得られることもあるだろう。
だが古橋亨梧に対して大木武監督が選んだ方法は、この異端の指導者にはよくあることだとしても、その普通とは少々異なっていた。
中央大学から古橋が入団することを2016年12月22日に発表したFC岐阜は、「スピードに乗ったドリブルが得意でテクニックに優れた選手」と彼のことを紹介。古橋自身は「自分の持ち味であるスピードを活かして、チームの勝利に貢献できるように努力していきたいと思います。少しでも早くピッチで活躍してファン・サポーターに愛される選手になりたいと思います」と短くコメントを述べていた。
ここまではごく一般的だ。新加入選手がこれ以外に何か言えることはほとんどない。
だが古橋が違っていたのは、この言葉がまさに文字通り本気だったということだ。そして大木監督もそれを分かっていた。
1年半で神戸に移籍。J2の舞台は小さすぎた
翌年1月に22歳の誕生日を迎えた奈良県出身のアタッカーは、2017シーズン開幕戦のレノファ山口FC戦で岐阜のスターティングイレブンに名を連ねた。そのままこの年のリーグ戦全42試合に加えて天皇杯の2試合までも、全ての試合に先発している。
古橋は6得点9アシストを記録。例年通りの下位争いを強いられた岐阜が、降格に終わったザスパクサツ群馬に26ポイント差をつけての18位で危なげなく残留を決める中で、チームのキープレーヤーの一人としてシーズンを終えることになった。
その後も成長を続けた古橋は、2018年のJ2シーズン序盤戦にはもはや相手にとって完全に制御不可能に思えることもあった。ゴールへ向かう突破や猛烈なスピード、ファイナルサードでの効果的なプレーで相手守備陣を脅かしていた。
6試合連続ゴールも含めて11得点を挙げ、6アシストも記録した彼にとって、もはや2部リーグが小さすぎる舞台であることは明白だった。夏にヴィッセル神戸から声がかかった古橋は移籍することを選ぶ。
ここでもまた、突然のようにアンドレス・イニエスタと同じチームの先発メンバーに抜擢されながらも、彼が自分のペースを崩すことはなかった。初先発に起用された8月11日のジュビロ磐田戦で初ゴールを挙げ、最終的に13試合で5得点1アシストを記録してみせた。
「プロとしてピッチに立つこと、こうやって大観衆の中で自分のプレーをすることに憧れていたので。こういう中でプレーできたのは良かったですけど、こんなプレーじゃダメだと思うので、しっかりやっていかないといけないと思います」。9月23日の埼玉スタジアムで浦和レッズ戦に0-4の敗戦を喫したあと、彼はそう話していた。
監督が代わっても「やることは変わらない」
神戸はその浦和戦の前に林健太郎暫定監督が吉田孝行監督から指揮を引き継ぎ、翌週にはフアン・マヌエル・リージョが新監督に就任することになっていた。この監督交代への適応は難しくなることが予想されるかと尋ねられた古橋は、約2年前に大学から岐阜へ加入したときと同様に、自分自身の能力への圧倒的な自信を示した。
「やることは変わらないと思うので。岐阜からこっちに来たときも監督が変わりましたけど、やることは変わらないですし、やってきたことは自信になることもあるので。自分を信じて、やってきたことを信じてやるだけです」
「去年、今年の途中まで岐阜というチームでサッカーの大切さ、パスの大切さを学んで、こうやって神戸に来させてもらって、さらに成長しないといけないと自覚できましたし、こうやってピッチに立っている以上は勝たないといけないというプレッシャーもあります」
「その上には代表、海外というのがあるので目指していかないといけないと思いますし、この年代は代表で活躍している選手も多いので。チャンスはあると思っているので、積極的にやっていかないといけないかなと思います」
まさにその言葉通りに実行してきた。神戸がまたしても大幅に期待を下回るシーズンを過ごしてきた中でも、24歳となった彼はJ1で最も強力なアタッカーの一人であり続けている。今季の神戸で9得点8アシストを記録し、リーグ戦でのチームの総得点の3分の1近くに関与してきた活躍により、11月6日には日本代表への初めての招集を受けた。
これから彼に求められるのは、もう一つ上のレベルで何ができるかを森保一監督に示すことだ。
サムライブルーの指揮官は就任からの1年あまりで、攻撃的意識を持った若い選手たちが輝くチャンスを非常に意欲的に提供してきた。11月19日のベネズエラ戦で古橋にもそのチャンスが与えられてもおかしくはない。
そして、これまで我々が見てきた古橋亨梧という選手を考えれば、彼がそのチャンスをしっかりと物にしたとしてもまったく驚かないだろう。
(取材・文:ショーン・キャロル)
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