二人目が「俺か?!」と走って行くことが多くて
久永 それと逆に、寄りすぎたら入れ替わられるなど、いろいろな条件を考えて。
岩政 そうですね、もちろん。ただ、僕は入れ替わりが悪いというよりも、日本の場合は入れ替わられた後、次の選手の反応が遅いと思うので、そっちを測る方法がないかなと思います。
西内 なるほど。入れ替わられた箇所に、何秒以内にプレッシャーに行けるかと。
岩政 そうそうそう。
――何か問題が起きたときのセカンドプレッシャーですね。
岩政 僕はそっちが遅いのが気になる。日本は組織的と言うけど、一人目が外されてから、その後に二人目が「俺か?!」と走って行くことが多くて。ヨーロッパだと「こっちから来そうだ」「外されたら俺が行こう」という感覚が常にあって、抜かれた瞬間にもう二人目が行っているんですよ。それが連動だと思うんですけど、日本は遅い。だから1対1で外された選手が目立って、それを恐れてアプローチに行けない。それだとブラジルとか強豪には勝てない。
――なるほど。
岩政 それはずっと思っていて、実際ヨーロッパでプレーする選手に聞いても、その感覚はあるみたいなんですよ。かわした瞬間に、もう次の相手が来ている。寄せがかわされることは気にしていなくて、外されて、次も外されたら、またみんなで戻ればいい。それが組織だと思うんですけど、日本は減点思考だから、外されたら自分のミスと言われる感覚で、寄せられていない気がする。その〝寄せ〞は、距離をデータ化することで客観的に言いやすいと思いますね。印象論じゃなくて。
西内 たとえば、相手がボールを持った時間の何パーセントで、1メートル以内に選手がいたのか。それをエリアごとに分ければ、右サイドと左サイドでインテンシティが違うとか、この選手がサボっているとか、出てくるかもしれない。
岩政 出そうですね。私が所属していた鹿島がそうでしたが、現場では「寄せる」と「寄せ切る」は違うという言い方がすごく多いです。チームの結果が出ないときは大体、寄せ切る選手がいなくなり、みんなが何となく見てしまう状態。結果が出なくて、自信がなくなって、寄せない。それを一掃して、みんなで「行こうぜ! 行こうぜ!」となると、結果が好転していく。僕らはその感覚があるので、それを数字で測っちゃうのはありだと思います。
数字で測ることのメリットとは?
――なるほど。だからさっき、「センチ単位で測れるか」という話をしたんですね。「寄せる」と「寄せ切る」の違いは、メートルよりも細かな差だと。
岩政 そうそう、そうです。
西内 このエリアで寄せ切れていないぞ、と。
岩政 そう。この辺りでお前サボってたなあ、みたいな(笑)
――特に相手のキープレーヤーに寄せ切れてないよ、とか。
岩政 そう。僕もDFだから、中盤の選手がどこまで相手に寄るかで、個々の対応がすごく変わるんですよ。サイドでもクロスに対して、あと10センチ寄ってくれたら、こっちのコースが切れて、僕はこっちを守れるのに、とか。そこを数字で測ってくれると言いやすいですね。
――先ほど久永さんが言われたように、その間合いの絶対値は、選手の能力によって違うとしても、シーズン中の変遷はわかりそうですね。この選手は最近の試合で落ちているな、とか。
久永 選手としても見える形で説明されたほうが理解しやすいですよね。
岩政 あと、ごまかせないですよ。アプローチの距離は。これがポジショニングなら「俺はこう思った」「だから行かなかった」とか言えるけど、ボールに一番近い選手が寄せるのは〝大原則〞だから、ごまかせない。僕もコンディションに不安があるときは、サボって寄せず、はたかせて良いポジションを取ったりしたけど、それも含めてですね。
チーム内でコンディションは把握していると思うので、それでサボったのなら想定内ですが、そうではなくチーム全体で何となく距離が遠くなれば、それは状況が悪くなるかもしれない。その距離が、どのエリアで重要になるかは、チームによって違うけど、測るのはありだと思いますね。
【データスタジアム株式会社】
サッカーをはじめ野球やラグビー、バスケットボール、バレーボールなど様々なスポーツの試合内容をデータ化・分析、企画制作した情報を各種メディア向けに配信。 その他スポーツ団体・選手サポート事業、映像コンテンツ事業なども手掛ける。サッカー界ではJリーグメディアプロモーションとオフィシャルサプライヤー契約を締結しており、Jリーグにおける各種数値の可視化に貢献する。
▽ 岩政大樹
1982 年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大から鹿島アントラーズに加入し、2007年からJリーグ3連覇に貢献した。2010 年南アフリカW杯日本代表。13年に鹿島を退団したあとタイのテロ・サーサナ、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て18年に現役を引退。現在は解説や執筆を行うかたわら、メルマガ、ライブ配信、イベントを行うなど、多方面に活躍の場を広げている。今年3月には『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』(カンゼン)を上梓した。
▽ 久永 啓
1977 年9月10日生まれ、岡山県出身。早稲田大学人間科学部卒業、筑波大学大学院体育研究科修了。2006 年からサンフレッチェ広島のアカデミーコーチに就任すると、2012 年から森保一監督(当時、現日本代表監督)の下でトップチームのコーチとして分析担当を務め、Jリーグ連覇に貢献した。 広島での経験からデータ分析の大きな可能性を感じ、2014 年からデータスタジアム株式会社で主にフットボール事業部のアナリストとして活躍。育成年代からプロレベルまで幅広い分析サポートや、アナリスト育成を担当する。
※データスタジアム主催のスポーツアナリスト育成講座https://www.datastadium.co.jp/analyst/training/
▽ 西内 啓
1981年4月20日生まれ、兵庫県出身。統計家。東京大学助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長等を経て、多くの企業のデータ分析および分析人材の育成に携わる。著書である『統計学が最強の学問である』は2014 年度ビジネス書大賞を受賞しベストセラーに。その他著書多数。2017 年には第10回日本統計学会出版賞を受賞。サッカーへの造詣も深い。2015 年からはJリーグとアドバイザー契約を結び、Jリーグが推進する各プロジェクトへの助言や提言を行う立場にある。