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「日本は減点思考。組織的というけど…」。元日本代表DFが提唱する守備の改善策【データ最前線・後編】

ベストセラー『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)の著者で知られる統計家の西内啓氏、元日本代表で現在は解説者として活躍する岩政大樹氏、森保一日本代表監督がサンフレッチェ広島を指揮した時代のアナリスト、現在はデータスタジアムのフットボール事業部で活躍する久永啓氏を迎え、サッカー×データにまつわる最前線事情も踏まえながら、三者による鼎談を実施した11/6発売の「フットボール批評issue26」の記事から一部を抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(司会・構成=清水英斗)

text by 清水英斗 photo by フットボール批評編集部

(前編はこちら)

二人目が「俺か?!」と走って行くことが多くて

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左から岩政大樹氏、久永啓氏、西内啓氏【写真:フットボール批評編集部】

久永 それと逆に、寄りすぎたら入れ替わられるなど、いろいろな条件を考えて。

岩政 そうですね、もちろん。ただ、僕は入れ替わりが悪いというよりも、日本の場合は入れ替わられた後、次の選手の反応が遅いと思うので、そっちを測る方法がないかなと思います。

西内 なるほど。入れ替わられた箇所に、何秒以内にプレッシャーに行けるかと。

岩政 そうそうそう。

――何か問題が起きたときのセカンドプレッシャーですね。

岩政 僕はそっちが遅いのが気になる。日本は組織的と言うけど、一人目が外されてから、その後に二人目が「俺か?!」と走って行くことが多くて。ヨーロッパだと「こっちから来そうだ」「外されたら俺が行こう」という感覚が常にあって、抜かれた瞬間にもう二人目が行っているんですよ。それが連動だと思うんですけど、日本は遅い。だから1対1で外された選手が目立って、それを恐れてアプローチに行けない。それだとブラジルとか強豪には勝てない。

――なるほど。

岩政 それはずっと思っていて、実際ヨーロッパでプレーする選手に聞いても、その感覚はあるみたいなんですよ。かわした瞬間に、もう次の相手が来ている。寄せがかわされることは気にしていなくて、外されて、次も外されたら、またみんなで戻ればいい。それが組織だと思うんですけど、日本は減点思考だから、外されたら自分のミスと言われる感覚で、寄せられていない気がする。その〝寄せ〞は、距離をデータ化することで客観的に言いやすいと思いますね。印象論じゃなくて。

西内 たとえば、相手がボールを持った時間の何パーセントで、1メートル以内に選手がいたのか。それをエリアごとに分ければ、右サイドと左サイドでインテンシティが違うとか、この選手がサボっているとか、出てくるかもしれない。

岩政 出そうですね。私が所属していた鹿島がそうでしたが、現場では「寄せる」と「寄せ切る」は違うという言い方がすごく多いです。チームの結果が出ないときは大体、寄せ切る選手がいなくなり、みんなが何となく見てしまう状態。結果が出なくて、自信がなくなって、寄せない。それを一掃して、みんなで「行こうぜ! 行こうぜ!」となると、結果が好転していく。僕らはその感覚があるので、それを数字で測っちゃうのはありだと思います。

数字で測ることのメリットとは?

――なるほど。だからさっき、「センチ単位で測れるか」という話をしたんですね。「寄せる」と「寄せ切る」の違いは、メートルよりも細かな差だと。

岩政 そうそう、そうです。

西内 このエリアで寄せ切れていないぞ、と。

岩政 そう。この辺りでお前サボってたなあ、みたいな(笑)

――特に相手のキープレーヤーに寄せ切れてないよ、とか。

岩政 そう。僕もDFだから、中盤の選手がどこまで相手に寄るかで、個々の対応がすごく変わるんですよ。サイドでもクロスに対して、あと10センチ寄ってくれたら、こっちのコースが切れて、僕はこっちを守れるのに、とか。そこを数字で測ってくれると言いやすいですね。

――先ほど久永さんが言われたように、その間合いの絶対値は、選手の能力によって違うとしても、シーズン中の変遷はわかりそうですね。この選手は最近の試合で落ちているな、とか。

久永 選手としても見える形で説明されたほうが理解しやすいですよね。

岩政 あと、ごまかせないですよ。アプローチの距離は。これがポジショニングなら「俺はこう思った」「だから行かなかった」とか言えるけど、ボールに一番近い選手が寄せるのは〝大原則〞だから、ごまかせない。僕もコンディションに不安があるときは、サボって寄せず、はたかせて良いポジションを取ったりしたけど、それも含めてですね。

 チーム内でコンディションは把握していると思うので、それでサボったのなら想定内ですが、そうではなくチーム全体で何となく距離が遠くなれば、それは状況が悪くなるかもしれない。その距離が、どのエリアで重要になるかは、チームによって違うけど、測るのはありだと思いますね。

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【データスタジアム株式会社】
サッカーをはじめ野球やラグビー、バスケットボール、バレーボールなど様々なスポーツの試合内容をデータ化・分析、企画制作した情報を各種メディア向けに配信。 その他スポーツ団体・選手サポート事業、映像コンテンツ事業なども手掛ける。サッカー界ではJリーグメディアプロモーションとオフィシャルサプライヤー契約を締結しており、Jリーグにおける各種数値の可視化に貢献する。

▽ 岩政大樹
1982 年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大から鹿島アントラーズに加入し、2007年からJリーグ3連覇に貢献した。2010 年南アフリカW杯日本代表。13年に鹿島を退団したあとタイのテロ・サーサナ、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て18年に現役を引退。現在は解説や執筆を行うかたわら、メルマガ、ライブ配信、イベントを行うなど、多方面に活躍の場を広げている。今年3月には『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』(カンゼン)を上梓した。

▽ 久永 啓
1977 年9月10日生まれ、岡山県出身。早稲田大学人間科学部卒業、筑波大学大学院体育研究科修了。2006 年からサンフレッチェ広島のアカデミーコーチに就任すると、2012 年から森保一監督(当時、現日本代表監督)の下でトップチームのコーチとして分析担当を務め、Jリーグ連覇に貢献した。 広島での経験からデータ分析の大きな可能性を感じ、2014 年からデータスタジアム株式会社で主にフットボール事業部のアナリストとして活躍。育成年代からプロレベルまで幅広い分析サポートや、アナリスト育成を担当する。
※データスタジアム主催のスポーツアナリスト育成講座https://www.datastadium.co.jp/analyst/training/

▽ 西内 啓
1981年4月20日生まれ、兵庫県出身。統計家。東京大学助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長等を経て、多くの企業のデータ分析および分析人材の育成に携わる。著書である『統計学が最強の学問である』は2014 年度ビジネス書大賞を受賞しベストセラーに。その他著書多数。2017 年には第10回日本統計学会出版賞を受賞。サッカーへの造詣も深い。2015 年からはJリーグとアドバイザー契約を結び、Jリーグが推進する各プロジェクトへの助言や提言を行う立場にある。

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「勝利に優る面白さなどない」と謳われてしまえばそこで話は終了する。
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Jリーグウォッチャーであれば現在、横浜F・マリノスが快楽的なフットボールを求道しているのはお分かりであろう。では、“面白いフットボール”を披露する境地とはいったい何なのか? 選手、コーチの目線を通して“ポステコ病”の全貌に迫る。

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