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Jリーグ 5年前

松本山雅の“マラソンマン”藤田息吹。往年のイングランド代表を想起させる抜群の「コミットメント」【西部の目】

清水エスパルスと愛媛FCでプレーし、2018年に松本山雅に加入したMF藤田息吹は今季、ルーキーイヤー以来のJ1の舞台で活躍している。第13節・名古屋グランパス戦で先発フル出場して勝利に貢献すると、以降は1試合を除いて全試合に先発し、チームに欠かせない存在となった。スタッツに表れない藤田のチームへの貢献度には、特筆すべきものがある。(文:西部謙司)

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

<プレー参加率>はJ1屈指

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松本山雅のMF藤田息吹【写真:Getty Images】

 松本山雅のセントラルMF、藤田息吹は不可欠の選手になっている。ところが、スタッツだけ見ると、ほとんど謎のプレーヤーだ。

 Jリーグ公式サイト(jleague.jp)では各選手のスタッツを検索できるようになっているのだが、藤田の攻撃のスタッツにはゼロが並ぶ。今季得点数0、今季部位別得点(右足)0、今季部位別得点(左足)0、シュート決定率0%、わずかに1試合平均シュート数0.2だけがゼロでない数字だ。攻撃というよりシュートに関するスタッツなのでそうなるのだが、これだけでは全くどんな選手なのか想像もできない。

 ちなみに、藤田息吹のトップ3スタッツは、1試合平均タックル数3.2(リーグ9位)、1試合平均インターセプト0.3(33位)、空中戦勝率51.4%(142位)。ただ、これでもまだわかりにくい。タックル数はリーグ9位と飛び抜けているが、実はそんなにタックルしている印象はない。空中戦勝率に至っては170センチのわりには勝っているんだなという、むしろ意外な数字である。

 藤田の真骨頂は数字には表れない。もし、<プレー参加率>という指標があれば、おそらくJ1でも屈指の数値が出るだろう。ボールに触れたかどうか、ボールの近くにいるかどうかに関係なく、選手の意識としてどれだけプレーにコミットしているか。そういうスタッツがあれば、攻守に渡るプレー参加率の高さは抜群だと思う。

 結果として、藤田は足を止めない。単純に走行距離が長いというより、次に備えて常に足を動かしている。足が動いていなくても頭は使っている。コミットメントの質と量が圧倒的、だからチームに不可欠な存在になっている。

イングランドのW杯優勝メンバー

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元イングランド代表MFのノビー・スタイルズ【写真:Getty Images】

 1960年代に活躍したノビー・スタイルズという選手がいる。マンチェスター・ユナイテッドとイングランド代表のMFとしてプレーし、1966年ワールドカップ優勝メンバーだった。

 なにせ昔の選手なので、記事か写真ぐらいしか情報がなかったのだが、そこからの印象は最悪だった。相手のエースをマークする、というよりファウルで潰す。チャンピオンズカップ決勝やワールドカップ準決勝で対戦したエウゼビオに対しては主審の目を盗んで顔面をパンチしていたなど、ダーティーなイメージしかなかった。ところが、後に映像を見るとかなり印象は違っていた。

 現在でいうボランチまたはアンカーのポジションにいて、相方のボビー・チャールトンほどではないにしても、その次ぐらいにボールテクニックは卓越していた。常に読みを利かせて的確にスペースを埋め、奪ったらシンプルに捌く。クレバーなプレーヤーだった。もっとタフでラフなイメージだったのだが、体格は小柄でむしろ貧弱。守備では知能犯的なファウルはあるにしても、地味にチームを支える不可欠な存在だった。

マラソンしながらサッカーができる

 スタイルズと松本山雅における藤田の存在感は重なるところがある。基本はマラソンマンだ。ずっと動き続けている。松本山雅は5-3-2のフォーメーションなので、最終ラインの5人がスペースを抑えているものの、そのぶん手前は空いている。そこを埋めているMF3人の運動量はかなりのものだ。

 ときおりハイプレスもするが、ほぼ5バックで相手の攻撃スペースを埋め、その手前でMFがボールの動きに従ってスクリーンをかけ続ける。相手は人数もスペースもあるので、松本山雅の3人は簡単には奪えない。ひたすら我慢の守備である。

 そんな中でも藤田の集中力は素晴らしく、味方へ的確に指示して水漏れを未然に防ぎ、ボールを奪える瞬間を見逃さない。スキルは高く、吸い付くようなコントロールと正確なパスでカウンターをセットする。ほとんどドリブルはしないしシュートも打たず、クロスも蹴らないので、スタッツには表れにくいのだが守備だけでなく攻撃の一歩目を作るパスでも貢献している。判断力、センスが光る賢い選手だ。

 第30節のセレッソ大阪戦では、クロスボールをソウザに決められて先制されているが、ソウザと競っていたのは藤田だった。身長差とパワーで押し切られている。ところが、その後もゴール前へ入って行くソウザを率先してマークしていた。例の空中戦勝率51.4%という高いのかそうでもないのかわからない数字は、競り合いに強いというよりも競り合いを厭わない結果なのではないかと思う。仕事をさぼらないし、逃げないのだ。

 1966年のイングランドは4-4-2システムで有名になったが、現在とはかなり異なっていた。MFのサイドは半分ウイングで、中央の2人のうち1人のボビー・チャールトンは攻撃を1人で仕切っていた。つまり4人のMFの3人はFWみたいなもので、スタイルズは3人の背後で必死にバランスをとっていた。彼が攻守にコミットしなければ、イングランドは到底もたなかったと思う。

 松本山雅もコミットしまくる藤田に支えられている。数字には表れにくく、あまり目立たないが、マラソンしながらサッカーができるだけでも驚くべき能力なのだ。

(文:西部謙司)

【了】

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