弱点を克服したリバプール
首位を走るリバプールの選手達【写真:Getty Images】
11節を終わって10勝1分無敗。唯一引分けたマンチェスター・ユナイテッド戦も、マーティン・アトキンソン主審が正しくジャッジしていれば、試合はどう転んでいたか分からない。ユナイテッドのマーカス・ラシュフォードが決めた1点は、ヴィクトル・リンデレフのファウルが発端になっていた。本来であれば、リヴァプールにFKが与えられて然るべきだった。
さて、この一戦こそ不愉快だったが、リヴァプールは今シーズンも強く、エキサイティングだ。ロベルト・フィルミーノとサディオ・マネは相変わらず攻守に貢献している。ふたりに比べると守備時のインテンシティに不安があるモハメド・サラーも、ユルゲン・クロップ監督が掲げる〈ヘヴィメタル・フットボール〉に欠かせず、戦術理解度が深まって周囲との連携がスムーズになったディボック・オリギは、第四のFWとしてようやく頭角を現しはじめた。
また、一部で「層が薄い」と指摘されている中盤は、アダム・ララーナの復調でさらにレベルアップしたといって差し支えない。インテンシティが高いジェームズ・ミルナー、ジョーダン・ヘンダーソン、ジョルジオ・ワイナルドゥム、ファビーニョに、技巧派のララーナが加わった。この陣容はプレミアリーグ最強であり、どこを粗探しすれば「層が薄い」となるのか、皆目見当もつかない。
さらに守備陣はGkアリソン、DFフィルジル・ファン・ダイク、ジョエル・マティプが昨シーズンにも増して安定し、両サイドバックのトレント・アレクサンダー=アーノルド、アンドリュー・ロバートソンは90分間にわたって激しいアップダウンを繰り返す。11節終了時点でリーグ最少の9失点。昨シーズンの同時期に比べると4点多いため、「決して盤石ではない」ともいわれているが、1試合平均は0・8失点だ。粗探しは慎みたい。
あえて不安を探すとすればジョー・ゴメスだろうか。ケガは癒えているものの、試合のフィット感を得られずに苦しんでいる。センターバック、右サイドバックの貴重な戦力だけに、クロップ監督もゴメスの復調を心待ちにしているに違いない。
とはいえ、勝点31で首位を快走。リヴァプールは大過なく序盤戦を終えた。9節のユナイテッド戦は、85分にアダム・ララーナが同点ゴール。21分に先行を許した11節のアストンヴィラ戦も、87分にロバートソン、後半追加タイムの94分にマネが決めて逆転勝ちしている。たとえ苦しくてもポイントを奪うのが強豪の証だ。30年ぶりとなるリーグ優勝の確率は、いまのところすこぶる高い。
怪我人続出も攻撃陣が奮闘するシティー
イングランド王者のマンチェスター・C【写真:Getty Images】
序盤戦で2敗を喫するとは、マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督も想定外だっただろう。エメリック・ラポルトが健在(4節のブライトン戦で右膝を負傷。全治5~6か月)であればノリッジ戦、ウォルヴァーハンプトン戦のような失点は防げた公算が大きい。「フットボールにけがは付きもの。100%の状態で闘えたケースは一度もない」。指揮官はどこにも、だれにも敗因を求めていないが、忸怩たる想いを抱いていることは容易に想像がつく。
ただ、守備の不安を攻撃力が一掃している。ボール奪取の連携はさらに研ぎ澄まされ、瞬く間に相手を囲い込む。前線と中盤が高速パスを交換、なおかつ両サイドバックも加わり、相手DF陣をイレギュラーな形に崩す。クロスもグラウンダー、かつスピードのあるボールにほぼ限定され、ボックス内から雨あられとシュートを浴びせる。
11節のサウサンプトン戦でも、シティならではのゴールが生まれた。右サイドを攻めあがったクロス、いやシュートに近いボールを、シティが誇るゴールゲッターは事もなげに右足で合わせた。ほんの少しでもタイミングが狂えばくるぶしに当たってあらぬ方向に飛んで行ったり、空振りしたりするケースで、セルヒオ・アグエロのタッチは見事というしかない。11節終了時点の総得点はリーグ最多の34。相変わらずの攻撃力だ。
長期の戦線離脱者はラポルトだけではなく、7月のプレシーズンマッチでレロイ・ザネが膝に全治6~7か月の重傷を負っている。シティのダメージは小さくない。それでも首位リヴァプールとは6ポイント差だ。この事実こそ序盤戦の評価である。3連覇への視界が曇ったわけではない。
若手の台頭が著しいチェルシー
首位リバプールと2位マンチェスター・Cを追いかけるEL王者チェルシー【写真:Getty Images】
チェルシーのフランク・ランパード監督は補強禁止を逆手に取り、一気に若返りを図った。いうなれば窮余の一策である。しかし、青年将校の決断は奏功した。
下部組織出身でトップチームに定着したのは、98年デビューのジョン・テリーを最後に20年以上も途絶えていたが、今シーズンはテイミー・エイブラハム、メイソン・マウント、フィカヨ・トモリ、カラム・ハドソン=オドイがピッチで躍動する。彼らはローン先で研鑽を積み、チェルシーで重要なポジションを占めるまでに成長した。若手の急成長によって、ウィリアンやペドロ・ロドリゲスといった実力者もウカウカできなくなってきた。近年のチェルシーでは考えられなかった相乗効果である。
また、2シーズン目を迎えたジョルジーニョはひ弱と指摘されていた欠点を克服し、ちょっとやそっとのボディコンタクトではびくともしない。しかもスルーパス総数11本、パス総数865本はともにリーグ1位と、ビルドアップの貢献度がうかがい知れるデータもズラリと並んでいる。
そしてマテオ・コバチッチが覚醒。抜群のキープ力とちらしのパスで中盤を支え、ジョルジーニョにより高い位置でのプレーを促している。そけい部を痛めているエンゴロ・カンテが戻って来たとき、中盤をどのような構成にするのか、ランパード監督の人選は興味深い。
アーセナルに移籍したダビド・ルイス代わるDFリーダーとして期待されていたアントニオ・リュディガーがそけい部、でん部などの負傷で苦しみ、なおかつ戦術的な落とし込みも不十分であることから、クリーンシートはわずか2試合。失点もワースト5位タイの17を数えている。
しかし、25得点はシティの34に次ぐ2位タイで、9ゴールのエイブラハムは得点王ランキングの2位につけている。堅守速攻から攻撃型へ──。ランパード監督は、大胆なモデルチェンジを図ろうとしている。ジョゼ・モウリーニョは「経験豊かなオリビエ・ジルーを前線に起用すべきだ」と疑問を呈したが、元監督に賛同するクラブ関係者、サポーターはほとんどいないという。
小気味よいテンポでボールをつなぎながら、つねにゴールを狙う。序盤戦のチェルシーはおおむね良好だ。外国人傭兵ばかりに頼っていた昨シーズンまでとは異なる風景に、本拠スタンフォード・ブリッジも心地よいノイズに包まれている。
(文:粕谷秀樹)
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