歯車が噛み合わないアーセナル
10試合を戦ってわずか4勝、クリーンシート(無失点)はわずかに2試合のみ。そのチームの不調と比例するかのように、ウナイ・エメリ監督の起用法には疑問の声が噴出している。さらに、前節で途中交代を命じられた際に、サポーターのブーイングをMFグラニト・ジャカ挑発で応戦してしまった。ジャカは後日謝罪したが、チームはうまくいっているとは言い難い状況に陥っていた。
両チームはこの試合を戦う3日前にカラバオカップをそれぞれ戦っている。アーセナルは5得点を奪ったものの、20歳以下の選手を5人も先発起用したリバプールに2度のリードを追いつかれ、PK戦の末に敗退。控え組でアストン・ビラ戦に臨んだウォルバーハンプトンも、1-2で敗れて大会から姿を消した。
アーセナルは3日前の試合から9名を変更。ジャカはベンチを外れ、MFメスト・エジルがリーグ戦初先発となってトップ下に入り、4-3-1-2の布陣。対するウルブスは全選手を代えている。
リーグ戦では2戦勝ちがないチーム同士の対決となったこの試合。先に試合の主導権を握ったのはウルブスだった。一方のアーセナルは、初シュートまで18分を要することとなる。しかし、そこから徐々にリズムを作ると、DFダビド・ルイスのクロスをFWアレキサンドル・ラカゼットが収め、最後はFWピエール=エメリク・オーバメヤンが決め、21分に先制に成功した。
エジルの起用は諸刃の剣
エジルは縦横無尽にピッチを動き回ってボールを配球。データサイト『Whoscored.com』によると、エジルのパス本数は両チーム最多の95本をマークしている。攻撃面ではエジルらしさを随所に見せていた。
しかし、この試合でアーセナルは、ウルブスに25本ものシュートを許した。トップ下にエジルを起用するということで、どうしても中盤の守備が緩くなってしまう。
加えて、この試合で想定外だったのは、MFマテオ・ゲンドゥジのパフォーマンス。中盤の底でプレーしたが、不用意なボールロストから何度もピンチを招いた。持ち前のダイナミックなプレーと裏腹に、ゲンドゥジのプレーは精彩を欠いていた。
ボール保持率が高まるとともに、エジルの存在感は増していく。ただ、この試合の序盤や、後半のように、相手にペースを握られると、エジルは次第に試合から消えていく。
これまでも分かり切っていたことだが、エジルはエジルであって、チームにとっては諸刃の剣。チームの軸に据えるのであれば、今までのように多くのものをチームにもたらすだろう。しかし、エメリがしているように、1つの駒として起用するのであれば、デメリットがより際立ってしまう。
なぜトレイラを下げた?
デュエル勝率72%を記録したウルブスは、スタッツが示す通りに激しい1対1から相手を押し込んで敵陣へと攻め込んでいく。スローインを受けたMFジョアン・モウチーニョがクロスを上げると、190cmのFWラウール・ヒメネスがヘディングシュート。ウルブスが76分に試合を振り出しに戻した。
同点に追いつかれる過程で、アーセナルの指揮官は不可解ともいえる采配を見せた。
ラカゼットは60分にベンチに退き、FWガブリエウ・マルチネッリを投入。さらに、MFルーカス・トレイラを下げてFWブカヨ・サカを投入。途中出場の2人の18歳を両サイドに置き、4-2-3-1へとシステムを変更している。
逃げ切りを狙ったのか、追加点を狙ったのか、エメリの意図するところはわからない。4-2-3-1にすることで、エジルの守備での負担は軽減されるが、それならばなぜトレイラを下げてしまったのか。トレイラはエジルの弱点を補うべく走り回っていたのだが。果たして、システム変更のおよそ3分後、アーセナルは同点弾を浴びている。
エメリの起用法は一貫性がない。「昨シーズンもそうだった」と言えなくもないのだが、昨シーズンはそれがうまく機能した試合も多く、UEFAヨーロッパリーグでは決勝に進んだ。結果論でしか書くことはできないが、ピッチ上に繰り広げられていた光景を見るに、エメリの采配は失敗に終わっている。
(文:加藤健一)
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