攻めあぐねたPSV
もっと「バリエーション」を——。堂安律が危機感を強めた。10月24日に行われたヨーロッパリーグのグループD第3節、対LASK戦。5バックで守備を固めた相手に対して、PSVは攻めあぐねた。
この試合ではローテーションの一環か、いつもセンターFWに入るドニエル・マレンがメンバー外となった。代わりにマルク・ファン・ボメル監督は、ワントップにウイングタイプのステフェン・ベルフバインを起用。オランダ代表にも名を連ねる褐色のアタッカーのスピードは、LASKのDF陣を大いに手こずらせたが、モハメド・イハッターレン、コディ・ガクポ、堂安…PSVの攻撃陣は、最後までゴールを割ることはできなかった。マレンだけでなく数名の選手が入れ替わり、連係面で不十分だったことは否めない。
もちろんドローは悪い結果ではない。LASK戦を終えて3試合で勝ち点7を確保したPSVは、単独でグループDの首位に立った。カウンターに翻弄されて完敗したFCユトレヒト戦に続く連敗を避けることもできた。
だが、試合後の堂安に、安堵の様子はなかった。
「アタッカー陣としてはゼロ点なので、9番の選手(マレン)がいないという環境の中で何とかしなくちゃいけなかったですけど…そこは悔いが残りますね」
堂安によれば、スコアレスドローに終わったLASK戦でPSVは、ベルフバインの個の力に「頼り過ぎた」ところがあったという。
「今日の試合は、10番の彼(ベルフワイン)のところでボールがよく収まっていましたね。ただ、その分そこに頼り過ぎたというか、後半、彼が動けなくなったときにバリエーションがなかったですし、そこは自分が何とかしなくてはいけなかったですけど。少し力不足を感じました」
チーム状況と自らの立ち位置
PSVの「アタッカー陣」の特徴は、力強い突破力にある。今日はいなかったマレン、先発したベルフワインとガクポ、そして74分に堂安に代わって入ったブルマ…多少強引にでも前にグイグイ行ける選手たちに、一度火が付いて噛み合えば、とてつもない破壊力を発揮する。しかし、敵に上手くスペースを消されて対処されると、攻撃は単調になり、行き詰まってしまうという弱点もある。
ユトレヒト戦に続き2戦連続無得点という状況を踏まえ、堂安は「何かしなくてはいけないと思います」と言う。
「こう、凄くスピート感のある攻撃が僕たちの特徴だと思いますけど、相手に引かれてそれが抑えられてしまった時になかなかバリエーションが出せていないのが現状なので。それは正直、僕とか24番の選手(イハッターレン)とか、狭い局面を何とか打開する選手の役割だと思いますし、10番の選手(ベルフワイン)や9番の選手(マレン)は前に行くのが特徴なので、なんとかそこのパイプというか、そういう役割を担っていければ、もっとチームのバリエーションが増えてくるんじゃないかなと思います」
前に前に行ってしまう選手が多い中で、“バランサー”のような役割をこなし、引いた相手に行き詰まった時でも連動性を発揮して、攻撃を円滑に進める――。堂安がチームの状況を把握して、引き受けるべく考えている自らの立ち位置は、そんなところだろうか。
右サイドの「10番」
その役割は、右サイドでコンビを組むデンゼル・ドゥムフリースとの関係性に既に現れている。185cmのオランダ代表SBの「特徴」は、スピードとフィジカルを活かしたオーバーラップだ。
堂安は、ドゥムフリースとのコンビネーションについて次のように語る。
「彼の特徴を活かしてあげないといけないと思いますし、上手く使って、操っていかないとチームのバリエーションが少なくなってくる。彼が特徴を出すと、間違いなく僕よりも上ということは分かっています。そこは彼にやらせて、僕は彼にできないことをやってあげることもチームとして必要なことですし、そのバランスも取っていかなくちゃいけないと思いますね」
右サイドで10番タイプの役割をこなす。チーム全体のバランスを考えて、味方を活かすプレーを選択する。そうすることで、自分自身も活きてくる。
このようにして堂安は、我先にと前に前に突き進む選手が多いPSVの攻撃陣の中で、“違い”を出そうとしているようだ。
「トップ下みたいな役割ができればいいと思いますし、そういう選手が少ないのでね。そういうことができれば、アタッカー陣はもっと点を取りやすいと思うし、逆に僕にもこぼれ球が転がってくる可能性が高い。アシストやゴールは何かしら絡みたいと思います」
そして、だからこそ、ファン・ボメル監督も堂安を起用するのだろう。FCフローニンゲンから移籍して、2ヶ月が経とうとしている。日本代表MFは、オランダの名門クラブの中に、居場所を確保しつつある。
(取材・文:本田千尋【アイントホーフェン】)
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