嫌われ者からワールドクラスの点取り屋へ
近年のラヒーム・スターリングのスコアラーとしての成長には目を見張るものがある。
2015年にリバプールからシティに移籍した段階では、まだ「スピード系のウインガー」の域を出ていなかったのだが、ペップ・グアルディオラの指導の下で成長を遂げる。2011年にプレミアリーグでデビューして以降、7年もの間、年間一桁得点続きだったアタッカーは、17/18シーズンにリーグ戦で年間18得点を記録した。
そのシーズン後に行われたロシア・ワールドカップでは無得点と奮わず、「フロックか?」とイングランド代表FWの実力を疑問視する声も一定数上がったが、翌シーズンの18/19シーズンもリーグ戦で17ゴールを記録。安定して20ゴール弱もの得点を積み重ねている。
そして今シーズンのスターリングは特に突出した得点力を見せている。開幕戦のウェストハム戦では圧巻のハットトリックを見せるなど、素晴らしい出だしを切ると8節終了時点で7試合に出場して6ゴールを記録。単純計算ではあるものの年間28ゴールのペースで得点を積み重ねている。
チャンピオンズリーグでも、グループステージ第2節ディナモ・ザグレブ戦ではスコアレスの56分からピッチに立つと、1ゴール1アシストを記録してチームを救った。もうスターリングのスコアラーとしての資質は、開花したといっても差し支えないはずだ。
思えば、4年前に94億円と報道されている莫大な移籍金でリバプールからマンチェスター・シティに移籍した際には、リバプールと給与交渉でもめたこともあり「金の亡者」とイングランド国内から大きなバッシングを受けた。その後もワールドカップで点を決め切れず批判の的になった時期もあったスターリングだが、現在はそんな批判の声も小さくなっていきている。
一体、スターリングはどのようにしてゴールスコアラーへと変身したのだろうか。
個人戦術と技術的な進化とは
スターリングが最も成長した点はポジショニング面だ。ウインガーとしてサイドに張って、ボールを受けてから真価を発揮することが多かったイングランド人だが、今ではハーフスペースでボールを受けて周りの選手を使うだけではなく、相手DFの裏のスペースに抜け出す動きも非常に上手くなった。
事実、過去3シーズンのヒートマップを比較すると、16/17シーズンの時点では大半の時間を大外のレーンで過ごしているが、18/19シーズンではハーフスペースだけでなくゴール前にも顔を出す時間が増えていることを示すデータも出ている。彼のプレーエリアの変化にはペップ・グアルディオラによる指導が大きい。
また指揮官は、状況判断や体の向き、首の振り方などの個人戦術だけでなく、ボールを受けてからのボール持ち方など、技術面についても細かく指導している。スターリング自身も「トラップで使うべき足の部位まで指導された」と明かしている。
ペップもスターリングの成長に満足している。途中出場ながらマンオブザマッチ級の活躍を披露したディナモ・ザグレブ戦後、指揮官は会見で「クロスに対して顔を出す才能がスターリングにはあるね」と称賛した。
精神面の成長とは
また、グアルディオラはスターリングの精神面の成長も称賛している。以前のスターリングはGKと一対一になっても、焦ってキックをGKに当ててしまう場面も多かった。しかし近年はそんな若さが見られる場面は減ってきている。加えて一度ミスをしても、引きずり過ぎないメンタルのコントロール方法も覚えたようだ。
ペップはスターリングの自信について、
「今季のエバートン戦の数日後に彼と話した(試合は3-1でシティの勝利)。その試合で大きなチャンスをミスしたが、もうそのミスのことは気にしていないと言っていたよ。その代わりに次のゴールを狙っているとね。彼の自信は特筆するべき特徴だよ」
と語っている。あるいはイングランド代表監督のガレス・サウスゲイトも「自信がついた」と明かしている。
結果、リバプールでのラストイヤーである2014/15シーズンはリーグ戦でシュート84本放ち、ゴールはわずか7ゴールと決定率はわずか8%だったが、直近の3シーズン、2016/17シーズンは21%、2018/19シーズンは22%、今シーズンは24%と、ゴール前での落ち着きも増していることがわかるスタッツも出ている。
日進月歩の成長を見せるスターリングは早くもイングランドの有望株から羨望のまなざしを向けられている。チェルシーのウインガー、カラム・ハドソン=オドイは「スターリングは世界のベストウィンガーの1人だと思う。チームのためにプレーする姿を見るのは素晴らしいよ」と発言し、チームメイトのフィル・フォーデンもスターリングを「ロールモデルにしている」というコメントを残している。
それでもペップのスターリングにさらなる成長を求めている。
「スターリングは数年後により優秀な選手になると信じている。なぜなら強い向上心を私は知っているからね」
スターリングにとっては大変かもしれないが、常に高い要求をされ続ける監督の下でプレーできることは幸せなことだ。成長し続けることができるのだから。24歳の青年はどこまでの高みまで到達できるのか。
(文:プレミアパブ編集部)
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