フットボールチャンネル

日本代表 5年前

日本代表に課される命題は? タジキスタンにも苦戦…顕在化されるメンバー固定の弊害

日本代表は15日のタジキスタン戦で勝利を収め、カタールワールドカップ・アジア2次予選で3連勝を飾った。それでも、この試合では前半無得点と苦しめられ、ピンチも招いた。日本より格下の相手が徹底分析して日本代表戦に臨んでくる中で、メンバー固定の弊害が少しずつ顕著になってきている。(文:元川悦子)

text by 元川悦子 photo by Shinya Tanaka

あわやジャイアントキリング

20190910_moriyasu_tnk
日本代表の森保一監督【写真:田中伸弥】

「この8年でタジキスタンは進歩した。明日はサポーターが驚くような試合をする」

 15日の2022年カタールワールドカップ・アジア2次予選・日本戦を前に、タジキスタンのウスモン・トシェフ監督は虎視眈々と下克上を狙っていたという。その言葉通り、前半は日本をしのぐ気迫とタフな姿勢を強く押し出した。

 彼らは鎌田大地や中島翔哉ら日本攻撃陣に激しく体を寄せて徹底的にマーク。中盤の要・柴崎岳の縦パスやサイドチェンジを警戒し、通させないような守備戦術を実践した。吉田麻也の右サイドへのロングフィードから堂安を経由する攻めのパターンも中央でブロックを作って確実に封鎖する。こうなると、日本はチャンスらしいチャンスを作れない。堂安律や南野拓実も個の打開力を備えたアタッカーではあるが、強引に行こうとしても相手の密着マークに苦しみ、違いを作れなかった。

 想像をはるかに超える苦戦を強いられる中、前半24分には鎌田のトラップミスを拾われ、鋭いカウンターを繰り出されてしまった。これは守護神・権田修一の左手一本のスーパーセーブで無得点に抑えたが、失点を食らっていてもおかしくないシーンだった。ここで1点を奪われていたら、超アウェーの雰囲気もヒートアップし、日本はより一層、戦いづらくなっていたはず。本当に試合の明暗を分けるビッグプレーだったと言っていい。

 後半8分に中島の左クロスを南野がヘッドで押し込む先制点のシーンまでは終始、このような苦境が続いた。万が一、日本がゴールをこじ開けられず、終盤までもつれていたら、結末がどうなっていたか予想もつかない。トシェフ監督が目論んだ通りのジャイアントキリングを起こされていた可能性もゼロではないだろう。

相手が見せたクレバーさ

 指揮官は「1月のアジアカップの初戦・トルクメニスタン戦の戦いを何度も見て、徹底分析して、対策を講じた」と語っているという。日本のスタメンは当時から4人が入れ替わったが、チームの軸を担う吉田や長友佑都、酒井宏樹ら守備陣、ボランチの柴崎、堂安・南野・中島の2列目の顔ぶれは同じだった。彼らがカギを握る存在だとよく分かっていたから、そこを徹底的に封じて、自分たちの持ち味である守備から攻撃への切り替えの速さ、ゴールへの迫力とスピードを前面に押し出そうとトシェフ監督は考えたに違いない。

 実際、日本攻撃陣は2列目トリオの推進力が封じられ、柴崎のパス出しとサイドアタックもかなり止められた。前半を通して長友はほとんどオーバーラップできなかったし、前目に位置した酒井宏樹も凄まじいマークに遭った。日本の手の内を読んだ監督のクレバーさが森保ジャパンにとって大きなハードルになったのである。

 こういう事態が起きたのは、やはり森保一監督のメンバー起用の固定によるところが大だと言わざるを得ない。アジアカップの時もそうだが、指揮官はできるだけ同じ主力を連続して出場させ、リスクを最小限にとどめようと考える傾向が強い。2次予選に入っても守備陣の構成は基本的に同じで、絶対的司令塔・柴崎にボランチの軸を託し、2列目トリオを並べるという考え方から脱することはなかった。この1年間、それで結果が出ていたから、大きくチーム構成を変化させる必要もなかったのだろう。

森保監督に課された命題

 ただ、どんな国の監督でも日本の陣容がほぼ変わらなければ、丸裸にするのも容易だし、対策も立てやすい。11月14日の次戦の相手・キルギスも似たような手を使ってくると見られる。おそらく1カ月後には絶対的1トップ・大迫勇也の復帰が叶うだろうし、冨安健洋もケガから戻る可能性も少なくないが、ベストメンバーを揃えられたとしても全てが解決するわけではない。やはりチームのバリエーションを増やしていくことしか、対戦国の研究と対策をかわす術はないのだ。

 10日のモンゴル戦で2列目トリオの一角にスピードスター・伊東純也を入れたり、途中から中島翔哉をトップ下に動かしたり、タジキスタン戦後半に鎌田をトップ下に落としたり、浅野拓磨を左サイドでトライするなど、いくつかの試みを行ったが、そういう形を勝負のかかった状況で使えるようにしていかなければいけない。「試合の入りは計算できるメンバーで行く」という考え方を貫いていたら、結局はバリエーションの多様化にはつながらないだろう。

 今回のタジキスタン戦もフィジカル的に厳しかったかもしれないが、モンゴル戦の流れを引き継いで伊東を右で先発させる策も考えられた。最初から南野を1トップに据えてトップ下に久保建英を置くような陣容も取れたはず。そういう幅のある戦い方に2次予選のうちからどんどん挑んでおかないと、最終予選は本当に厳しい戦いになる。

 日本がタジキスタン戦を戦っていた同じ時間帯には、1月のアジアカップ4強の強豪・UAEが西野朗監督率いるタイに敗れるという波乱も起きた。それくらいアジア各国のレベル上がっている。2次予選はもちろん失敗はできないが、最終予選になればもっと失敗できないという大きな重圧がかかる。その段階に至る前に、「相手の出方によって臨機応変なメンバーや戦術で戦えるチーム」へと飛躍させることが、森保監督に課される命題だ。そのレベルを目指して、指揮官にはかつてないほどの大胆さと勇敢さを押し出すことを強く求めたい。

(文:元川悦子)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!