縦の仕掛けを主体とした攻撃
森保一監督が率いる日本代表はアウェーでタジキスタンと対戦する。“ザックジャパン”の2次予選でも対戦経験があり、ホームを8-0と大勝し、アウェーも前半こそ苦しんだものの、結局4-0と完勝に終わった。
当時のセントラル・スタジアムはまだ天然芝で、乾いたボコボコのピッチが記憶に残っているが、現在は人工芝に変わっており、バウンドや足元の感覚など独特の難しさはあるものの、むしろやりやすさを感じる選手の方が多いかもしれない。しかも、3日前から試合会場で練習できる恩恵も良い方に働くだろう。
また気候もミャンマーのように不規則なスコールが来ることもなく、湿度の低さはあるものの、プレーの環境面で大きな不利はないはず。ただ、タジキスタンがホームでキルギスに1-0と勝利した試合の映像を観たところ、サポーターがかなり熱狂的で、試合中ずっとテンションを上げて応援しており、その圧力もさることながら、細かいコーチングが聞こえにくいかもしれない。
ウズベキスタン生まれのタシェフ監督は今年5月からU-23との兼任でチームを率いており、力のあるベテランを残しながら、積極的な若手選手の選出、起用で世代間の融合を図っている。その意味では森保監督と共通する。堅実なディフェンスをベースに縦の仕掛けを主体としたアグレッシブな攻撃が強みだ。
格闘家のような体の強さ
4-1-4-1が基本フォーメーションで、右からラキモフ、アリシェル・ジャリロフ、ウマルバエフ、パンジュシャンベと並ぶ2列目の4枚はドリブルとダイアゴナルランを繰り返してゴール前に殺到する。中盤で細かくボールを回すスタイルではないが、一発のロングボールよりはグラウンダーで前向きにパスをつなぎ、ドリブルを織り交ぜる、大枠で言えば“ハリルジャパン”を連想させる攻撃が目を引く。
キーマンは10番を背負うアリシェル・ジャリロフで、キルギス戦でもウマルバエフのパスから鮮やかに中央を突破して左足でゴールを決めた。推進力が高く、トップスピードでも正確なシュートを打てるので、冨安健洋を欠く日本の最終ラインはバイタルエリアで、このアリシェル・ジャリロフに決して前を向かせない守備をする必要がある。
右サイドのラキモフは縦の突破力を武器とするウィンガーで、1トップのマヌチェフル・ジャリロフとのポジションチェンジも危険だ。逆に左サイドのパンジュシャンベは右利きの“逆足”で、インサイドのウマルバエフやアリシェル・ジャリロフと近い距離で絡む。FKのスペシャリストでもあり、左利きのアリシェル・ジャリロフと二人のどちらかがキッカーを務める。
そのパンジュシャンベと危険な左のホットラインを形成するのがキャプテンでもある左サイドバックのナザロフだ。アリシェル・ジャリロフが表のキーマンなら、このナザロフは裏のキーマンであり、短い攻撃時間でも高い位置まで攻め上がってチャンスに絡んで来る。左足のクロスも危険だが、インサイドに入り込んで来ることもあるので、マッチアップする日本の選手は注意が必要だろう。
こうしたタジキスタンの危険な攻撃も全体の押し上げとアンカーに構える23歳のジュラボエフからの効果的な起点のパスがあってこそ。日本が高い位置でボールを支配し、タジキスタンが単調なロングボールに頼る状況を作れれば、アウェーでもかなり優勢に試合を進めることができるはずだ。タジキスタンの選手は格闘家のような体の強さがあり、人工芝のバウンドに目測を誤るようなことがあれば、一発のカウンターでピンチに陥るリスクもある。
しかし、そうしたリスクはアジアのアウェーであれば常にあるものなので、恐れることなく向き合って行く必要がある。とにかくまずは相手陣内でボールを保持し、押し込むことで、相手の攻撃陣が熱狂的な応援の後押しを受けながら、推進力ある仕掛けを発揮できないようにしたい。もちろん、そうした展開の中で早い時間帯のゴールは欲しいが、焦ってリズムを失わない様にゲームをコントロールしていくべきだろう。
(文:河治良幸)
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