「いま選んだ選手がベスト」
カタールW杯のアジア2次予選のモンゴル戦、タジキスタン戦に向けた代表合宿がスタートする。木曜日に行われたメンバー発表では怪我のFW大迫勇也に加えて鈴木武蔵が外れ、鎌田大地、浅野拓磨の二人が復帰を果たしたものの、森保一監督が「1年間チームを作って来た中でのベストメンバー」と語った前回から引き続き21人が招集された。
「ミャンマー戦でもそうですが、いま選んだ選手がベストだということをお伝えしています。これまでも代表の活動においては、その都度のベストということで選手たちに活動してもらってきた。ベストということはメンバー固定ではなく、活動の中で変わるものだと思うし、今回もチームとして活動のベストと考えている」
前回の選考は予選スタートで所信表明の意味合いもあったと考えられたが、そこからほぼ変更が無かったということで、少なくとも2次予選の突破が見えてくるまで、テスト的な選手選考は行われない可能性が高い。もちろん予選は1つ1つ勝ち点を獲得して早く突破を決めるということが第一の目標になるが、選手間の競争という視点でも注目ポイントはある。
その1つは大迫の不在をどういう選手起用で乗り切り、そこから新たなオプションが生まれてくるかというもの。正直、現時点で大迫と同じ仕事を期待できる選手は欧州組も含めて見当たらない。能力だけで評価すればメンバー外の興梠慎三が一番手と見られるが、森保監督としてはチームの成長を考慮に入れながら構成のバランスを考えていることもあるだろう。
大迫がいないなりのソリューション
前回から引き続き招集された永井謙佑、さらに浅野も鎌田も典型的なターゲットマンではなく、永井と浅野はスピードを生かした裏抜け、鎌田はキープ力こそ大迫に通じるが、基本的にセカンドトップやトップ下の役割を得意としている。相手は2次予選が初めてとなるモンゴル、そして技術的に日本より大きく落ちるタジキスタンということで、基本的に日本がボールを持つ時間が長くなることは疑いない。
そこから横パスばかり繋ぐような状況に陥らないように、FWが縦パスを引き出して行くことが必要になる。大迫はロングボールをおさめることも、ポゼッションから縦パスを引き出すこともできる万能型のポストプレーヤーだが、今回スタメンで起用される選手が少なくとも後者の役割をこなす必要がある。ただし、大迫と全く同じプレーをする必要はなく、縦の動き出しで相手のディフェンスを動かして手前にスペースを作るとか、ワンタッチで速い崩しを演出するなど、いろいろな方法はあるだろう。
モンゴル戦はそうしたプレーの精度が鍵を握るが、アウェーのタジキスタン戦は(4-0で勝利こそしたが)ザックジャパンが3次予選で苦しんだ様に、ドゥシャンベの荒れたピッチや相手の激しい当たりのなかで、細かい技術を発揮しにくい状況になる可能性は高い。そこで大迫がいれば常に高い位置にポイントを作ってくれるが、いないなりに1トップの選手はもちろん、南野拓実や中島翔哉、堂安律などがドリブルをうまく生かして、強引にマークを剥がして行くプレーも求められる。
正直に言えば、この2試合で“大迫の代役”が見つかることはないだろう。そもそも、この3人に同じプレーを求めることが間違いだからだ。しかし、大迫がいないなりのソリューションを見出していく必要があることは変わらない。今回はその1つの好機であり、特にアウェーのタジキスタン戦で勝ち切ることができれば、今後の戦いにもプラスになるはずだ。
注目すべき“見えない競争”
ボランチはアジアカップで主力だった柴崎岳と遠藤航が従来のファーストチョイスだったが、前回は親善試合のパラグアイ戦、2次予選の初戦だったミャンマー戦で橋本拳人が柴崎とともに先発起用された。もちろんドイツ2部のシュトゥットガルトに移籍したばかりの遠藤がパラグアイ戦の前日合流になったことも選手起用に影響しただろうが、橋本がチャンスを生かして存在感を発揮したことで、序列を覆した可能性もある。
その遠藤も前回に比べれば新天地の水にも慣れ、良い状態でチームに合流できると見られるため、橋本との競争は今回の注目ポイントになりそうだ。その一方で板倉滉もオランダ1部のフローニンゲンでは引き続きセンターバックでの出場が続くものの、前節のRKCワールワイク戦で無失点勝利に大きく貢献するなど安定感を増している。前回より連戦の移動が厳しくなる状況で、特にタジキスタン戦はロングボールを跳ね返す能力も求められてくるため、起用の可能性は十分にある。
基本的には柴崎がボランチの軸になるはずだが、連戦や移動の疲労なども考えれば、2試合フル出場にこだわらず、ほかの選手で組み合わせるプランも有効だ。柴崎の展開力、ゲームメイクはほかの選手に無いスペシャリティとなるが、中盤でのリーダーシップという意味では遠藤が担えれば、橋本か板倉との組み合わせというオプションも計算しやすくなる。
もう1つの注目点は2列目だ。中島翔哉、南野拓実、堂安律の3人が引き続きファーストセットになるが、マジョルカで途中出場が多いながらも試合経験を積んでいる久保建英、そして前回は直前に負った怪我の影響もあった伊東純也が攻撃の流れを変えるオプションとして、さらに重要な存在になってくる。
これまで上記の3人の誰かを欠くとパフォーマンスが落ちる傾向があったが、原口元気も含め、その状況を覆す活躍をサブの選手が示すことで、競争がより活性化されるはずだ。逆に彼らがここで森保監督の信頼に足る結果を残せなければ、今回はメンバー外だった選手にチャンスが回ってくる可能性がある。そうした今後の当落戦につながる“見えない競争”にも注目していきたい。
(文:河治良幸)
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