バルサを苦しめるも…
今季のセリエAで唯一全勝を果たしているインテルでも、カンプ・ノウでのバルセロナ戦という高い壁を乗り越えることができなかった。現地時間2日に行われたチャンピオンズリーグ・グループリーグF組第2節、バルセロナ対インテル。ネラッズーリは試合開始早々に先制ゴールを挙げるなどペースを握って試合を進める時間があったものの、結果的に1-2で敗れることになった。
これでグループリーグ初戦のスラヴィア・プラハ戦、同第2節のバルセロナ戦でインテルが稼いだ勝ち点はわずか「1」。ここにボルシア・ドルトムントが絡んでくる「死のF組」の突破に、早くも黄色信号が灯っている。もちろんあと4試合残っているとはいえ、スタートダッシュに躓いたのはかなり痛いと言えるだろう。
ただ、バルセロナ戦に関して言えば、インテルのパフォーマンス自体はそれほど悪くはなかった。むしろ、勝っていてもおかしくはない内容であった。タラレバになってしまうが、FWリオネル・メッシがこの試合も欠場していたならば、結果はまったく違っていたかもしれない。もちろん敗れたのは事実だが、バルセロナを苦しませたのも紛れもない事実だ。
「敗北後に称賛を積み重ねることはほぼ意味がない。確かなのは、バルセロナにとって本当に難しい試合を我々がしたこと。私たちはこの結果より良い結果を得るに値した」
クラブ公式サイトによると、インテルを率いるアントニオ・コンテ監督は試合後の会見でこう振り返っていたという。まさにこの言葉通りだろう。コンテ監督、サポーター、スタッフ、そして何よりも選手が一番この敗戦に悔しさを覚えているはずだ。
先制ゴールを挙げながら逆転負け。ペースを握っていた時間帯もあった。では、なぜインテルは敗れたのか。ここからは前半と後半に分けて、試合を振り返っていきたい。
ビルドアップの正確さで試合を優位に
この日のインテルが最もバルセロナを苦しめたのは前半45分間だったと言える。アウェイという難しい環境でもその雰囲気に飲み込まれなかったイレブンは、立ち上がりから素晴らしいパフォーマンスを見せたのである。
まず、ネラッズーリにとって大きかったのは電光石火の先制弾。試合開始早々の3分にFWラウタロ・マルティネスがゴールネットを揺らしたことにより、インテルはその後も落ち着いてバルセロナに対し戦うことができた。
GKサミール・ハンダノヴィッチ含めた11人全員が丁寧にパスを繋いで的確にバルセロナのプレスを回避。選手間の距離をコンパクトに保ち、2列目の選手にボールが収まった瞬間に素早く縦へ展開し、L・マルティネスやFWアレクシス・サンチェスを生かす。ウィングバックのMFアントニオ・カンドレヴァ、MFクワドォー・アサモアはサイドに目一杯開き、深い位置まで侵入すると徹底して素早いクロスを上げる。立ち上がりから、インテルの攻撃の形はピッチ上で余すことなく表れていた。
中でもバルセロナにとって最も厄介だったのがビルドアップの正確性。インテルの選手は一人一人がボールを受けようとする意識が高く、ダイレクトパスが面白いように繋がる。中盤の核であるMFステファノ・センシにボールが入れば、MFマルセロ・ブロゾビッチやMFニコロ・バレッラは常にサポートへと回る。さらに前線ではL・マルティネスやA・サンチェスが相手の最終ラインを突き通すようなランニングでボールを引き出そうとする。このあたりの連動性は、セリエA全勝で首位に立つクラブの貫禄のようなものが伺えた。
こうしてミドルゾーンで簡単にプレスを剥がされてしまったバルセロナは、インテルに深い位置まで押し込まれる。MFセルヒオ・ブスケッツ+最終ラインの4人で懸命な守備を見せるが、アウェイチームも前線に人数を集めるのが非常に速い。たとえば20分の場面では、バレッラから右サイドのカンドレヴァにボールが展開された瞬間、5対5という状況が出来上がってしまった。結果的にクロスが合わず失点は免れたが、バルセロナが後手を踏んでいたのは明らかだった。
まず攻撃面で優位に立ったインテルは、守備面でも抜群の強度を誇る。中盤3枚を起点としてビルドアップを図るバルセロナは、ボールを展開する位置が全体的に低く、なかなかゴール前までスムーズに運べない。そうなるとインテルは守備陣形を整えるのに余裕を持てるため、最終ラインのズレなどは生じなかった。
中盤の位置にはメッシも下がってくるが、そのエリアはブロゾビッチが的確にカバー。仮にそのスペースを使われても、懸命なプレスバックで対応し、CBの選手と挟み込んでボールを刈り取ることができていた。MFアルトゥールの個人技での突破、メッシのロングシュートなどは浴びたものの、ほとんどバルセロナに対しては大きなチャンスを作らせなかったと言えるだろう。
こうして攻守両面で試合をコントロールしたインテル。ただ、「前半のチャンスを最大限に活用する必要があった」とコンテ監督が振り返った通り、ネラッズーリは何度か追加点のチャンスを生んだものの、45分間を1点止まりで終えることになった。結果的には、だが、これが後の勝敗を分けることになる。
流れを変えたファイターの存在
後半開始の笛が鳴り響いて間もなくは、前半45分間と流れ自体はそんなに変わらなかった。しかし、53分のことだった。エルネスト・バルベルデ監督はブスケッツを下げてMFアルトゥーロ・ビダルをピッチへ送り出し、中盤の陣形を変更。MFフレンキー・デ・ヨングとアルトゥールのダブルボランチにトップ下・ビダルといった形で、インテルに対応したのである。
するとビダルの投入からわずか5分後のことだった。ペナルティエリア右やや手前でボールを受けた背番号22が反対側にポジショニングしていたFWルイス・スアレスへクロス気味のパスを送る。これをウルグアイ代表FWが圧巻のボレーシュートで見事にゴールネットへ突き刺し、同点に追いついたのだ。
出場からわずか5分後にアシストを記録したビダル。指揮官の起用に応える結果をさっそく残すことになったが、チリ人MFがピッチで示した効果はそれだけではなかった。
途中出場ということで、ビダルは他の選手と比べるとスタミナは十分だった。そのため、同選手はインテルの最終ラインまで何も躊躇することなく猛烈なプレスを与える。こうすることでバルセロナ全体のラインも高い位置まで押し上げられ、インテルのビルドアップを早めにストップさせることができた。
ビダルのプレスも、ただがむしゃらに、とっていった感じには思えなかった。たとえば、ハンダノヴィッチまでボールが戻った際には、より味方の人数が少ない方のサイドを切りながらプレス。当然、インテル守護神はビダルが切っていないエリアへボールを飛ばすが、そもそもそちらのサイドには選手が集まっているため、インテル側のミスを誘いやすくなったというわけだ。
こうして前から強烈なプレスを受けたインテルは、次第に攻撃のリズムを失う。カウンターも中盤底の人数を増やしたバルセロナに対し不発に終わり、サイドから苦し紛れのクロスで何とか相手ゴール前に押し込むしか手段はなくなっていた。コンテ監督はMFマッテオ・ポリターノやMFロベルト・ガリアルディーニといった選手をピッチに送り込んだが、状況はあまり大きく変化しなかった。
そして、ビダル投入の効果によってよりゴールに近いエリアでプレーできたのがメッシである。チリ人MFが2列目のエリアを幅広くカバーすることで、背番号10にはより自由な動きが与えられ、前半から厄介な存在となっていたブロゾビッチのプレッシャーも後半は回避することができていた。
そして84分にはそのメッシがドリブルで相手DF3人を引き付けると、最後はスアレスへラストパス。ボールを左足で見事にコントロールした同選手はハンダノヴィッチとの1対1を冷静に制し、バルセロナが見事に逆転。バルベルデ監督の采配がピタリと当たったホームチームはそのまま逃げ切りに成功し、インテルから勝ち点3をもぎ取った。
インテルにとっては見事にやられた結果となった。前半に勝負を決め切れなかったことはもちろん、後半に相手の勢いに飲み込まれてしまったのが何より痛かった。ただ、全体的にはそれほど悲観するほどの内容ではない。来る今月6日には、リーグ戦でユベントスとの首位攻防戦が待っている。「(ユベントス戦で)僕らは勝利したいし、常にそうでないといけない。僕らはインテルで、監督はコンテだ」。『スカイ・スポーツ』のインタビューで、バレッラはこう話している。気持ちはすでに切り替わっているようだ。
(文:小澤祐作)
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