低い位置でビルドアップする意外なチームとは?
先日、データ会社opta社で働くダンカン・アレクサンダー氏が興味深いインフォグラフィックをTwitterに投稿した。第3節時点で、「各GKはどこにゴールキックを蹴っているか」のエリアをボックス内で繋いだパス数の順番で並べている。
興味深いのは、最もボックス内で繋いでいるGKはブライトンのマシュー・ライアンという点だ。前提として、攻められているチームの方がゴールキックの数が増えるため、従ってボックス内で繋ぐ数も増える傾向になる。
とはいえブライトンは、22本、全体の約70%ものパスをボックス内で繋いでいる。つい10年前までのプレミアリーグでは、下位チームはほとんどロングボール戦術を採用していたことを考えると、時代の変化を感じる。
今季からブライトンの監督に就任したグレアム・ポッターは、パスサッカーを志向する若手イングランド人監督だ。ボーンマスのエディ・ハウと並んで、今後のイングランドを牽引することを期待されている44歳の哲学が、既にチームに染み付いていることがよくわかる結果となっている。
他にも、低い位置からのビルドアップでいうと、マンチェスター・シティも同様だ。エデルソンのボックス内のキックは、本数でいうと9本だが、割合でいうと75%のゴールキックをボックス内で繋いでいる。これはリーグ内で1位だ。
またボックス外に蹴ったボールに関しては全て相手ボックス付近までボールを飛ばしている。原則的には、低い位置からボールを繋ぐものの、可能性を感じた場合は、相手最終ラインの裏のスペースも狙うというシティの考えが非常によく伝わってくる。しかもそのキックを蹴るのはロングフィードの定評のあるエデルソンだ。つい前がかりになってしまうと、ゴールキックから即失点も起こりうるのだ。
ノースロンドンの2チームの戦術は似ている?
他のチームを紹介すると、アーセナルのベルント・レノ、トッテナムのウーゴ・ロリスはそれぞれ、18本と17本もボックス内でボールを繋いでいる。ノースロンドンのライバルである両チームだが、今季の戦術には共通点がある。低い位置から繋ぎ、相手の最終ラインを高い位置に引き付けた状態で、アーセナルはオーバメヤン、トッテナムはソン・フンミンらスピードスターを裏のスペースに走らせるシーンが多い。ゴールキックからもその指向性の一端を感じる。
一方でボックス外に蹴るボールに関しては、やや片方のサイドによる傾向はあるものの、それ以上の情報は見えてこない印象だ。ロングボールを当てる選手などは決まっているだろうが、どのエリアで誰がボールを拾う…というところまでは決まっていないのかもしれない。
逆にロングボールを蹴る場合の戦術が明確になっているのがウォルバーハンプトンだ。ルイ・パトリシオはボックス内で繋ぐ回数はなんとゼロ本。足元が苦手のため、原則的には長いボールしか蹴らない。ただ上背のあるメキシコ代表FWラウル・ヒメネスをゴールキックの場面では右サイド寄りで競らせて、こぼれ球を拾うことで前進するパターンを一貫して行っているようだ。
最終ラインからきちんとボールを回す印象が強いウォルバーハンプトンだが、GKはパスワークに入れない。少なくとも相手のプレスがハマりやすいゴールキックに関しては必ず長いボールを蹴るという明確なプランがあるようだ。
他にも以前はフィードが苦手だったレスターのカシュパー・シュマイケルが右サイドにミドルレンジのキックを多用していることから成長感じ取ることができる。あるいはワトフォードのベン・フォスターが2本も相手ボックス内にキックを飛ばすことができているのはリーグ随一のキック力があるからだろう。選手の成長や能力の高さなども感じる。
一方で一定の傾向が見られないチームもいくつかあった。その典型例はニューカッスルのマルティン・ドゥブラフカだろうか。今夏にニューカッスルの監督に就任したスティーブ・ブルースは経験豊富な監督だが、個の力に任せるオールドスタイルなタイプでもあるので、ゴールキックをデザインする練習などは行っていないのかもしれない。
いずれにしてもゴールキックから見えてくる情報は非常に多い。今季は注目して見ていきたいところである。