J2王者に輝いた06年のクラブ記録に並ぶ連続無敗
近年の横浜FCは、「ベテラン選手」と同義語であったと言えるだろう。
1998年に横浜フリューゲルスの遺志を継いで誕生したクラブは、言うまでもなく“キング”の居城でもある。だが52歳の三浦知良を別としても、横浜FCは長年にわたって、キャリアの晩年を迎えた選手たちの豊富な経験という財産を頼りにしてきた。
しかし、今年は少し違う何かが起こりつつある。
カルフィン・ヨン・ア・ピン(33歳)、伊野波雅彦(34歳)、松井大輔(38歳)、レアンドロ・ドミンゲス(36歳)、イバ(34歳)など、チームの背骨を構成しているのは依然として30歳を大きく過ぎた選手たちだ。だがここ数週間、J1昇格の可能性に向けてチームを後押ししているのは、新たに頭角を現してきた若い選手たちの勢いである。
22歳の松尾佑介と23歳の中山克広は最近2ヶ月ほど絶好調を維持。夏の暑さがドミンゲスやイバなどに蓄積させた疲労も、チームのペースダウンに繋がることはなかった。
松尾は11試合出場で4得点4アシスト、中山は22試合出場で6得点5アシストを記録している。さらに斉藤光毅(18歳)や草野侑己(23歳)、齋藤功佑(22歳)など他の若手選手たちも力を発揮し、9試合を残した時点で3位に位置する下平隆宏監督のチームに大きな貢献を果たしてきた。
先週末のアウェイでのFC町田ゼルビア戦を0-0のドローに持ち込んだことで、横浜FCは連続無敗記録を15試合に伸ばした。高木琢也監督の下でJ2王者としてJ1昇格を勝ち取った2006年に達成したクラブ記録に並んでいる。6月15日のホームでの徳島ヴォルティス戦を1-2で落として以来敗戦を味わっていない。
イバは過去2年間の横浜FCで、そしてJ2全体でも最も恐れられる点取り屋だった。今年もまた、フィジカル面に多少の問題を抱えながらも30試合に出場して16得点を挙げている。ペナルティーエリア内やエリア付近での彼の脅威を相手守備陣が十分に理解した今、ノルウェー人ストライカーがマークされる存在となるのは当然のことだ。
ヨン・ア・ピンが語る若手選手躍進の秘密
だがチーム最大の武器がこれまで以上に警戒される中でも、新たな若手スター選手たちの台頭により、三ツ沢のチームはファイナルサードで相手に脅威を与え続けることが可能となっている。
「相手はやりにくいと思う。ウイングの方を止めるか、僕の方を止めるかになるので」
ヴァンフォーレ甲府に3-2の勝利を収めた9月7日の試合後にイバはそう話していた。この試合では松尾が1得点1アシスト、中山が2得点を記録している。
「今日は僕の方を止めにきたので、両ウイングにはゴールを決められるスペースがあった。それこそが今チームが取り組んでいることだ。毎日フォーメーション練習をして、試合でもやれているので、すごくいいと思う」
「彼らには試合を変えられる力がある。今日もまさに変えてくれた。(斉藤)コウキもいるし、若い選手たちも出てきている。未来に向けて本当に有望な若い選手たちがいる。そういう選手たちが今成長して、良いプレーをしている。チームにとって大事なことだ」
若手選手の貢献が年長のチームメートたちの負担を軽減する一方で、より長くサッカーをプレーしてきた選手たちの冷静さや監督の手腕により、松尾らの選手たちが存分にポテンシャルを発揮できている一面もある。
「若い選手たちの仕事は難しくないよ」
横浜FCが最近4試合で失点を喫した唯一の試合である甲府戦の試合後に、ヨン・ア・ピンはそう話していた。
「彼らはあまり大きな責任を負うことはなく、すごく自由なんだ。得意なプレーをしてくれればいい。あとは僕らのような経験あるメンバーが試合をコントロールしようとしている。うまくバランスが取れているよ。若い選手たちは自由を満喫している。単純にプレーを楽しめるのは良いことだと思う」
「松尾はより感情的な選手で、その時その時の判断でプレーするタイプ。スペースやタイミングの使い方をまだ本当にちゃんと理解できてはいないが、足元にボールを渡せば相手を仕留めてくれる。(相手にとって)嫌な気分にさせられる選手だよ! それぞれの選手にそれぞれの力がある。監督の良いところは、選手全員の力を最大限に発揮させてくれることだ。松尾には松尾の得意な部分があって、そういうプレーをする自由がある」
短期的にも長期的にも新たな星が昇りつつある
特別指定選手である松尾は、7月にはヨン・ア・ピンとコンビを組んで東京ヴェルディとのアウェイゲームに3-2の勝利を収めた数日後に、仙台大学の一員として横浜FCと「敵として」戦うという奇妙な状況もあった。だが大学生であるにも関わらず、ピッチ上でもピッチ外でも成熟ぶりと自信を感じさせている。
「みんなそれぞれ自分のタスクがあって、その範囲内で自由にプレーすることが期待されています。チームを助けられるように良いプレーをする必要があります」
甲府戦での活躍後に彼はそう言って肩をすくめた。
横浜FCがこのままシーズンの最後まで無敗を続けていくのは、もちろん難しいことではあるだろう。だがどこかで敗戦を喫することになっても、自分たちの道を見失うことはなく、プレーオフでの失意を味わった昨年の成績を上回ることを目指していく。チームにはその決意が十分にあるとイバは胸を張った。
「監督は毎回の練習でチームにプレッシャーをかけてくるし、選手たちに合ったフォーメーションを考えている。今のチームや今の監督なら、勝っても負けても引き分けても何も変わることはない。今までやってきたのと同じ戦いを続けていく。だから1試合や2試合負けることがあっても、同じようにプレーして立て直すことができるだろう」
「去年起こったことについては選手たち全員が話をしている。もう一度同じ思いを味わいたくはないから、1位か2位で終えられるように必死で頑張っているんだ」
清水エスパルスで2011年から2015年まで5年間を過ごしたヨン・ア・ピンにも、J1に戻りたいという強い思いがある。
「どれだけ思いを込めればいいか分からないほど、本当に強く望んでいる」。町田ゼルビアでも1年間プレーした経験を持つCBはそう語る。
「まっすぐ進んでいきたい。去年は得失点差で(自動昇格を)逃した。4点差だった。シーズン序盤の戦いが響いてしまった部分もある。今年も同じようにスタートでつまずいてしまった。だが監督のやり方には満足している。チームのことをしっかり見てくれていて、自分が何をしているかも分かっている。これからどうなっていくか楽しみだよ」
短期的にも長期的にも、横浜には新たな星が昇りつつある。松尾や中山は今季のようなパフォーマンスを継続することができれば、今後も長年にわたって相手DFたちを苦しめていくことになるはずだ。
(取材・文:ショーン・キャロル)
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