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中島翔哉、アシストで証明した確かな前進。狙い通りの起用法、これから進むべき道は…

中島翔哉がポルトでついに結果を残した。現地25日に行われたタッサ・ダ・リーガ(リーグカップ)のサンタ・クララ戦で決勝点をアシスト。リーグ戦では出番の少ない選手たちが中心に起用された試合で背番号10を機能させた監督の狙いはいかなるものだったのか。そして今後克服していくべき課題とは。(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

普段とは違う戦術の中で

中島翔哉
現地時間25日に行われたリーグカップ、サンタ・クララ戦に先発した中島翔哉【写真:Getty Images】

 試合開始早々からエンジン全開だった。現地25日に行われたタッサ・ダ・リーガ(ポルトガル・リーグカップ)の3次ラウンド・グループリーグ第1節で、ポルトに所属する日本代表MF中島翔哉がサンタ・クララ戦に先発出場した。

 2分、センターサークル内でボールを持った中島は、そのままドリブルで右サイドへと駆け上がり、GK強襲の力強いミドルシュートを放つ。両チームを通じたこの試合のファーストシュートだった。

 すぐにある友人からスマートフォンにメッセージが入った。

「中島が継続的にやっている最初の動きを見た? まずポルトがボールを持った時、MFの1人がディフェンスラインまで下がって3バックを形成しているよね。それによって中島は内側のゾーンに入り、相手MFの背後を取る。そしてチームメイトがボールを持つと、オフ・ザ・ボールの動きで外側に動いて深さを作るんだ」

 送り主はフランシスコ・マトス氏。地元ポルトで個人の技術や戦術の向上に焦点を当てたアカデミーを運営している友人だ。彼のもとにはリスボンの名門スポルティングCPのキャプテンで、ポルトガル代表でも活躍するMFブルーノ・フェルナンデスも教えを請いにやってくる。

 確かにマトス氏が指摘したように、ポルトは序盤から普段のリーグ戦などとは全く異なる戦術的アプローチで組織全体を動かしていた。もちろんメンバーが大幅に入れ替わっている影響もあるだろうが、直前の試合から中2日の厳しいスケジュールの中でもしっかりと機能する状態まで仕上げてきているのは明らかにわかった。

 これまでであれば基本的に全体のポジションバランスを崩すことなく、左ウィングのFWルイス・ディアスは武器である直線的な突破力を生かすためにサイドに張り、右ウィングのFWオターヴィオが幅広く動き回って中盤と前線をつなぐ。

 そして攻撃的な両サイドバックが高い位置を取って相手を押し込み、強力な長身2トップのFWムサ・マレガとFWゼ・ルイスに縦パスやクロスを供給するのが、お決まりの形になりつつあった。

中島に求められた中央でのプレー

 しかし、今回のサンタ・クララ戦は違った。守備時のポルトは4-4-2の形で対応し、攻撃に移ると2人のセントラルMFのうち一方(主にセンターバックを本職とするチャンセル・ムベンバ)がディフェンスラインに入って3バックに近い状態を作る。両サイドバックを高い位置に押し上げるのも先述べた通りだ。

 そうすると見た目は3-1-4-2のような布陣になる。中島はスタートポジションを中央寄りにし、時には右サイドまで流れ、またある時には左サイドに張り出すなど多彩な動きを見せた。この戦術を採用した狙いについて、ポルトを率いるセルジオ・コンセイソン監督は試合後にこう説明している。

「私は中島とロマーリオ・バロに(中盤とディフェンスの)ライン間で、中央のレーンに数的優位な状況を作って欲しいと考えていた。サンタ・クララはこのスペースをうまく塞いでいたため難しかった。常に相手に迷いを与えたFWたちの働きは重要だった」

 サンタ・クララとは22日のリーグ戦で対戦したばかり。3日前にポルトと対峙したサンタ・クララは守備時に5-4-1に変化する3-4-2-1をベースにしていた。だが、今回は4-3-2-1を採用してきた。ディフェンスラインの人数が減って周辺にスペースができやすい状況になることを、コンセイソン監督は読んでいたのだろうか。

 相手の2人のセンターバックがポルトの2トップを封じようとしても、その背後のスペースから別の2人が出てくる。左右問わず動き回る中島とロマーリオ・バロを捕まえるのは難しく、サンタ・クララの守備には混乱が生じたはずだ。

「(サンタ・クララの)ジョアン・エンリケス監督は、前の試合が終わった後、『チームには積極性が欠けていた』と話していた。今日の試合で我々は組織として機能し、かつアグレッシブなチームと戦った。先発メンバーを9人変更し、試合へのアプローチにおいても、わずかに違うやり方を提示した。誰もが素晴らしい振る舞いで、チームとしてのダイナミックさで相手より優れていた」

 コンセイソン監督はこのように、直近の試合との違いについて述べていた。中島とロマーリオ・バロに中央のスペースを攻略させる戦い方は、急造チームでも確実に相手を苦しめていた。先制点も中央突破を試みようとした中島が獲得したフリーキックから生まれる。

ドンピシャクロスで決勝点をアシスト

 センターサークルでボールをセットしたMFブルーノ・コスタは、一瞬の気の緩みを感じたか、すぐにペナルティエリア内には蹴り込まず、左サイドに開いていたDFアレックス・テレスへのパスを選択する。

 パスを受けたアレックス・テレスが顔を上げるのとほぼ同時に、呼応した中島がペナルティエリア手前から膨らむような動きで左サイドに流れる。ブラジル代表の左サイドバックは背番号10の動き出しを見逃さず、浮き球で中島へ絶妙なパスを通した。

 そして、中島は正対した相手ディフェンスを鋭い切り返しで剥がし、右足でクロスをペナルティエリア内へ。ゴール前にはDFジオゴ・レイチが飛び込んでおり、その頭に高速クロスがピタリと合った。

 後半になると、中島へのマークは一層厳しくなる。若干荒れ気味になる中で、小柄な日本人アタッカーにも容赦ないタックルが浴びせられる場面が増えた。その中で、背番号10は無闇なドリブルにこだわるのではなく、少ないタッチでシンプルにプレーすることで周囲の選手たちと連係を築いていく。触ればゴールという惜しいクロスも放った。

 彼の高度なテクニックに、会場も沸く。74分には相手のマークを受けながらパスを受けると、華麗なターンと高速フェイントで複数の選手を一瞬にして置き去りにし、どよめきが起こった。それぞれがアピールに燃えるポルトの中でも、中島の存在感は際立っていた。

今後に向けた課題は?

 ただ、課題がないわけではない。おそらく共に試合をこなした経験の少なさによるものだが、中島も周りの選手もお互いにパスを出すあるいは受ける最適なタイミングを図りかねているようなシーンも散見された。

 中島は常にボールを持つことを好み、身振り手振りも交えながらパスを要求し続ける。それでもなかなかパスが出てこない時間帯もあり、そうなるとディフェンスラインの手前まで徐々にポジションを下げていってしまうこともあった。全体のポジションバランスを考えれば、多少なりともリスクのあるプレーだ。

 マトス氏からも、ボールを要求するあまり周りが見えなくなってしまいがちな傾向を指摘するメッセージが試合中に届いた。

「彼のボールを持っている時のダイナミックさとスピードは、1タッチや2タッチでシンプルにプレーしている時には効果的だ。間違いなくハードワークも試みている。でも、私が思うにどこにポジションを取らなければいけないのか、チームメイトはどこにいるのか、そういったものへの理解はもっと深めることができるだろう。より素早くクリアな判断を下すためにもね」

 課題とされた守備面には確実な向上が見られる。ポルトがボールを失えば、中島はすぐに自分のポジションへ戻って首を振りながら、相手のサイドバックにプレッシャーをかける。時には味方のカバーにも走る。

 アシストという結果を残してポルトでの活躍に光明を見出しつつある中で、この試合に満足することなく、今度は攻撃面で自分の持ち味を発揮しながらチームの勝利に貢献するためのベストな答えを探していくことが重要だ。

 直線的な縦への突破を武器とするルイス・ディアスと争い、彼以上のパフォーマンスや、彼にない価値をチームに提供するにはどうすべきか。どんな形で、どういう動きをすれば自分の力を最大限に発揮できるのか。おそらく今後増えていくであろう出場機会の中で、トライし続けて答えを見つけていかなければならない。

 サンタ・クララ戦でわかったのは、中島のポテンシャルはまだまだ引き出せるということだ。

(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

【了】

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