立ち上りこそ若干不安定だったものの
0-0で迎えたジェノアvsボローニャ戦の77分。細かくパスをつないでカウンターに出たボローニャは、エリア内でロベルト・ソリアーノがファウルを誘いPKを奪取した。この攻撃の出発点となったのは、冨安健洋のインターセプトからだった。
相手の攻撃を読み、前に出てパスコースに体を投げ出してボールをカット。そのボールは前に流し、味方へとつないだ。そこからボローニャはカウンターを加速させて、ジェノアゴールへ迫ったというわけだ。ただ残念ながら、そのPKはニコラ・サンソーネが外してしまった。
結局試合はスコアレスドロー決着。もっともアウェーで得た勝ち点1は貴重だし、無失点でもある。前節のローマ戦ではアレクサンドル・コラロフの攻撃に圧され、地元メディアからも低評価を下されていた冨安は、ジェノア戦でパフォーマンスの修正をきちんと図っていた。
立ち上がりは若干不安定だった。3分にバックパスをしようとしたところで、対面の左ウイングバックであるアントニオ・バッレーカに詰め寄られボールを失った。そのあとでカバーに戻るが、レイトタックルは明らかでファウルを取られる。さらに主審からは、イエローカードも提示された。
冨安はその後もしばらく、対面の左MFバッレーカに侵入を許した。図式は、ローマ戦と一緒である。チームがボールを保持しているときには3バックとなるが、前線でプレスがかからず対面の選手がスペースに出てくると、中を見ていた冨安がサイドにスイッチしてもタイミングが遅れてしまう。
しかも冨安の前にいるのは、攻撃的なリッカルド・オルソリーニだ。右サイドの中盤に開いたスペースを狙われ、攻撃を許した。ジェノアは前線から中盤までがきちんと守備に参加。アウェーでもボールを支配して攻撃的に試合を進めようとするボローニャを、プレスからの速攻で仕留めにかかる。スピードに乗ったバッレーカの突破は、その柱の一つだった。
尻上がりに上昇。後半は逆に主導権を握る
だが冨安は、時間の経過とともに落ち着きを取り戻した。ローマ戦と違ったのは、組織の修正が掛かったことだ。前節はトップ下だったソリアーノが4-3-3のインサイドMFとして左にシフト。またカバーリングについても、隣にいるCBのマッティア・バーニやアンカーのガリー・メデルらとコミュニケーションを取り合った。
そうして条件が整えられてくると、徐々にバッレーカに対しても適切な距離とタイミングでの対応が可能になった。裏を狙って走ってくる相手に対し、先んじて回り込んで侵入コースを切る。ローマ戦では圧力に押されて引き気味になっていたが、高い位置からプレスを掛けて、相手の攻撃を摘み取る守備もできるようになっていった。
尻上がりに調子を上げた冨安は、後半は逆に主導権を取れるようになった。攻めてくるバッレーカに対して1対1で対峙し、突破を図ってくる相手から逆にボールを刈り取る。高い位置から詰めて動きを遅らせたかと思えば、クロスのコースを制限させて味方に取らせるという守備も行っていた。
主導権をとったのはサイドの攻防だけではなく、空中戦においてもだ。47分のCKにおける守備の前では、スクリーンを使って撹乱を図るDFクリスティアン・ロメロから目を離さずにヘディングでボールをクリアすると、その直後にもロメロの前方に立ちはだかってシュートを止めた。
相手がミドルボールを前線に飛ばそうとした時も、安定したヘディングで弾き飛ばす。これまでの試合では188cmという背の高さとは裏腹に、ヘディングのクリアが安定していない面もあった。しかしこの試合では、味方と細かく意思疎通。積極的に落下点へ入り、安定して前方へ弾き飛ばすクリアを心がけていた。
両チーム最多の77回。そのデータとは?
そして、開幕2戦で見せていたような攻撃での積極性も取り戻していた。攻守が入れ替われば、サイドを縦に爆走してオルソリーニを追い抜き、対面のバッレーカを引きつけてチャンスを作った。
さらに、パス回しにも積極的に参与。両足を巧みに使いながら相手のプレスをかわし、前線に走り込んだFWの足元へパスを通し、ポゼッションの場面ではソリアーノやオルソリーニとコンパクトな距離感を保ち、さながらMFのようにパスを交換しあっていた。
このパス回しの参与という点は、このチームの戦術において冨安の存在が重要なものとなっている証左となっている。ボローニャはホームでもアウェーでも、変わらずにラインを上げ、パスをつないで攻めてくるのだ。
果敢にプレスへ来た相手のジェノアだが、ボローニャの素早いパス回しで翻弄されたのち、60分過ぎから足を止めた。そのベースとなるものは最終ラインから始まっており、その点では冨安もかなりの部分に参与している。セリエAの公式スタッツによれば、冨安のタッチ数は両チーム最多の77回を記録した。
「今日はボールを奪えてからがうまく展開できていたし、後方からの組み立ても落ち着いて、また組織的にできていた。ローマ戦では最後にミスはしたが、それもまた若いチームが育っていくために必要なことだった」
シニシャ・ミハイロビッチ監督の代行として記者会見に応じたエミリオ・デ・レオ戦術担当コーチは、チームをそう評価していた。その中に、冨安がきちんと溶け込んでいるということが重要なのだ。
次節は中3日でウディネーゼと対戦する。アウェーでも変わらず勝負を仕掛けるチームの中にあって、冨安が引き続き存在感を高めていけるかどうか注目だ。
(取材・文:神尾光臣【ジェノバ】)
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